7.はじめての報酬
「あー、疲れた……」
「お姉さん、お疲れさまです。今日も店じまいですねー」
フィーネの肩を揉むコクバは元気があり余っている。雑用だけやってたはずなのに、まさか両腕がつりかけるなんて思いもしなかった。
たぶん移動中に如意棒振り回してたせいかも。
あとで魔道書に治癒魔法とかないか、探してみようと思う。
「ところでさ、私がどれくらい働くかとかの相談は……」
フィーネは疑問を抱く。
マルクは、屋台をたたみ始めていた。
「お店、片付けちゃうんですね」
「うちの店は物資の運搬、各種素材集めとかもやってるからな。屋台を建てるのは週に二日くらいだよ」
「素材集めとかあるということは、雑用係ってそこそこ大変……? 私の働く時間って週にどれくらいになっちゃうのかな……」
「学生さんには接客とその雑用しかやらせないから、週に一日になるな。でも、ウチのところは学生さんを雇うこと自体が珍しいから、店番できる者なんてほぼいなくてな……今日は助かった!」
「そうですよ、お姉さん」
機嫌がよいコクバは、肩揉みを続ける。
「そういえば、お姉さんは貴族さんなんでしたっけ?」
「貴族といっても、大家の名前を名乗ることを口封じされてまして」
「なんかすみません。聞かなかったことにしますー」
「そろそろ家に帰るよ。そうそう、お嬢さんの報酬は日当払いで大丈夫かな?」
マルク手には、銀貨が六枚。
この世界には上から白金貨、金貨、銀貨、銅貨があって、銅貨の下には駒と呼ばれる赤駒、黄駒、青駒がある。
白金貨が日本円で十万円、金貨が一万円、銀貨が千円、銅貨は百円。
赤駒は百円玉、黄駒なら十円玉、青駒だったら一円玉。ちなみに、駒はおはじきのようなつくりになっている。
今日、接客している隣で覚えておいた。
生きるために必要そうなことは早めに把握しきりたい。銀貨を受け取ったフィーネは学生寮に戻ったあと、お金の単位を復唱していた。
「AI学習機能を起動――。それは何の呪文でしょうか?」
アリスは不思議そうに、フィーネを見守っていた。
「いま私が口にしていたのは、お金の単位です。あっ、アリスってさ、家計簿を付けることって出来ますか?」
「はい。可能であります」
アリスの中には、計算式ツールが備わっているようだ。それなら生活に必要な資金の管理はアリスに任せておこう。
これで私は週に一日あるお仕事の時間を除いて、学業に専念できそうだ。
ふと、部屋に一個ついている窓の外を眺めた。
真っ暗でもう何もみえない。
でも、大きな不安があるわけではない。
カーテンを閉めたフィーネは、ベッド上に寝転び、しばらくゴロゴロ転がった後、仰向けになった。
学生寮はひとり部屋だから、仮に夜更かししてもわからないけど、働いていたぶん疲れているので今夜は何もしないで寝よう。
おやすみなさい。心の声でアリスに呟いた。