皇帝の交代
驚くことばかりだった。皇帝襲撃後、しばらくして、皇帝ラインハルトは崩御した。
つい最近、筆頭魔法使いハガルとラインハルトは、ちょっとしたことで喧嘩していた。襲撃に加わった者たちの処遇だ。ハガルは何故か、命令で動かされた者たち全てをそれなりの処罰をするだけで、生かしたのだ。処刑は、命令をしていた者たちだ。処刑には、王都の貧民街の支配者が入っていた。それほどの大物は処刑したが、命令で動かされていた者たちは、懲役を与えられるだけで終わったのだ。その懲役も、かなり短い。一年で自由になる者までいた。
俺でも、どうかと思った。なぜ、不穏分子を外に放流するのか? 何か考えがあるのか、それとも、ただの遊びか、判断がわからない。ハガルがやることは、経過はともかく、結果は良いことばかりなのだ。
わざわざラインハルトを囮にして、皇帝襲撃を誘発させた。これは、最大の失策だと思われた。物凄い金と人を動かして、大変なこととなったのだ。
ところが、終わってみれば、筆頭魔法使いハガルの独壇場のような情報操作をされていた。そりゃそうだ。帝国全土にハガルは妖精を顕現させ、綺麗な花の雨を降らせたのだ。こんな事、神がかりである。
ハガルは、平民寄りである。育ちもそうだが、ともかく悪い遊びを平気でするので、顔が知られていた。そんなハガルが行った奇跡である。平民たちはハガルを身近に感じ、奇跡を起こしたハガルに畏敬も抱いた。
ハガルのご機嫌をとっていれば、平民は平和なのだ。実際、ハガルは王都だけでなく、聖域の慰問ついでに、各地でそれなりに顔を売っていた。それが、あの奇跡で、良い方向へと働いたのだ。
さらに、ハガルは容赦なく貴族を処刑した。ただの処刑ではない。一族郎党を滅ぼす、妖精の呪いの刑である。首謀者である貴族に刑を執行するのだが、これ、罪さえ犯していなければ、不発になる。判断は、神なのだ。そして、神の審判によって有罪となった時、貴族を含む一族に呪いが降り掛かる。
この刑罰の恐ろしい所は、一族なのだ。善人でも悪人でも、一族というだけで、呪われる。そして、思わぬ不貞で跡継ぎが実は血のつながりがなかったことが表沙汰となったり、ととんでもない方向へと飛び火したのだ。この刑罰の発動まで、帝国中に新聞を使って喧伝された。帝国は情報を全て表沙汰としたのだ。どこそこの跡取りに呪い発動が、ということまで新聞を賑わせた。こうして、貴族の血筋の正当性まで粉砕した。こういう話、平民は大好きだ。だから、さらにハガルの人気は上がったのだ。
経過はともかく、結果は良かった。皇帝崩御に、ハガルの愛する皇帝であるために、帝国中が悲しんだ。
ここまでは、いい話なのだ。しかし、当事者はそうではない。
俺は皇帝ラインハルトの臨終の場に立ち会わされた。ハガルは、すでに、ラインハルトの死期を知って、あらゆることを進めていたのだ。力の強すぎる妖精憑きでは、よくある話だ。
つい最近は、若々しい姿だった。なのに、臨終では、とんでもなく老いさらばえていた。
「ハガル」
そして、臨終の場でも、ラインハルトが最後まで呼び寄せるのは、筆頭魔法使いハガルである。
ラインハルトには子も孫もいる。だが、ラインハルトは手をつけた女にも、血縁にも、一切、見向きもしなかった。最後まで、執着したのは、子よりも可愛がっている魔法使いハガルだ。
「こちらにいます」
ハガルはラインハルトの手をとる。宝物のように握り、縋るようにハガルはラインハルトを見た。
「帝国を、頼む」
よりによって、最後の言葉は、帝国のことだ。
ハガルは苦笑した。ラインハルトの死期を知っていたハガルは、十分、お別れもしただろう。様々な命令も受けていた。
