教皇長になった理由
もともと、女に興味がなかった。しかし、皇族としての教育を受け、それなりに優秀であったため、皇帝としての教育も受け、市井のことを知るために、貴族の学校にも通った。しかし、どうしても女に興味が持てなかった。
そして、貴族の学校に通って、見目がいい貴族の男子に心惹かれた。これで、私は皇族としての役割の一切を放り投げることにしたのだ。
「色々と試してみましょう、エズル」
俺が皇帝ラインハルトに相談すると、出てきたのは賢者テラスである。実は、俺の初恋だ。
見目麗しい男子であるテラスは、女性にとても人気があった。皇族の女性のほとんどは、テラスが初恋だろう。それほどの美男子である。
しかし、賢者テラスは男にも女にも興味がなかった。ただ、帝国のための礎となるように、しっかり教育されていたのだ。俺もそれで諦めたのだが、まさか、相談した先にテラスが出てきてしまうと、さすがにタガが外れた。
「テラス、どうか、俺の想いを受け止めてくれ!!」
そして、容赦なく、テラスは俺の腹を殴った。見事に入った。俺はその場で蹲る。
「う、げほ、そ、そんな」
「いいですか、私にそんなことを二度と言わないでいただきたい。私は一人目の皇帝で、散々なことをされたんです。今でも、夢にまで見るほどのトラウマです」
心底、気持ち悪かったのだろう。俺が触れた所を汚らわしいとでもいうように払った。
「す、すまん、つい」
「いえ、私も大人げないことをしました。あなたが悩んでいるとラインハルト様から相談されたというのに、こんな手をあげるようなことをしてしまって、背中が痛くなりました」
そっち!? 皇族に暴力をふるったことで、テラスは軽い天罰を受けていた。
「い、いや、大丈夫だ。許す、全て許す!!」
俺ももう、ダメだな。苦痛に顔を歪めるテラスを見てしまうと、暴力も、命令違反も心底許してしまう。
そうすることで、テラスの軽い天罰はなくなった。顔もすっかりいつもの穏やかさだ。あ、その顔を俺の前でするから、いけなんだよ!!
「ラインハルト様が最強の血族で良かったです。エズルがそれを越えた時は、私も逆らえませんでしたね」
「そ、そう、なん、だ」
皇帝ラインハルトが心底、羨ましくなった。
そういうやり取りをして後、テラスは私を容赦なく娼館に放り出してくれた。本当に容赦ないよな、この男は。
「無理でした!!」
そして、高級娼館の娼婦が泣いて頭を下げてきた。
テラスが試す前から、俺なりに試したのだ。こういうプロから、俺に媚びを売ってくる貴族の女子まで。しかし、どれにも俺は全く反応しなかった。なのに、見目麗しい貴族の男子には反応したのだ。もう、どうしようもない。
「見た目が男っぽい女を出してこい」
しかし、テラスは容赦なかった。
そして、また、放り込まれる俺。テラスにはどうしても逆らえないのだ。初恋だから。今だって、テラス相手だったら、なんて考えるほどだ。
「も、申し訳、ごさい、ません」
そして、見た目男子っぽい女は、テラスの前で半泣きになりながら土下座した。この女、可哀想に、まだ経験が少ない、素人に毛が生えた程度の娼婦であった。それで俺が出来ないと思ったのだろう。
「いや、お前が悪くない。悪いのは、エズルだから」
そして、責められるのは俺である。えー、俺だけが悪いのか!?
