かわいいはつくれる!
今日は、3ヶ月に1度の貴族令嬢デイです!
勝手に自分がそう名付けている、いわゆるご褒美デイ。
3段のお皿にのった、可愛いスイーツたち。
ウェッジウッドのカップとソーサーに、なんか上品な香り漂うお紅茶!
フッカフカのソファーに、猫脚フォームのおっしゃれ〜なガラステーブル。
全てが、アパートひとり暮らしの我が家にはない、上ランク空間!
それらを堪能することができるカフェ。至福のひととき。
「お久しぶりなのよー」
「だねぇ」
パーテーションで区切られたお隣は、女子会のようです。
前に来た時は、なんかブランド品の話をする女子会話を聞いた。
カタカナ乱立、お値段も聞いた事ない数字が乱立で、手が出ないと目を回した記憶。
「相変わらず、ひーちゃんは美人さんだねぇ」
「そりゃ、どーも」
美人さんを眺めているのか、羨ましいぞ。声からもニヤニヤ感が伝わるっ!
ひーちゃんさんはクール女子か? 返事がそっけない。照れも謙遜もないってことは、言われ慣れてる相当の美人さん!? 気になるぞぉおぉ!
「何にしようか〜。色々目移りするね!」
わかる。ここのメニュー色々豊富だもん。見た目だけじゃなく、味もうっとりするほど美味しいし!
つーか、そっけない返事に、ツッコミないんかい!
「カルボナーラとドリアにクロワッサン、あとケーキセットで」
「んじゃ、アタシはシチューパイとケーキセット」
ひーちゃんさんめっちゃ食うタイプか……。まぁ、ランチな時間だもんね。
いや、こういうところのごはんものって、大きなお皿の真ん中にちょこーんとだけな、いわゆるオシャレ盛り系だろうしね。
アフタヌーンティーをする貴族感を味わいたくて、ごはんもの見たことなかったな、そういえば。
「今日のコーデはここの雰囲気にばっちりでしょ! 旦那さんもカワイイって言ってくれたし、自分でも、そうおもうのよ〜」
ひーちゃんさんの相棒が嬉しそうに言う。自分に自信が持てるって大事だし、可愛いって言ってもらえるのは嬉しいよね。
「ミツってさぁ、美人と可愛いの使い分けしてるの、なんなのそれ? どっちも一緒じゃないの?」
ひーちゃんさんが疑問を投げたぞ! そういえば、ひーちゃんさんには美人と言ったけど、自分には可愛いって言ってたな。言われて気づいた。
「え、そりゃ天然と養殖だよ!」
「何じゃそりゃ……」
何じゃそりゃ……に同意だよ。
「ひーちゃんは、元の顔立ちからして綺麗な天然さんだから、美人さんなの。アタシは化粧をして作り上げるからカワイイなの!」
「あー、カワイイは作れるってやつかぁ」
「そーゆーコト! 美人は作れない!」
「え、それ旦那も同じ意見なの?」
「そだよ」
え、ミツさんの旦那さんは、自分の妻に「作り上げているキミはカワイイ」を伝えているって事? ちょっとそれは酷いような……。
それにしても、天然と養殖は納得だ。
「それもどうかと思うんだけど……」
うんうん、ひーちゃんさんに同意だ!
「ふっ、甘いぞひーちゃん! 美人を認識してしまうと、アタシのような十人並のお顔は、かすみにかすんでモヤしか残らない!」
「いや、意味がわかんないんだけど……」
あっ、わかる! 私の顔にも、モヤ掛かっているから、すごいわかる! 化粧してようやく十人並みだから、すっごいわかる!!
今度はミツさんに同意して、思わず拳握っちゃったよ!
ちなみに、モザイクじゃなくて、モヤってところがポイントね!
「別に、ミツは化粧で大幅に変わるって訳でもないっしょ? あの詐欺メイクみたいな風に」
「あのねー、モヤった顔はお化粧で色を乗せないと、顔にならないんだよ!」
そう、そうなの! 別にガツガツ乗せているわけじゃないんだけど、色をつけてようやく顔が完成するんだよ!
ってことは、ミツさんと私は同系統の顔だな! ぼんやりとしか印象に残らないタイプの!
「いや、それなら万年スッピンのわたしだって、モヤ掛かってるって事じゃないの?」
ひーちゃんさんはスッピン美人って事ですなっ! うらやま! スッピンの状態で美人って言ってもらえるなんて、私は経験したことないぞ!
「ひーちゃんは、色を乗せなくても顔してるの!」
「顔……してる??」
ひーちゃんさん、顔作ったことないな。顔してるってのは、まんま顔になる事なのよっ!
たぶん、ひーちゃんさんのスッピンと私の顔が今、顔としてイコールなのよ! いや、たぶん私の方が低いな……
顔として世間が認識するレベルにするには、モヤっ子は化粧をするしかないのよ!
「ほら、ひーちゃん鼻高くてスッとしてるし、目おっきいし、顔ちっちゃいし、顔に凹凸ちゃんとあるし」
おぉ、それは顔してるよね! 顔の凹凸大事なのよ!
あの、目の周りと鼻らへん。ここが顔を決める!
「顔に凹凸のないアタシは、シェーディングで『っぽく』みせて、美人に近づけるように頑張っているんだから!」
わ〜〜か〜〜〜る〜〜〜〜〜〜!!
ファンデよりちょーーーっとだけ暗めなベージュ使ってみたり、ピンクベージュで顔色明るくしつつも、立体感作ったりっ!!
その日の服に合わせつつ、シェーディングのカラーも変えて!
小顔見せかつ立体見せ大事っ!!
「ほら、ひーちゃんとちがって、アタシ目と目の間、のっぺりしてるじゃない?」
「あ、ほんとだ」
あー、そののっぺり、わかるうぅぅ!!
「こののっぺりも、ファンデより濃い色で影をつける感じにして、のっぺり見せ、させてないの」
「……意外と大変なのね、化粧……」
ひーちゃんさん! ドン引きの声出さないでっ!!
ほんと、ほんとに顔作るの大変なんだって!
乗せすぎると、舞台女優っぽくなるし、足りないと顔にならないし! 塩梅が難しいのよっ!
あ、電話。
席で電話し出すのもあれだし、一旦外に出よう。
あ、ミツさん見えた。私と同系統の顔だ。親近感わく。
ひーちゃんさんは……後ろ姿しか見えぬっ!
よし、電話おわり。休日に電話してくんな! 職場にいないのに、対応しろとか無茶振りしてくんな!
5回「今日お休みです」って言わないと理解しないの、イイ加減やめれ!
っとと、今日はデトックスな日だ。嫌なことは紅茶とスイーツで忘れるに限る!
「そんなに顔いじらなきゃダメで、すっぴんだと外に出るなって旦那酷くない?」
「メイクして可愛くなったアタシを、見ていたいんだって〜♪ お洋服のオシャレと、どっこいみたいなモンよ!」
お、ミツさんのお惚気ターンに入ってる!
そうそう、お洋服着るのとお化粧は同じようなモンなのよ。お着替えのセットなの。
そそくさと、気持ち早足で席に戻るよっ!
――ひーちゃんさん……やべぇ!!
天は二物を与えずとかいうけど、あれ八物くらい貰ってるよ、顔だけで! ありえなくない?!
え、あれスッピン? ……マ?!
なんていうか……超美人って、すげぇ……。語彙力吹き飛ぶよ。
帰ったら、メイク研究しよう……。
ひーちゃんさんに近づくのを目標にすれば、超カワイイが作れる気がする!