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俺だけがセーブできない世界  作者: リウイチ
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第8話 宿と来訪者

8話 宿と来訪者




会計を済ませ、セレスと共に店を出た俺は、今日泊まる宿を探す事にした。

街の外で夜を過ごすより、見知らぬ者が行き来するこの街に潜伏した方が逆に目立たずに済むだろう。

以前のように、外で魔族に襲われても困るしな。

「セレス、今日は街に泊まるぞ。」


「わかりました!うっぷ。」

膨れたお腹を抑えながら歩くセレス。食べ過ぎだ。


宿泊費が安過ぎる宿はなるべく避けよう。

安い宿に泊まると、宿泊の情報が裏組織に流され、なにかと揉め事に巻き込まれる可能性があるからだ。

特にこの街は他と比べて少し治安が悪い。

セレスの身の安全も考え、そこそこ良い宿を見つけるとしよう。


「よし、ここにしようか。」

5階建てで見晴らしも良く、外の状況も把握しやすそうだ。


「わあ、高いし高そうです!」

セレスは建物の上を見上げて驚いていた。


宿に入ると、ロビーには小さな酒場があり、その奥に受付があった。


「いらっしゃいませ。お二人様ですね。何泊になりますか?」

かなり綺麗な服装の店員だ。少し値の張る場所を選びすぎたか。


「1泊だ。隣同士になる部屋を2つ頼む。」

空いていれば良いのだが。もし無いのであれば仕方がない、他を当たるとしよう。


「かしこまりました。夕食付きで金貨4枚になります。」

部屋が空いていて良かったが、やはりそこそこ高いな...。


「(高いです!勿体ないので一緒のお部屋にしましょう!)」

セレスが俺の耳元で提案する。


「...わかった。すまないが、やはり一部屋で頼む。」

宿に泊まった経験が無く、流れで一部屋を借りてしまったが、同じ部屋で女性と二人きりになるのはよくある事なのだろうか。

気を使って別々にしようとはしたが。


「かしこまりました。ご料金は金貨2枚と銀貨5枚になります。」

「洗い物がございましたら、1階の係の者へお気軽にお申し付けください。」

店員から部屋の鍵を渡され、指定された番号の場所に向かった。


「5階の...ここか。」

ドアを開くと、想像の倍ほどの床面積があり、窓からの眺めも良いものだった。

これならば追手の襲来にもすぐに気がつけるだろう。


「ミコト!私、お風呂に入ってきます!すごく泥だらけなので!」

部屋にある棚からタオルを取り出し、駆け足で脱衣所に向かうセレス。

身体の汚れが相当気になっていたのだろうか。確かに昨日は散々だったからな...。

セレスが上がったら俺も入っておくか。


待っている間、俺は椅子に腰掛け、備品の地図を眺める事にした。


明日にはこの街を出て、峠を上り、魔王領の手前にある氷の街アイスロックで装備を整え一泊しよう。

あそこから先は道が険しく、危険な魔族も多く生息している。流石にセレスには聖都中心街へと戻ってもらったほうが良いだろう。


しかし...自分を知るヒントが魔王領にあると当初は思っていたが、魔族には転生というシステムがあるとグリズムは言っていた。

俺にもあるのだろうか。試してみようにも、自ら命を断った結果本当に死んでしまったら元も子もない。憶測ではなく確信がほしい所だ。


「...!」

廊下から物音が聞こえ、途端に緊張が高まる。


「ルームサービスです。ディナーをお持ち致しました。」

係員か?宿というものが初めてなので分からないが...。飯は運ばれてくるのか。

「ドアの前に置いておいてくれ」


「かしこまりました。」

何かを転がす音と足音が遠のいていく...。行ったか。


刀を構えながら恐る恐るドアを開くと、目の前には小さな台があり、その上に料理が置かれていた。


ため息をつきながら台を部屋に運び、俺は床に腰を下ろした。


