5.レゾナム学園に到着
フィーネが乗っている馬車は、王都ハリアに到着した。
整備された広い道は清潔感に満ちていて、品物を広げる商人や買い物客でわいわいガヤガヤしていた。
とても賑やかにしている面は、流石は王都といったところ。
フィーネは適当な場所で降りて、レゾナム学園に向かう。
脇道に入ると、すぐ迷子になりそう……。
人口密度が多い場所なんて慣れたら問題なしだが、如何せん土地勘がないものだから、目的地に近づけているのかわからなくなってきた。
「アリスに調べてほしい。レゾナム学園ってどの方向にあるかな?」
「検索します――。検索結果の末、レゾナム学園はここから南のほうにあります」
南……。南側ってここからどの方向だっけ。
フィーネは空を見上げた。
たしか、時刻はお昼過ぎた辺りだっけ。
なら、太陽が照らしている方向に進めば良いだけだから、こっちね。
フィーネは迷うことなく脇道に入っていった。
脇道といっても、とても短い距離しかなかった。すぐに大きな道に出て、立派な校舎が見えてきた。
これはラッキーだと思いつつ、念のためアリスに尋ねた。
「あれはレゾナム学園ですか?」
「はい。そうです。対象の施設に対して魔力スキャンを行います――。検索の結果、危険度弱小の敵が複数人いることが確認されました。アリスのデバフスキルを使用して、無双を開始します」
「ちょっと待って!」
あっ。
反射的に声が出たフィーネは、悪い意味で注目された。
「えっと、独り言のボリュームが大きくてごめんなさいっ!」
駆け足で突き進み、立派な校舎が建てられているレゾナム学園の門をくぐり抜ける。
「はあ……それにしても……」
通行人の反応をみる限り、アリスは他人に認知されていないように思えた。
精霊の性質なんてこれっぽっちも理解していないから、そこはレゾナム学園でちゃんと学べば良いのだろうけど……。
あとは、あれだ。
何も学習していないアリスは、敵と認識したら無差別にデバフスキルを使用するよう設定でもされているのかな?
このまま放置すると、いずれフィーネ自身がひとりツッコミ激しい痛々しい子と思われてしまいかねないので、何かしら対策する必要がありそうだ。
とはいえ、アリスの学習については何もわからない。
質疑応答していったら、人間と同じように学習していくのかな……?
「新入生でしょうか。どうされましたか?」
綺麗な赤髪をもつ女性から、声を掛けられた。
「あっ、すみません。これから一年間、レゾナム学園で勉学に励むことになっているフィーネなのですが、どうしたら良いのかわからなくて……」
「なるほど……。わたくしも貴族の子が入学することを存じております。まずは学生寮に案内致しますね」
「よろしくお願いしますぅ……!」
馬車移動の疲れも出ていたフィーネは、少し気が抜けていた。
レゾナム学園へ入学するための手続きがすべて済まされていることを確認したので、一年間の身の保証はあって当然といえる。
最低限の手荷物しかないので、働き先を早急に探す必要があるが……。
「わたくし、寮母のバランと申します。学園生活での疑問等がごさいましたら、わたくしにお申し付けくださいね」
「わかりました。さっそくなのですが、授業がない日にお仕事って出来ますか? あてつけはありません」
「危険が伴わない職業前提になりますが、学園の同意があれば可能です。フィーネ様のようにお仕事を探されている状況でしたら、そうですね……いくつか候補がありますが」
寮母のバランが言うには、現在三つの働き先があるとのこと。
一つめは、レゾナム学園近隣にある商人のお店で小売り。
二つめは、レゾナム学園から、やや遠くにあるパン屋さん。
三つめは、王都ハリアの住居を管理する職務の雑用係。
仕事内容は正直なところ、こなせそうなら何でも良くて――。
三つめはそもそも王都ハリアのことが良くわからないので避けたい。あと、学園からやや遠くとなると移動がちょっと大変に思う日が来そうで怖い。
「じゃあ、一番最初のでお願いします」
「商人のお店で小売りね。わかったわ。それじゃあ、荷物を学生寮に置いたら早速、そちらにご案内しますね」
寮母に言われるがまま学生寮の説明を受けた後、働き先予定のお店まで案内してもらった。