「かしこまりました」
そして、その手を額に押し当てて、ハガルは泣いた。その瞬間、ハガルの偽装が剥がれた。
ほんのわずかだ。見ている者はいないだろう。皆、それどころではないのだ。これから、やらなければならないことがたくさんある。
その一瞬の隙をついて、ハガルは皇帝ラインハルトにこの世で一番美しいと思われるものを見せた。それは、ハガルの真の姿だ。
最後にハガルの真の姿を見て、ラインハルトは満足そうに笑って、息を引き取った。
すぐに、医師をハガルは呼び寄せる。医師によって皇帝ラインハルトの死が確認されて、とうとう、崩御の報告が伝達されていった。
これから大変なことになる。次の皇帝を選ばなければならないのだ。
皇帝を決める方法は二つだ。一つは、皇帝が生きている内に指名である。しかし、ラインハルトは誰も指名しなかった。
残る一つは、血の濃さと優秀さを試験するのだ。また、あの皇族の儀式を行うのだ。最低限、筆頭魔法使いに靴を舐めさせなければならない。
ちなみに、俺は筆頭魔法使いに靴を舐めさせられるのだ。だから、俺も皇帝候補なのだ。しかし、俺は年齢で除外される。
皇帝は在位をそれなりに長くすることで、皇族の権威を上げるのだ。だから、それなりに若い者たちから皇帝は選ばれる。血筋と、能力がしっかりしていれば、皇族教育の途中の子どもでも皇帝になれるのだ。
まずは葬儀だ、と皇族たち、重臣たち、城の者たちが忙しく動いている中、筆頭魔法使いハガルは、ある皇族の前に跪いた。
「どうか、私の皇帝となってください、アイオーン様」
そして、ハガルは皇族アイオーンの靴を舐めて、嫣然と微笑んだ。
「こんな時に、何を考えているんだ!?」
「皇帝が死んだばかりだぞ!!」
皇帝ラインハルトの寵愛を欲しいままに受けていたハガルが次の皇帝を指名するのだ。怒る皇族は多い。
「これは、ラインハルト様と、生前、話し合って決めていたことです。ラインハルト様は、皇族の儀式は負担だろう、と次代を決めていました」
「そんな話、聞いていない!?」
「皇族に洩らしませんよ。暗殺されるかもしれませんから。ねえ」
ハガルは重臣のほうを見る。重臣たちは、その指名を知っていた。だから、沈黙する。
ラインハルトの子、孫でさえ知らないことであった。だが、いい事もある。
皇族アイオーンは、皇帝ラインハルトの孫である。この事は、いい事に見える。
「すげぇな、アイオーン」
それを喜ぶ皇族ハイラント。ハイラントとアイオーンは仲良しだ。よく、外で悪い遊びをする、悪友なのだ。
指名されたアイオーンは困っている。皇帝になるつもりなど、欠片ほどもなかったのだ。それはそうだ。皇帝になるつもりだったら、真面目に過ごして、皇族としての役割も果たしている。
ハガルは場を乱しておいて、さっさとアイオーンから離れた。
「では、順序を守りましょう。よく、ラインハルト様にも、そう叱られました」
ラインハルトの死後も、ハガルはラインハルトに縛られていた。
「怖い怖い怖い怖い!!」
やっと神殿に戻れば、俺は私室に入って、机に突っ伏した。
特別に俺の側に城でもくっついていた王都の教皇ウゲンは笑っている。
「あそこから、どうするのか、見物だな」
「あいつ、絶対にハイラントを殺させるつもりだよ!!」
あえてハイラントの悪友アイオーンを指名したのは、それが目的である。
ハイラントは、一度、皇族の儀式で皇帝ラインハルトの怒りを買っている。皇族失格者を勝手に連れ出し、人買いに売ったのだ。その事で、ハイラントを誑かした母親は秘密裡に処刑さることとなった。
