表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺だけがセーブできない世界  作者: リウイチ
2/14

第2話 尋問

第2話 尋問




教官に連れられ、大聖堂の見える通路を通った。

凄く神々しい、大きな建物だ。

ここには、全世界に存在するセーブ地点やロード地点を統括・制御する巨大なクリスタルがあると言われている。


「ほらほら、ボーっとしていないで行きますよ。」

教官にぐいっと引っ張られる。景色に見とれ、歩速が落ちていたようだ。


「はい着きました。ここに座って待っていてくださいね。」

部屋に入ると、そこには机と椅子があるだけだった。


「ここはどこですか?」


「え~尋問室です。」


「尋問室?え?俺は罪を犯したのですか...?」


ブォン...!


「うおっ!?体が動かない!?」

俺の足元には魔法陣が展開されていた。


「あ~動かないでくださいね、動きすぎると身体が千切れて死にますよ。」

酷い扱いだ...。


「これから俺、何をされるんですか?」


「・・・。」


黙って扉を閉め、どこかへ向かう教官。場が静かになり、不安が込み上げてきた。

俺は...処刑されてしまうのだろうか。

いやいや、流石にそこまでの事はしないだろう。

何もしていないのだから。

しかしこの扱いは、どうしてもそういった悪い方向に物事を考えてしまう。


...ガチャ!ゴォン!


「うわっ!」

突然扉が開き、重く冷たい音が部屋に響き渡る。


「はいお待たせしました。」

マリエル教官と、その後ろに立っている...眼鏡をかけクールな雰囲気の女性は誰だろう。


「それでは、尋問を始めます。」

「私は聖女様の側近、そして本件の聴取を担当するシズルと申します。」

眼鏡をクイッと動かし、名乗るシズルさん。

 

