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俺だけがセーブできない世界  作者: リウイチ
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第3話 反逆

第3話 反逆




大聖堂と聖女セレスの力を持ってしても、またもやセーブに失敗した俺。

今回も無理だろうな...と、内心少し諦めていたおかげか、現実をすんなり受け入れる事ができた。

それにしても、今日一日の間に、こうして何度も何度も嫌な事があるってのは中々キツい。

挙句の果て、神にまで見放されるなんてな。


「追放しましょう!」


「うーん...遺伝子汚染の懸念もあります!処刑が妥当なんじゃないでしょうか!」

話を進める衛兵とマリエル教官。


「シズル様、どうしますか!」

俺の処遇を急ぐ衛兵。


「そうですね...。ひとまず、足にも拘束具を取り付けてください。大司教様に報告してまいります。」

そう言って、足早にその場から立ち去るシズルさん。

俺の身体には更なる拘束具が取り付けられた。


「ごめんなさい...。ごめんなさい...。」

俺に近づき、謝罪をする聖女セレス

俺は何も言葉を返さなかった。


「聖女様!危険です!コレに近づかないでください!」

「おい、いいか、お前は大司教様が此方にお越しになるまで大人しくしていろ!」

衛兵が、聖女セレスを俺から遠ざけた。


「言われなくても何もしねえよ。」

この場にいる全員から、というか、今日出会った全ての人間から負の目線を向けられ続けた俺は、次第に気持ちが投げやりになっていく。

そして、そんな自分の精神状態を冷静に自覚できてしまう一面もあり、それはそれで置き場の無い怒りの感情が込み上げてくる。


...俺の中で何かがプツンと切れそうになっていた。


「おお...!大司教様...!」

睨みつけるような目で顔を上げると、聖壇近くにある専用口から、大司教と呼ばれている、長く白い髭をたくわえた老人とシズルさんが姿を現した。


聖壇に立った大司教は静かに俺を指差し、言い放った。

「その者を処刑とする。」

「速やかに斬首せよ。」



「くそぉぉおおお!死んでたまるかよぉぉぉおおお!!!」

全ての感情を抑え込んでいた器が崩壊し、怒声となって響き渡る。

俺を中心に、周囲に嵐のような風が吹く。


セーブができない事、母の死、同期生からの嫌がらせ、期待を裏切る教官、セーブの失敗、人ならざる者のような扱い、大司教からの処刑宣告。

心の底から放出される叫び声が轟くと同時に、俺の左手の甲に、聖なる紋章とは違う、異質な紋章が現れた。


<スキル【命がけ】習得>

<スキル【命の教え】習得>

頭に直接、メッセージが流れてくる。


「貴様...!やはり人外の類だったか!」

剣を抜き、こちらに穂先を向ける衛兵達。


「大司教様、聖女様、この場はお引きください!ここは我々、上級衛兵にお任せください!」

大司教は専用口から出ていき、聖女セレスは、小さな身体をシズルさんが抱えるようにしてこの場をあとにした。


その際、聖女セレスは、シズルさんの腕に抱えられながら、俺の方に手を伸ばして必死に何かを言っていたような気がしたが...まぁもうどうでも良い。


「なぁお前...この国で人に剣を向けるのは、確か重罪だったよな。」

俺は兵に問うた。


「馬鹿な!お前が人であるものか!魂の蘇生ができない生物は、人以外の存在だ!」

「つまりお前は人ではない!魔族!家畜!虫!そういったものに等しい!」

「死ねぇ!」

剣を構え、衛兵の一人が此方に向かってきた。


「生まれてこのかた、人以外であった事がないんでな。」

「俺は殺されたくねえ。殺されても死ねないお前らに、命のありがたみってやつを教えてやるよ。」

スキル【命がけ】により、命の危機を感じるほど身体の底から無尽蔵に湧き出てくる圧倒的な力で、俺は拘束具を瞬時に砕く。


振り下ろされた剣を、上昇した攻撃力と防御力とすばやさのステータスを一点に集中させ強化した拳で天高く弾き飛ばした。


金属音とともに剣は宙を舞い、戸惑う衛兵。

「なっ...!」

「まずい...!【痛覚遮断】!」


「痛覚遮断?それじゃあ“分からない”だろうが!」

空中に弾き飛ばした衛兵の剣を掴み、俺は上級衛兵の腕を鎧ごと切り飛ばした。


「ぎゃああああ!痛い痛い痛い!なぜだ!【痛覚遮断】が効いていないだと!?」

どうやら俺のスキル【命の教え】は【痛覚遮断】を無効化できるようだな。


「うるせえ、痛えだろ。それが生きてるって事だ」

「さっきお前に突き飛ばされた時、俺も手が痛かったよ。」

「手が痛いと、物を持つのもツラいよな。」