「し、しかし、これで、料金をいただく、のは」
高級娼館の主はガタガタと震える。いつもだったら、こんなの、偉そうに金を請求するのだが、賢者テラスの前では、そういうわけにもいかないのだ。相手は、帝国で二番目に偉い男だ。
「もう、黙って受け取れ。お前たちが悪くない。仕事をしたんだから」
「そうです。仕事出来ないエズルが悪いのですから」
「………」
容赦ないな、テラス!! 俺が役立たずと人前で言い放ったようなものである。
テラスがそういうから、娼館の者たちは、恨めしいとばかりに俺を見てくる。あ、うん、俺が悪いよね、ごめんなさい。
そうは言っても、この問題、大変なことである。何せ、子作りが出来ないのだ。
皇族は、その血筋が重要だ。帝国は儀式を使って妖精憑きを集め、その中で最強の妖精憑きを儀式によって皇族に絶対服従させるのだ。そのため、皇族の血筋は絶えさせてはならない。
皇族は、最強の血筋であり、帝国の支配者であるから、政治の上でも重要である。しかし、最も重要なのは、血筋を健全に保つことだ。皇族は絶対、結婚し、子を為さなければならない。そのために、城の奥に、広大な皇族の居住区を作り、守り、皇族の血を継代してきたのだ。
しかし、このままでいくと、俺はこの皇族としては絶対重要とされる子作りが出来ないかもしれない。
「困りましたね、エズルはそれなりの血筋ですし、皇族の儀式も通って、優秀な成績で、ともなく、皇族失格にするには、欠点らしい欠点がありませんね」
「失格になるの!?」
「このままでいくと、そうなりますね。せめて、一人は作ってください」
「え、その、あの、はい」
色々と言い訳を考えるも、ギロリとテラスに睨まれると、頷くしかない。
しかし、見た目男の子と見紛う若い娼婦であっても、これっぽっちも反応しないとは。
そして、再び、皇帝ラインハルトに相談である。
「どうしてテラスに話すんだよ、あんたは!?」
よりにもよって、テラスに話したラインハルトを責めてやる。この野郎、俺がテラスのことを今も想っていることを知っていて、なんてことしてくれたんだ。
対するラインハルトは、私室で大笑いである。
「あははははは、そこでテラスに命じれないお前がダメなんだよ」
「出来るか!? お前みたいに、好き勝手に食い散らかすほど、非常識じゃないよ」
「だから、仕方なく皇帝をしている」
皇帝ラインハルトは、俺から見ても最低なのだ。女好きで、寄ってくる女全てに手を出したのだ。そして、簡単に捨てた。貴族の学校で、泣いた貴族の女子は多かったと聞いている。今も語り継がれて、俺が生徒会の役員になって聞いちゃうくらいだよ!! しかも、この男、俺が生徒会に所属している時、才女カサンドラにも手を出そうとしたのだ。しかし、カサンドラは持前の知略で、見事、ラインハルトを撃退したが。本当に、ろくな男ではない。
それほどの女好きは、俺の相談の後は、また、女と閨事である。
「どうして、子作りが絶対なんだ!?」
「絶対ではない。逃げ道はいくつかある」
「どうやって? テラスは絶対に納得するのか?」
他はそんなに怖くない。テラスが怖いのだ。おもに、嫌われるかもしれない、という点である。
すでに、嫌われているがな。テラスは一人目の皇帝に騙されるように閨事を強要されたのだ。その事実から、テラスは俺のような男好きの男を嫌っている。
俺が皇族だから、仕方なく、テラスは俺が側に行くことを許しているだけである。そうでなければ、側にも寄り付かせないだろう。まず、側に寄った時点で、消し炭だ。
それでも、ラインハルトが提案する方法に望みをかけた。
「テラスを騙しての方法であれば、父親のわからない妊娠した皇族の子を認知すればいい」
「バレるだろう!!」
テラスは百年に一人生まれるかどうかの才能ある妖精憑きである。絶対にバレる。
「ん、まあ、そうだな。バレるな。だけど、テラスは見逃してくれるぞ」
「他には?」
「努力だな。そういう気持ちになる女を探すんだ。こういう場合、テラスに似た女を相手にしてみろ」
「あー、それ、試した」
