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27.コクバを救い出すために


「早速で悪いんだけど、雑魚処理が面倒なんだよね……」


「それくらいナラ、ワレに任せナ」


 エリシアが進行方向に向かって、魔方陣を展開する。


「ドラゴンの鉄拳ヲクライヤガレ。アブソリュート・ジェネレイタル・ヘブン!」


 獄炎の拳が、スライムを一瞬で焼き払った。


 そしたら、大量のモッフルがまたしても涙目で舞い上がる。


 だが、これで道は出来る。


 拳の上から安全に謁見の間へと飛び乗ったフィーネは、コクバの元に近づく。


「コクバ、いま助けるから」


 アリス、デバフスキルをお願い。


「……何度来ても、無理なものは無理だって!」


 コクバの足元から、どす黒い物体がどさっと生えてくる。これって……植物のツタというよりかは、クラゲの触手というイメージのほうがピンと来そうだ。


 非常に固そうで、粘着性は全然ないだろう。


 このどす黒い触手によって、コクバの姿が見づらくなる。


 相手にとっては不足なし。


 ……この地形。みたことないけど、なんかわくわくする。


 久しぶりに暴れてみようかな。



 私、こうみえても棒を使って進んでいく競技に自信があってですね。


 フィーネは、転生前の感覚が蘇ってきていた。


 直感力。棒を器用に扱う地力。


 いくつもの障害物を柔軟な身体を使って回避していき、ゴールを目指していたあの頃と同じように。


 ただ、純粋に楽しむ。


「そう、今回も同じだ」


「……どうして、逃げてって言ってるのに」


 フィーネは、コクバの胸元に飛び込んでいた。多彩なテクニックを駆使して、どす黒いツタに当たることなく、コクバの元にたどり着いていた。


「逃げてって言われてもね、私はコクバと一緒にいたいから」


「でも、私は……何故かモンスターを取り込んでしまって……どうしたら……」


「バステトルーヴだっけ。そういえば、どこでそんなモンスターとくっついたの?」


「きつね火祭り。あの時にたぶん……」


「そう……」



 やっぱり、あの時の違和感か。


 あの後、一体化が進行しはじめて今に至るということか。



「でも、バステトルーヴも寂しい思いをしているの。だから、倒さないで」


「倒さないでと言われても、実際倒せないし」


「……?」


 コクバは首を傾げた。



 コクバって、モンスターの性質を知らないのかな……?


 バステトルーヴが、王都ひとつを統括する程のモンスターである以上、ドラゴン等と同じでモッフルにはならない上級モンスターと同じ扱いになる。


 人間と意思疎通できる可能性だってある。


 一体化したコクバとは、もう意思疎通出来てるっぽく思えるけど、単なる気のせいってことにして――。


「そろそろ、コクバに体を返してあげて、お友達になってあげて」


「ふえっ……」


 その場で力が抜けていくコクバは泣き崩れる。フィーネがすぐに体を支えると、どす黒い触手は跡形もなく消えさっていた。


「お帰り、コクバ!」


「ふええっ。お姉さん、ごめんなさい。……ただいまです」


 泣きじゃくるコクバの体温が、じんわり伝わる。


 バステトルーヴの方は心が完全に落ち着くまで、アリスのデバフスキルに頼りきることになるだろう。


 暫く、この体勢が続きそうだ。







「それはそうとして……お姉さんの格好……」


「これはアリスに新調してもらったのよ、成り行きで。コクバだって新調して」


「お姉さん、だけじゃない?」


 すっかり泣き止んだコクバは、自身の服装に目をやる。



 …………。


「なんですかあああああっ。この破廉恥な格好はあああああ――!」



 コクバは絶叫した。


 バステトルーヴというモンスターと一体化した姿とはいえ、街中をこの格好で歩き回るのはちょっと無理があるだろうというくらいにはハッキリしていた。


「モンスターを使役という形で上手くコントロールしたら、普段の格好との使い分けくらいなら出来るようになると思うし」


「お姉さん……そんなフォロー要らないから……」


 ずーん。と凹むコクバは、両腕を前方に組む。


「ところでお姉さん、この後どうするの?」


「そうだね。とりあえず、新しい街に行きたいかな。ギルドハウスでの登録もすっかり終わっていることだし、依頼をこなそうかと」


「依頼ですね。ついでに素材集めを」


「素材集めね……。エリシアさん、どこにいますか?」


 ――と声を掛けたところで、近くにいることくらいわかっている。


 ドシドシと歩いては、謁見の間を徘徊するブラックドラゴンが存在している。――サイズ感どこいったの? という突っ込みしたところで、変身してるだけだからサイズ調整くらい余裕だよ、とか言われそうだけど。


「モグモグ――。モッフル、ウメー」


 エリシアは只今絶賛、モッフルを片っ端から捕食していた。


「お姉さん……ブラックドラゴンがいるっ……。しかもモッフル食べちゃってる……」


「そ、そうですね……。エリシアさん、怖いよ!」


「何イッテル? 上級モンスターハモッフルを食べて素材を吐き出すノダヨ。ワレの場合はブラックドラゴンの羽なのダガ」


「な、なるほど……?」


「ブラックドラゴンさん、勉強になります」


 うん? コクバの目つきがなんか変わったような気が。


「私もモッフル食べて、お姉さんの冒険に役立てるかなぁ……」


「そんなエロい姿での無理な発言は、控えたほうが健全では」


「うっ、言われが酷いよ……」


「名はバステトルーヴ、ダッタカ。たしか食用クラゲを生み出す事実ヲ、古い書籍に記載サレテイタハズダガ……」


「コクバが食用クラゲを、ですか?」


「モッフルから食用クラゲ……美味しいのかな……」


「口ニスルノハ毒ナシクラゲだし、ソウダナ」


 エリシアは満足そうな顔をしてから、いまにも飛び立つ態勢を取る。


「ココカラ南に行クト、港街があっテ、そこにギルドハウス存在スル。情報をウケたくば、まずはソコヘ向かうガヨイ――」


 大きく羽を伸ばしていたエリシアは窓から飛び出して、リ・エンジュ村のある方向へ飛んで行ってしまった。


 そして、大量ともいえるブラックドラゴンの羽が、謁見の間に舞い上がる。


「素材っ――。ブラックドラゴンの羽ですよ! これで大金間違いなしです!」


「そうだね。もうちょっとだけ、エリシアさんに聞きたいことあったのになぁ……」


「…………?」


「真っ黒な羽、いっぱい回収したら行こっか。港街に」


「お姉さん、そうだねー」


「それじゃあ……素材集め開始!」


「わああっ――」


 手早く腕を掴むと、コクバはとても驚く仕草をする。


 この、元気になっている様子がみられたことにより、フィーネに笑顔が出てくる。



 その光景を廊下からこっそり見守る、ユユキとハルハの存在には全く気づかないでいた。



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