「分かってくれて嬉しいよ。」

「可哀想だから、今から腕を生やしてやるよ!」

痛み叫ぶ衛兵を剣で突き刺し、一撃で絶命させた。


絶命した衛兵の遺体は光子となり、千切れた腕も含めてその場から完全に消失していた。

大聖堂の近くにあるロード地点に光子が集まりきった時、身体が元通りになった状態で蘇生するのだろう。

元にもどるだなんて、羨ましい限りだ。


「ひ...ひぃ!」

怯え、硬直する他の衛兵達。

その内の一人が、この場を立ち去るのを横目に見た。


「援軍を呼びに行ったか...。」

「もうここには居られないな。」

俺は一番近い出口を探した。


「待ちなさい!」

マリエル教官が俺を静止した

「あ...あなたは自分が何をやっているのか分かっているのですか!」


「分かっていますよマリエル教官。でも元通り生き返るのだから良いじゃないですか。」

「俺は一度死んだら二度とは生き返らずに、消えちゃうんですよ。」

「援軍が到着するまでの時間を稼いでも無駄ですよ。俺はここに残っていたら確実に死ぬので、今すぐ出ていかせてもらいます。」

正面扉が一番近いな...。全速力で立ち去らせてもらおう。


大聖堂の出口に向かって走る俺に、慌てて炎魔術を放つマリエル教官。

先程の授業で見たものよりは、かなり威力の低い魔術のようだ。


俺はスキル【命がけ】の能力で、魔法防御を大幅に上昇させる事で威力を相殺した。


「甘いな教官。やはり大聖堂内では低級魔術しか使えないか。」

「神聖なる大聖堂、作りの細かい物を壊せば、直すのにも苦労するもんな...!」

捨て台詞を口走りながら、場をあとにした。

人よりも、物のほうが俺に近いのかもしれないな。


さて、大聖堂の庭の正面出口から市街地に出るのはやめておいたほうが良いだろう。援軍と鉢合わせになるかもしれないからな。

となると、横の柵を飛び越えて路地裏を進み、用水路から聖都外へ出るとしよう。


庭を走る道中、偶然にも大聖堂のロード地点を通りかかった。


「お...お前は!くっ...!」

聞き覚えのある声だ。


「ん?お前、さっき殺した兵隊さんだよな?」

怯え、微動だにしない衛兵を凝視する。

鎧を含め、全て元通りになっているが、武器を持っていないようだった。


「...ああそうか、お前を殺す前に俺が武器を握ったことで、所有権が俺に移り、武器だけは元に戻らなかったという事か。」

「腕、生えて良かったな。大事にしろよ。」

「生やしてやった代わりに、この剣は貰っていくからな。」

まるで盗賊のようだ。


ただ俺は、衛兵の腕が元通りになっている事を確認し、安堵していた。

【痛覚遮断】を無効化するこのスキルの範囲が、どの程度のものなのかをまだよく分かっておらず、もしかしたら蘇生後にも影響を及ぼしているのではないかと心配していたからだ。

俺の手の擦り傷は時間が経てば治るが、流石に腕の全部がなくなるというのは、あの態度の悪い衛兵とはいえども可哀想だからな...。


柵を越え、路地裏を走りながら、そんな事を考えていた。


よし。確かあの大きな用水路だな。一瞬だが路地裏を抜けて表通りを通過しなければならないのはリスクがあるな。

ただ、だからと言って狭い用水路から隠れて合流するには時間がかかり、兵の配備が間に合ってしまう可能性もある...。


「行くか!」

路地裏を抜け出した瞬間、俺が嫌いな同期生のギドルと、表通りで遭遇してしまった。


...あのあと帰宅指示でも出ていたのか。


「お前!どうしてここに居るんだ!」

ギドルは、驚いた顔で話しかけてきた。


「つーか聞いたぞてめぇ...“聖なる紋章”が無いんだってな!」

「やっぱり魔族だったか。上級騎士の父上から授かったこの聖剣で殺してやるよ!」

「ちなみに俺様のLvは10だ。」

剣を構えるギドル。

まぁ確かに上級騎士の家系と言うだけはあるな。気迫がある。


「紋章が無いどころの話じゃないのだけどな...。」

「すまんが急いでいる。」

この街に長居すると、俺は必ず殺される。その迫る死の予感が、スキル【命がけ】を更に強化した。


「じゃあな!」

俺は強化した拳で地面を破壊し、土埃を巻き上げた


「な...なんだ!何が起こった!」

ギドルの、何が起きたのか分からず慌てふためいている声を背に、俺は中心街の外に出られる大きな用水路へ侵入することに成功した。


内部にある通路を駆けていくと、奥のほうに光りが見えてくる。


進み続けると、そこには見慣れた草原が広がっており、既に雨は止んでいた。


俺は命からがら、ようやく外に出る事ができた。



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