4.AIアリス
にこやかな台詞とは裏腹に、真顔でまじまじ見つめてくる。
(この子が、転生特典のお友達かな……?)
フィーネは自身の平べったい胸元に手を当てる。恥ずかしくもアリスと目を合わせる。
「――AIアリスは、私にどういったお助けが出来るのですか?」
「はい。私は、とても優秀なデバフスキルを所持しております。どんな相手であれデバフスキルによってあらゆるステータスを弱小にすることが出来ます。数字で例えるのであれば1にします。また、ステータスを選んで的確に弱小にすることができます」
機械音っぽい声を出すアリス。
フィーネが思う精霊とは少しほど遠く感じるが、優秀なお友達であることは理解した。
ただ、所持スキルも少し癖もあるというか……。
最強と思えるデバフスキル、これを上手く指示して扱いこなせるようにならないと、実戦では役に立たないとはっきりわかる。
出てきた敵の攻撃力だけ下げたら、武器を扱うトレーニングにも使えそう……?
用途はその都度考えてみよう。
それともうひとつ確認しないといけないことがある。
「――AIアリス、私に武器というか……丈夫そうな如意棒ってありませんか?」
「はい。こちらになります」
アリスが青白く光る球体を出してきた。
それはゆったりとフィーネの元に近づいていく。
「ありがとうございます!」
フィーネが右手を差し出すと、球体が細長く伸び始めた。
(これが如意棒、思ってたとおりのものね……)
両手で掴むと、その場で軽々しく振り回してみた。
大きく振りかざして構える、縦回転に投げてみる、バク転して右手で拾ってみる。左手で掴み直して突く動きをする。
ひととおりの動きをしてみたフィーネは、心から満足している。
運動神経が良いほうだってことを、身体が覚えていた。
それこそ転生前と変わらないくらいには……。
(実戦でも前世の記憶だけを頼りにしてみるのも悪くないかも……)
「あと気になるとしたら、AIアリスって一応呼んでますけど、今後どういった呼び方を使ったほうが良いですか?」
「わかりません」
「はい……?」
「アリスにはわかりません。人格を持たないアリスには、理解しがたいことです。AIアリスが人格を獲得するには、人格について書かれたレベル5以上の魔道書をインストールする必要があります」
「魔道書……レベル5以上……」
フィーネは、自宅からこっそり持ってきた魔道書の裏面を確認する。
そこにはレベル2と書かれていた。
アップデートするための魔道書、最低でもレベル5となると、手に入れるのは大変そうであるような……。
アップデートは一旦後回しにして、呼び名を先に付けておこう。
もう普通にアリスと呼ぼうかな。
「AIアリスのことは、アリスと呼んでおきます」
「かしこまりました」
ちゃんと受け答えはしているけど、どことなく言葉の堅さがある。
「それじゃあ、馬車に戻ろうかな。そろそろ商人さんが戻ってきそうな頃合いだし」
ふわわ……。欠伸するフィーネは、その場で振り返った。
AIアリスは勝手に付いてきてくれる。そう思っていたし、実際にそうであった。
馬車の中に入り込むと、眠そうにする商人が腕をあげる。
特に変わることなく馬車が動き出した。少しだけ違うとしたら、薬草の入った袋がひとつ、商人の足元に置かれていることくらいだった。