この失策、表には出ていない。いなくなった皇族失格者は行方不明のままである。そして、これはラインハルトの失策となったため、表沙汰にはされなかったのだ。皇帝の権威が落ちるからだ。なのに、皇族はこの失策を口にして、ラインハルトの怒りを買い、皇族が見ている前で処刑された。それからは、もう、誰も口にしない。
しかし、ハイラントは完全に許されたわけではないのだ。ラインハルトが生きている間、ハイラントは生きた心地はしなかっただろう。食事会では恐怖に震え、事あるごとに筆頭魔法使いハガルの口を閉ざす命令を発した。それでも安心出来ないので、ラインハルトが死ぬのを待っていたのだ。
だから、ラインハルトの臨終の席では、ハイラントは心底、喜んでいた。ついでに、悪友が皇帝となることで、もう、過去の失態で処刑される心配もなくなった、と安心しているのだ。
「あながち、それだけのために、指名したわけではないでしょう。年齢と血筋では、あれくらいが妥当ですよ」
毎年、食事会を手伝わされているので、ウゲンは皇族の順位を知っている。アイオーンは若者の中では、順位が一番高かった。
「そ、そうだな」
言われて、気づく。話し合って決めたというのだから、そうなんだろう。ラインハルトは死ぬまで皇帝を貫いたのだから、間違ったことはしていない。
「いいではないですか。勝手に殺し合いさせておけば。私はエズル様さえ平穏無事であれば、他はどうだっていいですよ。あ、予算あげてもらえましたね」
ハガル、どんどんと政治に食い込んで、とうとう、教会の予算まで上げてきたのか!? しっかり、ハガルは王都の教皇ウゲンを懐柔していた。細かいな。
しかし、ハガルという人は、ただ、ご機嫌とりをしているわけではない。この予算の増額で、絶対に後々、とんでもないことしてくれるんだよ。
すでに、過去、やってくれた。妖精金貨事件だ。あの時、とんでもない数の呪われた人を神殿は収容することとなったのだ。一応、帝国からもそれなりの金を与えられたが、金じゃないんだよ、人手だよ!! と叫んだとか、どうとか。あの時の呪われた人たちは、王都だけでは裁ききれないため、帝国各地で割り振られたのだ。お陰で、神殿の金不足が一気に解消されてしまったという。結果だけ見ると、良い話なのだ。経過は最悪だけどな!!
だから、俺は予算が増えたと聞いて、絶対に何かハガルはやる、と読んでいた。ウゲン、ハガルを甘く見過ぎだ。
俺は教皇長だが、城は避けている。皇帝が変わっても、俺は相変わらず、神殿に引きこもっている。本来であれば、皇帝アイオーンに挨拶に行くべきなのだが、俺が教皇長を辞めさせられることはないとわかっているから、俺は神殿で大人しくしていた。
そうしていると、お忍びで皇帝アイオーンがハガルを伴って、神殿にやってきた。
「お邪魔します」
「何もないとこですが」
「お構いなく」
来客に向いていない場所である。適当な部屋でおもてなしするしかないのだ。
アイオーンは、俺にぴったりくっついている王都の教皇ウゲンを見て、苦笑する。
「噂では聞いていましたが、本当なんですね。男好きだとか」
そっちか!! ウゲンをそういうふうに、皇族では見られていたわけなんだな。
そりゃそうだ。妖精憑きに好かれている、なんて皇族は言いたくない。俺をどうしても下げ落としたいのだ。そうなると、ウゲンをただの男として見るわけである。
ウゲンはというと、気にしない。どんなふうに見られても、俺を独占出来ればいいんだろうな。
ハガルはというと、特に変化なしである。アイオーンがいるから、いつもの親近感がないな。距離感があって、寂しい。
というか、ラインハルトが亡くなって以来、ハガルとは普通に話してもいない。本来、神殿って、魔法使いや皇族が頻繁に足を運ぶような場所ではないんだよな。ハガルがおかしいんだ。