...聖都中心街を出たというのに、俺はここでも怯えながら過ごさなければならないのか。

安らかな日々を過ごしたい気持ちが一層高まる。


不安な気持ちを抱いてしまったせいか、窓にかかるカーテンの隙間が気になりはじめた俺は、それをそっと閉じた。


その時。


「ミコト~!」

脱衣所からセレスの大きな声が聞こえてきた。


「どうしたセレス!追手か!」

心配した俺は咄嗟にドアを開けようとしたが、何者かにドアを突き返されてしまった。


「ちちち違います!開けないでください!追手ではありません!」

慌てるセレス。ドアは強い力で押されているようだった。

「一体どうしたんだ。」


「うう。その...替えの下着を忘れてしまいました。」

急に小さく喋りだすセレス。


「本当にごめんなさい。凄くお風呂に入りたくて、慌てちゃいました。」

そうか。セレスはLv0で魔術を習得できない。洗浄の魔術なども使えないということか。

まぁ俺も使えないのだが。

「それで俺はどうすればいい。」


「受付の方が言っていました。洗い物の係の人に頼んできてくださると助かります!」

「ですのでこれを。」

脱衣所のドアの隙間から、下着を手に持っているセレスの腕がゆっくりと出てきた。


「お...おい、俺が持っていくのか。」

流石に無理だ。


「うう...ごめんなさい。やっぱり厳しいですよね。」

セレスの「どうしよう。」といった感情を表すかのように、ドアの隙間から出ている手がぷるぷると震えていた。


「...仕方がありません。下着をつけずに服を着て、洗いに行きます!」

覚悟を決めたのか、下着を握りしめるセレス。

切り替えが早すぎる。だがそれもやめてほしい。


その時、俺の脳に電流が走った。

「待て、俺に任せておけ。」



セレスの下着を俺の服に挟んだ状態で洗い物の受付所に持っていき、係の者に頼んだ。

「あ...洗い物を頼む。」


「かしこまりました。この量であればすぐに終わりますので、そのまま少々お待ちください。」

これで解決だな。

流石に女性の下着一枚を持って外を出歩くのは客観的に見て気持ちが悪いだろう。

いや、よく考えたら指輪に収納して持ち歩くという手もあったが、下着一枚が指輪から出てくるのもな...。


洗浄の完了を待つ間、俺は1階にあるロビーの椅子で待機していた。数分で終わるとのことだ。

念のためセレスの僧衣の洗浄は避けた。身元が判明してしまうからな。あとで俺が出来る限り綺麗にしてあげよう。


ぼーっと廊下を眺めていると、マントを深く被った二人組が前を通り過ぎた。


そして、その内の一人がボヤく。

「この街は人間どもが多すぎて嫌になるな。」

座っていたおかげで少し顔が見えた。耳が長いな...エルフ族だろうか。


確かエルフ族と人間は仲が悪く、人間の住む街には滅多に姿をあらわさないと聞いたことがあるが。

ここは交易街、取引のために来る場合もあるのだろうか。


「おまたせ致しました。」

洗浄が終わり、係の者から呼び出された。思っていたよりも早く終わったな。


衣服を受け取ると、セレスの下着が一番上に重なっていた。

「あ...ああ。ありがとう。」


俺は慌てて全ての衣服を指輪に収納した。

さっさと戻るか。セレスが風邪を引いてしまっては可哀想だしな。


階段を上り、借りた部屋のドアを開けようとした所で違和感に気がつく。

...ドアが少し開いている?確か閉めたはずだが。


「ミコト...!」

ドアを開けると、セレスが困惑した顔で俺の名を呼んだ。

タオルを身体に巻いたセレスの隣には、二つの怪しい人影が立っていた。


俺は刀の鞘を握り、臨戦態勢に入った。

「おい、誰だお前らは。」


「ふん、お前がミコトか。話がある。」

そう言うと、怪しい人影の一人がフードを外し、顔を表に出した。


こいつは...さっきロビーで俺の前を通り過ぎたエルフ族の男だ。




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