王都にある娼館をかたっぱしから行って、見た目がテラスよりっぽい女で試したのだ。しかし、豊満な胸に触れたり、下半身を見て、一気に萎えた。つまり、女の時点で無理なんだ。
「もう、そこは病気だな。思い込みも入ってるぞ、それ。義務感から、強迫観念を抱いて、おかしくなってるな」
ラインハルトに同情するように見られた。
「ラインハルトが羨ましい!!」
「そうでもないぞ」
悩みでもあるような顔をされる。
ラインハルトは俺から見ても、完璧な皇族である。あ、妻とその身内は最低最悪だけどな。どうして、あんな外れな皇族の女を妻に迎えたのか、よくわからんが、血筋だろう。
ラインハルトの子はそれなりにいる。皇妃の子だって、それなりだ。ラインハルトが手をつけた貴族からも、皇族からも出ている。その中で、将来有望かもしれない皇族が続々と出てきているのである。
俺は、ラインハルトの甥である。ラインハルトは俺から見て伯父に当たる。俺の父もまた、それなりの教育を受け、それなりの実力のある、立派な皇族である。なのに、俺みたいな子作りが出来ない子どもを持つとはな。可哀想に、と言われるかというと、俺の兄弟姉妹は問題ないので、誰も気にしていない。たまたま、失敗作の俺が出来たにすぎない。それに、俺が子作り出来ないことを家族は責めない。
それは、ラインハルトもだ。俺なんて、たくさんいる内の一人の甥だ。特に気にしていない。俺だけが気にしているだけである。
だから、真摯に相談に乗ってくれるのだ。テラスをよこしたのも、俺が元気になれば、程度だろう。
「もう一つ、これは、最後の逃げ道だ。どうしても、という時に使う手段だな」
「どうすればいい?」
「教皇長になればいい」
教皇長とは、神殿の最高責任者だ。基本、この教皇長は皇族が行うこととなっている。しかし、これは皇族にとって閑職である。何せ、城の外に出て、貴族だけでなく、平民にまで接して、時には教えを説くようなことをするのだ。
皇族にとって、教皇長となることは、恥だ。しかし、政治の上でも、聖職者の支配も皇族がしなければならないのだ。
過去に、帝国が一度、滅びそうになった時、神殿までやらかしたのだ。妖精憑きを蔑む、神殿の権威をあげようと、魔法、魔道具、魔法具などの資料を全て焚書したのだ。そうすることで、妖精憑きを神殿より下にしようとしたのだ。その結果、とんでもない穢れを聖域に放たれ、たくさんの魔法使いを死なせることとなった。
本来であれば、聖域に異常があった時、真っ先に前に出るのは神殿である。そのため、神殿には魔法使いになれないが、それなりの実力がある妖精憑きが神官として配置されていた。その神官でさえ、神殿は捨て駒のように死なせたのである。
こういう凶事を行ったこともあり、今では、神殿の監視は厳しい。そして、最高責任者である教皇長をあえて皇族にすることで、宗教まで支配している。
絶対に重要なのだが、ものすごく危険で、面倒臭くて、何より、恥のような役職である。
「それはいいな」
しかし、俺としては、色々と言われる城の中よりも、外で好き勝手やっているほうがよかった。
正直、貴族の学校に通って、王都を色々と回った。市井に触れて、そっちのほうが空気にあっていた。
まあ、俺が皇族だから、皆、いい顔をしていたのだろう。それくらい、空気は読める。
「それでいいというのなら、教皇長をお前に任せよう。正直、助かる。いや、むしろ、良かった」
「あれだろ、血の流出が絶対ないとわかっているからだな」
「悪い」
心底、申し訳ない、という顔をする皇帝ラインハルト。
皇族の血筋の流出は、後々、大変なこととなる。今のところ、皇帝ラインハルトを越える皇族の血筋は出ていない。しかし、万が一、外で野放しとなっていた場合、運が悪いと、帝国を乗っ取られることがある。
そういうことを防ぐために、皇族の手つきとなって妊娠した女は皇族の親として城に保護される。そして、子どもが皇族かどうかわかるまで、丁重に扱われるのである。子が皇族であっても、皇族でなくても、親はそれなりの褒賞を与えられ、放逐となるが。よほど、皇族側が惚れこまなければ、手つきの女は城に残れない。