アイオーンは、言った後で失言のような気になったみたいだ。俺が黙り込んでいるからだろう。
「お邪魔してしまって、すみません。お忍びで出るついでに、一度、挨拶しておきたくて、来ました」
「お忍びって、どこ行くんだ?」
「色々と」
物凄く、イヤな予感がする。これは止めないといけない。
「おいおい、皇帝がお忍びなんて、危ないだろう。やめておけ」
「だから、ハガルと一緒に行くんだけど、ダメかな」
「まあ、最強の妖精憑きだからな」
ハガルと一緒で、アイオーンが危険になることはない。むしろ、危険なのは相手だ。
ハガル、ともかく、何かやらかすんだよな。城の奥でも、城の外でも、ともなく、色々とやってくれたんだ。アイオーンじゃなくて、ハガルがやるんだよ。
「ちょっとした息抜きで、出たかっただけだけど、やっぱりダメか」
「私も、アイオーン様に酒やら賭け事やら、教えてもらいたいことがいっぱいなんですけどね」
「お前はやめろ」
ハガル、どこまで悪い遊びを覚えようとするんだよ。
「でも、ハガルには、成人したら教える約束しちゃったからな」
「今と昔では、お前たちの立場は違うだろう。皇帝と筆頭魔法使いだぞ」
「昔は、自由でしたね」
「本当に」
好き放題してたよな、お前ら二人。知ってるよ。
アイオーンなんて、一皇族だった時は、普通に城の外で悪友たちと遊んでいた。こんな真面目な顔をしているが、そうではないのだ。
「大人しく、城に帰りなさい」
「よし、行こう」
俺が止めても、ハガルは行くんだ。笑顔だよ。
「ラインハルト様が亡くなってから、ちょっと寝つきが悪くて」
だけど、すぐに表情を曇らせる。それを見て、アイオーンは絆された。
その日、あちこちの違法店から、妖精の呪いによって体の一部が変異した犯罪者が多く発見され、神殿は大変なこととなった。
ハガルが聖域の慰問に一度出ると、各地の神殿が大変なこととなった。本当に容赦ないよな。予算増やしたと思ったら、これか!?
そして、ちょっと時間があくと、ハガルは神殿にやってきた。
「最近は、父親の調子はどうですか?」
「ちょっと元気がなくて。友達が欲しいのかな?」
「まだ、死にたいと言ってますか」
「いつも言ってる」
こわっ!? 呪いの塊となったハガルの父親、とうとう、死にたくなったのか。もちろん、ハガルがそれを許すはずがないのだ。
「ほら、綺麗な姿を見せてあげれば、生きる希望も出てくるかもしれませんよ」
「どうだろう。そうだ、地下の囚人で試してみましょう!!」
「却下だー-----!!!」
王都の教皇ウゲンまで、首を傾げてるよ。
「いいか、地下の囚人、呪いが解けたら、外に出すんだぞ。呪いって、永遠に続くものばかりじゃないんだぞ!?」
「心配いりません。永遠に続くように、呪いの種類を変えますから」
「やめてぇえええー----!!」
「そうですよ、手間がかかるというのに」
「各地の神殿も大変ですから、特別報酬も上乗せします」
「まずは、どれにするか選別しましょう」
金の亡者になっちゃったウゲンが裏切りやがった。
俺がどんなに却下したって、ほら、教皇はウゲンだ。地下牢への出入りの許可だって、ウゲンがしちゃえば、ハガルは自由だ。
まあ、ハガルに許可なんて、本当はいらないだろうけどね。ほら、帝国最強の妖精憑きに、この神殿の支配だって乗っ取られちゃうよ。
実際、一度、そういうことがあった。乗っ取ったというよりも、すり抜けたのだ。当時は、ハガルをただの見習い魔法使いと見ていたし、父親に対するハガルのダメっぷりが目立ちすぎて、気にもならなかった。
