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俺だけがセーブできない世界  作者: リウイチ
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第5話 敵襲

第5話 敵襲




目を瞑っていると、しばらくしてセレスの声が聞こえた。

「よ...よし!目を開いてください。」


「...。」

俺はゆっくりと目を開いた。

まず地面を見て、そこから慎重に、デリケートな部分を見ないよう気を使いながら目線を上げるようにした。

前を見ると、セレスは背中をこちらに向けてしゃがみ込んでいた。


「これは...“聖なる紋章”か?いや雰囲気は似ているが、よく見ると形が全然違うな。」

なるほど。これを見てもらうために脱いだのか。

セレスの背中には、まるで天使の翼を模したような模様と、聖なる紋章を何段階か昇華したような絵が刻まれていた。


そうか。俺の左手に出た紋章と形は全く違うが、皆と違う紋章であるという事に関しては同一だな。

セレスの言う「魂として近い存在」というのは、互いに人とは異なるという点からくる、同族的な意味合いがあったのだろう。


「うう...。」

しゃがみ込みながら、両手で肩を抑え縮かむセレス。


「見せてくれてありがとうなセレス。寒いだろう。とりあえずこれを羽織ってくれ。」

俺が着けていたマントを手渡し、羽織らせた。


「私はこのまま服を着ます!」


「あ、ああ。」

セレスがマントをカーテン代わりに身体を隠しながら僧衣を着ている間に、俺は向こうを向いて火を焚いた。


話を聞く限り、追手はいないようだからな。今夜はそこそこ寒い。少々見つかるリスクは上がるが善意には応えたいしな。暖まってもらおう。


僧衣を着終え、その辺の瓦礫に座ったセレスは、俺が起こした火で暖をとりながら語り始めた。


「私は、先代の聖女様が寿命でお亡くなりになられたあと、街から遠く離れた小さな村で生まれました。」

「“初期刻印”はありましたが、生まれた時からレベルが0でして...。当時は本当にびっくりされました。皆、初期のレベルは1のはずですからね。」

「村で過ごし、しばらくすると、神父様と大司教様が村に訪ねてこられて、私を次の聖女に任命し、聖都グラディウスで修行を積みながら暮らす事になりました。」

幼い日の出来事を、少し笑った顔でうつむきながら語るセレス。その瞳は、焚き火の光で静かに輝いていた。


「へへ...。最初は大変だったのですが、先代の聖女様達が遺していった哲学書を読んでいくうちに、なんか元気になりました!」

「大司教様は変態です!とか、この隠し通路を使えば逃げられるよ!とか、いっぱい書いてありました!」

そう言ってセレスは此方を向き、満面の笑みを見せた。


他人が自分の過去を語っている時は、本人が癒やされたいがための行動だと思っていたが、セレスの場合、聞き続けるほどに俺が癒やされていくような気がした。


「私が一番弱いのは、弱い人と向き合うための説得力なんです。」

「だからミコト。あなたにもあなただけの説得力、使命があると思うのです!」


俺の使命ねぇ...。

「でもなセレス、仮にだが、俺に使命とやらがあったとしても、街の奴らのような俺を虐げる他人のために、何かをする事は絶対にできない。」

「俺は自分が生きるために、自分のためだけに藻掻くだけだ。」


使命なんてどうでも良い。俺は、俺を殺そうとする奴らから身を守り、平穏に暮らしたいだけなんだ。


「私、分かったかもしれません!あなたの使命!」

急に立ち上がるセレス。


「私が決めました!」

「あなたは、二度と蘇生できない身体を使い、命の本当の輝きと素晴らしさを他人に見せつけて、どんな局面においても最後まで生き残る事が使命なんだと思います!」

おいおい、上手くまとめるなぁこの子は。


俺の口からフッと小さな笑いが溢れる。

「よく分からないな。要約すると、やりたいようにやりなさいって事か?」


「そうです!多分!」

「えっへん!」

俺はセレスを見ながら考えた。


このLv0の聖女は、こうして人々に寄り添い、数多の人間の心の拠り所になってきたのだろう。もはや人間なのかどうかすら疑わしい俺にすら、こうして優しく、対等に会話を交わしてくれている。

皆から崇められ、慕われるわけだ。


「流石は聖女様って所だな。」

セレスのおかげで、だいぶ気持ちが救われた気がした。


「それでセレス、お前はこの後どうするんだ?」


「ふふ...考え中です!」



ドゴォォオオオン!