俺はもう、女にこれっぽっちも衝動が持てないことは、色々と試してはっきりしている。だから、帝国としては、丁度いいのだ。何より、死んだって、痛くも痒くもない。どうせ、子作りが出来ないのだから。
そう簡単に死ぬことはないが。俺は皇族である。帝国最強妖精憑きである賢者テラスが契約により、皇族を守っている。それは、子作りが出来ない俺もだ。だから、俺は一生、殺されることもなく、病気をすることもない。
「たまにでいい。テラスに合わせてくれ」
「テラスが了承するならな」
「そこはうまく、説得してくれよ!!」
「テラスの心の傷は深いからなー」
そこは、ラインハルトといえども、どうしようもなかった。
こうして、俺は死ぬまで教皇長をすることとなった。
教皇長をすると、イヤでも妖精憑きと接することとなる。城では、妖精憑きというと、賢者テラスと、それに従う上位の魔法使いたちである。皆、きちんと教育されていて、テラスの目が隅々まで光っているので、礼儀はしっかりしているのだ。
しかし、神殿にいる妖精憑きはそうではない。いや、それなりに教育を受けているのだ。しかし、完璧ではない。俺が見ている魔法使いは、貴族の前に出ても問題ないように教育されるのだ。しかし、神殿行となった妖精憑きって、結局、市井に下るようなものだ。だから、最低限の教育である。
そのため、自尊心が高い。
「聞いてよ、教皇長!!」
「本当に、腹が立つ奴が見習いにいるんだ!!」
「あいつが見習い魔法使いなんておかしい!!」
ある期間、神殿送りにされた妖精憑きたちは、決まって、ある見習い魔法使いのことを悪く言っていた。
「ハガル、大した妖精憑きでないってのに、大魔法使いアラリーラ様の側仕えに居座ってるんだよ!!」
「俺よりも下だってのに」
「くっそ、格だって大したことがないのに、どうして、あいつが見習い魔法使いに残ってるんだよ」
負け惜しみにしか聞こえない。
こういうことをいう奴らだから、妖精憑きとして格を落として、魔法使いになれなかったのだ。
最近、神殿送りとなったのは、元は魔法使いとなった妖精憑きたちだ。魔法使いになる、ということは、かなりの実力である。本来であれば、生涯、魔法使いである。それが俺の知る常識だ。皇帝教育まで施されたので、それが普通なのだ。
しかし、稀にだが、行いが悪過ぎて、神からも妖精からも見捨てられ、妖精憑きとしての格を落とすことがある。そういう妖精憑きは、魔法使いとしての実力が足りないため、神殿送りとされるのだ。
魔法使いの実力が足りない、ということは、最低限のことが出来ないということである。これは、魔法使いとして恥なことだ。何せ、妖精憑きは神の使いである妖精と一緒に誕生するため、物凄く自尊心が高いのだ。本来ならば隠すのだが、彼らは再試験を受けさせられ、魔法使いでなくなったのだ。
その原因となったのが、見習い魔法使いハガルである。
話では聞いたことがあるが、教皇長となってから、俺は皇族での仕事は一切行っていない。まず、皇族としての茶会すら参加していないのだ。だから、俺は見習い魔法使いハガルのことを噂でしか知らなかった。
しかし、目の前で苦言を呈する魔法使い失格者のことは、報告としてよく知っている。
「お前たち、皇帝に魔法を使ったんだってな。それはさすがに賢者テラスだって怒ることだ」
格が下がったかどうかはわからないが、不祥事を起こした魔法使いが神殿行となることも、よくある話である。格云々以前に、絶対にやってはいけないことを魔法使いとしてやってしまったのである。
そう責められて、妖精憑きたちは気まずいみたいに黙り込む。
「良かったな、神殿送り程度で。テラスが本気になれば、妖精憑きでいられなく出来たぞ」
テラスが本気になれば、妖精憑きたちが生まれ持つ妖精を盗ったあげく、支配権もテラスのものに出来たのだ。そうなったら、もう、妖精憑きの能力がある、ただの人である。
俺の目ではわからないが、報告では、この神殿送りとなった妖精憑きたちは、不祥事を起こしたが、きちんと妖精は元に戻されたのだ。しかし、妖精憑きとしての格が落ちてしまったので、神殿に送るしかなかったのだ。