「あの聖女様の側近ですか!?」

聖女様の最も近くにいる存在の登場に驚き、つい声を上げてしまった。


「・・・。」

「先程、マリエル教官から事情を伺いました。」

「あなたはどうやら、セーブができない特異体質を持っている可能性があるという事ですね。」


「可能性があるというか、絶対にセーブが出来ないんですよ。」

俺はキッパリとそう言った。教会には何度も行ったさ。

「俺は一体どうすれば良いんですか?」


「...あなたに質問をする権利はありません。」

冷たい対応だ。強まる不安に気持ちが押しつぶされそうだが、堪えるんだ。


「話を続けます。」

「生後、初期の刻印すら無く、教会で祈りを捧げてもセーブが出来ず、聖なる刻印の施しも受けられない。」

「その事はもちろん、貴方の親も知っておられましたよね?」


母さんを巻き込みたくはなかったが、正直に答えた方が良さそうだ。

「...はい。」


「これは、母親も罪に問われる可能性があります。」


「母さんは関係ない!...です。」

つい、声を荒立ててしまった。母さんは悪くない。言わずもがな俺も悪くない。セーブが出来ない事だけが悪いんだ。


「母さんは、聞かれたら正直に答えろとだけ言っておりました...。」

「刻印や紋章が無いこと以外は普通の人間と同じだと、孤児の俺を人として育ててくれました。」

「それに、もう母さんは寿命で亡くなってい─」


「分かりました。」

冷徹に、話を切るように喋り出す

「さしあたっては、この世界で最も聖力の高い大聖堂で、聖女様による直接的な紋章の付与を執り行います。」

「そこで、本当にセーブが出来ない人間なのか。いや、そもそも貴方が人間なのかを調べさせて頂きます。」

「なにせ建国以来前例のないことですので。ご容赦ください。」

シズルさんが話を終えると、急にマリエル教官が立ち上がった。


「危険です!聖女様と直接対面させるなんて...何か起こったら...。」

聖女様の身を案じるマリエル教官。


「俺が...俺が聖女様に何か危害を加えるとでも思っているんですか?何もするわけないじゃないですか。」

なんなんだこの空気。

もう、全てが嫌になりそうだ。


「マリエル教官、大丈夫です。彼はまだLv1ですし、いざとなれば大聖堂の上級衛兵が即座に取り押さえます。」

「それではミコト君、大聖堂へ向かいましょうか。」

そう言ってシズルさんは、俺に手枷を付けた。



マリエル教官、シズルさんが前を歩き、数人の兵が俺を囲いながら大聖堂へ向かった。

罪人になった気分だ。俺はもう、何も喋る事ができない。


雨が降り始めた。

石畳にしずくが落ち、その濡れた部分の数を数えている。


「おい、早く歩け!」

下を向いて歩いていたため気が付かなかったが、もう大聖堂の扉の前に到着していたようだ。


大きな扉が、音を立てながら開きはじめる。


ああ...聖女様との初対面が、こんな形になるなんてな。



扉が開くと、大聖堂の奥で青く美しく光輝く大きなクリスタルを背に、一人の少女が立っていた。


「あなたがミコト様ですね!お話は聞いております!」

クリスタルの後光で顔はよく見えないが、聖壇に立つ少女は、可愛らしい無邪気な声で俺に話しかける


「私は聖女。聖女セレスと申します!」

聖女セレスが自己紹介をしたと同時に、ゆるやかに回転する光の屈折が切り変わり、その全容を視認できた。


まだ幼い子供の程の背丈。髪は腰辺りまで長く、美しいブロンドカラーで、瞳は青く、その輝きは大聖堂のクリスタルのようだった。

曇りがかった、外で降る雨に似た気分を完全に忘れ、時間が限りなく圧縮されたような感覚の中で、俺はただただ聖女セレスを見つめていた。


<聖女セレス Lv0>

彼女の頭上に薄く表示されたレベルの数値を、俺は見てしまった。

自分より数値の低い相手のレベルは、確認する事ができるらしい。


「...大丈夫ですよ。私があなたを救いますから。」

純粋無垢な笑顔で、さっきまでの俺の気持ちを察したかのように、聖女は言った。



聖女セレスと対面した俺は、その後すぐに、この世界で最も聖力が高いとされる大聖堂と聖女によるセーブの義を執り行う事となった。


「それでは、あそこに立ってください。」

シズルさんが、俺の立つ位置を指示した。聖壇の前にある、あの魔法陣の中心に立てばいいのだろうか。


「おい、さっさと行け!」

衛兵に引っ張られ、魔法陣の中心に突き飛ばされる。 


俺は地面に倒れ込み、しばらくすると痛みを感じた。

手の甲を強く擦ったようだ。

怪我をしたばかりなので血はまだ出ていない。どうせ後々、かさぶたになるんだろうな。

痛えな...。


「それでは聖女セレス。始めてください。」

シズルさんが聖女セレスに指示を出す。


「わかりました。」

俺はその場に立ち上がり、クリスタルの後光によって美しく光輝く聖女セレスを前にするが、すぐに目を逸した。

俺の目はもう死んでいるからだ。こんな顔を、純粋で優しい人には見せたくない。


「それでは、始めます。」

スゥ...。

僧衣が擦れる音が聴こえる。


手を合わせ、祈りはじめる聖女セレス。

次第に、魔法陣が黄金色に輝き始める。

その神々しい輝きは、まさに今、神がこの場を見ているという確かな気配を感じさせるものだった。


「天におられる我らが神よ。どうか彼の者に蘇生の祝福を。」


聖女セレスが祈りを終えた途端、輝きを増す魔法陣とクリスタル。

その輝きは、大聖堂全てを飲み込むほどだった。


良かった.....。

これで俺はやり直せる。いや、ここから始めることができる。


やがて、祝福を感じさせるような優しい光りの眩さが収まり、雨の音が響いた。



「一体どういうことだ!」


「こんな...聞いた事がないぞ!」


「恐ろしい!やはり魔族の者か!?」


「人外に他ならん!」

周りに居た衛兵達が突然声を上げる。


キョトンとした表情で、騒ぐ者達を見渡す聖女セレス。


「...え?失敗したのか?」

俺は、大聖堂で初めて声を発した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