突如、廃墟の奥のほうから轟音が響き渡った。


「きゃっ!」

のけぞり、尻もちをつきそうになったセレスを抱きかかえた


「なんだ!?」

俺は刀を掴んで臨戦態勢に入った。


崩壊によって巻き上がった砂埃が収まると、そこには数頭のオークと、コウモリのような翼を持った謎の男が立っていた。


「いや~~~このような辺境の地であの聖女様を捕捉できるとはね。」

謎の男は、服についた砂埃を払い、コツコツと靴の音を立てながら此方に歩いてくる。


「私は魔族の幹部が一人、グリズム。大人しくその女を此方に渡しなさい。」

「それとここにあった汚いクリスタルは砕かせて頂きました。転移術はもう使えませんよ。」


魔族の幹部、グリズム。

完全に先手を取られたか。セレスはLv0だ。ゆえに魔術の習得も不可能だから、自害の魔術によって即座に街のロード地点に蘇生する事もできないのだろう。

かと言ってセレスをこの手にかけるのは、かなりの抵抗がある。が、最悪の場合そうするしかない。奴らの手に渡るよりかは遥かにマシだ。


「セレス、俺の後ろに下がっていてくれ。」

俺はセレスを背後に移動させた。

 

「お前ら、強そうだな。」

オークもただのオークではない。かなりの重装備だ。知性もあるのだろうか、指示があるまで待機しているように見える。

レベル表示も見えない。全員が全員、遥か格上だ。 


「貴方!Lv1ですか!?ギャハハハハ!...オークキングども、待機解除です。ぶち殺しなさい。」

不敵に笑った後、オークキングに指示を出すグリズム。


「「ブォォォオオオオオオ!」」

雄叫びを上げ、自己強化魔術を使うオークキング達。


心臓の鼓動が耳に響くほど緊迫した状況。命の危機。

「かかって来い。」


全てのオークキングが一斉に俺へと飛びかかってくる。

俺は、標的が太刀筋に重なり合うタイミングを見計らって、一太刀で全標的を両断した。 

風を切るような音が鳴り響いたと同時に、上下真っ二つに切り裂かれたオークキング。

その肉塊が、辺り一面に散乱した。


「なっ...!Lv50はあるオークキングどもを一瞬で!一太刀で!?」

「なかなか面白い。変わった方ですねぇ貴方。」

「では、これならどうですかね?」

グリズムは、ポッケから黒く濁った石を取り出して此方に投げると、その石は空中に留まり、回転を始めた。


「なんだその汚ない石は。爆発でもするのか?」

教会にあるクリスタルとは真逆の色合いで、雰囲気も禍々しい石だ。


「爆発!爆発ですか、まぁ確かに爆発しますよ概ね正解です。爆発的にって感じですがね!」

グリズムが指を弾くと、石の周囲に突如オークキングが爆発的に発生した。さっきとは比べ物にならない数だ。


「これは“リスポーンクリスタル”と言ってですね、その種の魔族を大量に発生させつつ“転生”による発生座標をも固定する事ができる代物です。」

「つまりですね、あなたはず~~~っとオークキング達と無限に戦い続けるハメになるわけですね。ギャハハハ!ぶち殺しなさい。」

数えきれないほどのオークキングが走ってくる。


「まったく。よく喋る奴だな。」

俺は刀を構え、息をととのえた。



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