ウゲンとハガルは仲良く並んで歩いていく。それを避ける神官たちとシスターたち。ウゲンは神殿最強の妖精憑きだし、ハガルは帝国最強の妖精憑きだ。ハガル、普段は偽装して力を隠していたが、王都の神殿にいる神官たちとシスターたちは、ハガルの怒りを買ったことで、妖精憑きの格を上げさせられて、結果、ハガルの隠した力も見えるようになってしまったという。
今、ハガルはどんなふうに見えているのやら。これでもか、と通路の端とか、あと、ハガルが来たと気づいた者は逃げていく。
「なあ、ウゲン、今日のハガルの妖精って、どれくらい憑いてる?」
見えないから、試しに聞いてみた。
『ボクだけだよ!』
「顕現させないでぇ!?」
突然、神殿を襲った妖精が視認化した。いきなりだから、驚いて、ウゲンに後ろから抱きついたよ。
「こら、勝手にしない」
『いいじゃん。どうせ、ここではボクは見られちゃってるしぃ』
力が強いからか、ハガルが命じなくても、勝手に視認化出来るのか。俺は恐る恐ると妖精を見る。いつ見ても、見目麗しい姿だ。だが、ハガルを見た時のような、妙な衝動が起こらない。妖精だからかもしれない。
もう、遠慮がない妖精は、視認化したまま、宙に浮いて、ハガルの横にぴったりとくっついて移動する。
さすがに地下牢が並ぶ地下に行くと、妖精も気持ち悪そうに顔をしかめ、ハガルの体に抱きついた。
『気持ち悪っ。けど、あの父親よりは、遥かにマシだね』
「父は、呪いの根源ですからね。父が私の元に来たお陰で、妖精金貨に影響を受けた者たちも、随分と解放されましたね」
「もしかして、今まで呪いから解放されなかったのは、ハガルの父親のせい?」
「そうです」
簡単に認めるハガル。親子ともども、とんでもないことしてくれるな!?
血の繋がらない父親は妖精金貨を発生させただけでなく、呪いをバラまいていたという。子であるハガルはというと、月に一回の聖域の慰問ついでに、帝国各地の違法店を潰しながら、こちらも呪いをふりまいているのだ。
ハガルは、地下牢にいる囚人を一人一人、確認して、ふと、気になる所で足を止めた。
「こちらの女性は、もう、呪いが解けていますね」
「その女は、訳アリだ」
地下牢は、全て、呪われている者を収容するわけではない。出せない者もいるのだ。
そんなこと、ハガルだって知っている。なのに、その女が気になったのには、理由があった。
「テラスの痕跡が見えますね。呪ったのは、テラスですね」
「そこまでわかるのか!?」
見てもわからない。
ハガルがテラスの名を口にしたから、女は移動してきた。
「テラス様はお元気ですか?」
しわくちゃの老婆だ。いつ死んでもおかしくないほどの高齢である。
「あなたはどうして、ここにるのですか? 見た所、悪事らしい悪事をしたようには見えませんが」
収容されている地下牢の奥には祭壇が備え付けられている。この女は、きちんと祭壇を掃除していた。毎日、お祈りも欠かしていないのだろう。
老婆はハガルの前で膝を折り、汚れた石床を見下ろした。
「人を見る目がないため、友の子を不幸にしました。その罪をわたくしが償うはずでしたが、夫が命をかけて嘆願し、ここに入れられました」
「テラスでも、そういうことをするのですね。真面目な人だと思っていたのですが、私情でこういうこともするのですか」
簡単な説明で満足するハガル。背景なんて、ハガルはどうだっていいのだ。ただ、亡きテラスがやったことに興味を持っただけである。
ハガルは何か思いついたのか、この老婆の前で偽装を外した。
「もし、死んだ後に、テラスに会ったら、元気にしていると伝えてください」
ハガルの真の姿を見た老婆は、驚き、そして涙をボロボロと流して、ひれ伏した。あれだ、お迎えが来たと勘違いしたんだな。