妖精憑きは生涯、帝国の物だ。そのために、帝国は金をかけて妖精憑きを魔法使いに育てる。妖精憑きの力は霞みたいな小さいのもあれば、化け物みたいな強大のもある。その全てを帝国が所有し、支配するのだ。そうすることで、帝国民は、安寧を与えられると安心する。
例え、妖精を失った妖精憑きといえども、その体は貴重だ。それなりの場所に移動となる。魔法使いに関わる文官たちもまた、力の弱い妖精憑きがなるものだ。妖精憑きを育て、生活する魔法使いの館の維持も、力の弱い妖精憑きが下働きとして行っている。
神殿送りは、実は、ましなほうなのだ。ただ、神官やシスターとなって、市井に関わり、いざという時、妖精憑きだけが仕える魔道具や魔法具を持って戦うのだ。そのために、体だって鍛えているし、道具の使い方の熟練度もあげている。
そういう裏事情を俺は知っている。テラスはまだまだ優しいのだ。
ところが、魔法使い失格者どもは、気まずいみたいに黙り込む。
「どうしたんだ? 妖精、返してもらったんだろう?」
「テラス様じゃない」
「見習い魔法使いハガルがやったんだ」
「俺たちの妖精を盗ったのは、ハガルだ」
「はあ!?」
とんでもない話だった。
さっきまで、見習い魔法使いハガルは、大した妖精憑きではない、と言っていたのに、こいつらの妖精全てを盗ったのは、当の見習い魔法使いハガルだという。
「おかしいだろう!? 普通、妖精を盗るには、相手よりも格上じゃないと盗れないと聞いているぞ」
「なにか、やったんだよ、あいつ」
「アラリーラ様に気に入られているから、アラリーラ様が助力したんだ」
「そうに違いない」
「それじゃあ、どうしようもないな」
俺くらいになると、大魔法使いアラリーラの裏事情を知っている。だから、名前だけだが、見習い魔法使いハガルのことも知っていた。
大魔法使いアラリーラは、表向きでは、とんでもない妖精を支配する妖精憑きとされている。しかし、実際は、妖精に溺愛されるただの人だ。ただ、そこにいるだけで、妖精に愛され、また、妖精憑きが生まれ持つ妖精まで支配してしまうという。その力は神級だ。
帝国では、このような人が誕生すると、ご機嫌をとり、寿命で死ぬまで、ともかく気を付ける。そうしないと、帝国が滅んでしまうのだ。
アラリーラが発見された当時、様々な議論が起こったが、結局、アラリーラを妖精憑きとして保護し、将来は大魔法使いとなる、ということから、きちんとした教育を施した。そうして、存在しない大魔法使いという肩書を与え、皇帝の次の位を与え、敬ったのだ。
ここまで高貴だと、それなりの側仕えというか、世話人が必要となる。しかし、相手は大魔法使いである。ただの人が側仕えをするわけにはいかない。仕方なく、魔法使いや見習い魔法使いをあてがったのだ。
しかし、大魔法使いアラリーラは、どの魔法使いも、どの見習い魔法使いも、満足しなかった。いや、表面では気にしていないのだ。しかし、内心では気に入らなかったのだ。そのため、だいたい、長くて一か月ほどで、側仕えは入れ替えされた。
ところが、見習い魔法使いは齢五歳のころからずっと、大魔法使いの側仕えを続けている。
この事実に、自尊心のバカ高い妖精憑きたちは嫉妬したのだ。
それも、実力のある妖精憑きであれば、我慢しただろう。だが、魔法使いからも、見習い魔法使いからも、ハガルは大した妖精憑きではない、と判断されてしまうのだ。
その大した妖精憑きでないハガルに、目の前で不貞腐れている妖精憑きは負けたのだ。妖精憑きの戦いは、妖精の盗りあいである。妖精を全て盗られた者は敗者である。妖精のいない妖精憑きは、ただの人以下だ。その後は、人の暴力に屈することとなる。
この矛盾に、俺は興味を示した。
俺が城からも、魔法使いからも離れて随分と経った。皇族だって、俺のことは、「あ、いたな」という程度の認識になっていた。それほどの時を神殿で過ごしていたのだ。
「ちょっと、会ってみたいな、その見習い魔法使いハガルに」
話で聞くハガルに、興味を持つこととなった。