2.親元を離れる
そんなことがあって、雛岡未来はフィーネとして生きている。
ただ、フィーネ自身も裕福に暮らしてきたわけではなかった。それは雛岡未来と統合された記憶を辿ればわかる。
キャルディン家の両親は読書好きの長女、コニーにあらゆる期待を寄せていた。
一方で、後から生まれたフィーネは物覚えが悪く、何故か好意的に接してくれなかった。
その『何故』かを理解したのが、今から一年前。
当時十二歳のコニーは、魔道書のお勉強を始めていた。炎、水、風、土、光、闇、なんでも扱えた。
それに比べて、フィーネには、魔道書にすら触らせてもらえてなかった。明らかにコニーを優遇して、フィーネは両親とすら対話の壁を感じていた。
だが、それももうじきおしまい。
この世界での、貴族の決まりごとが関係していた。貴族は、十二歳になる年の一年間、教育の一環として学校へ通うことになっている。
コニーは、キャルディン家の近隣にある魔法学園で学び、魔法を扱えるようになった。
両親からそのように聞かされていた。
つまり、フィーネも学校で学べば、魔法を扱えるようになる。そう思っていたのもつかの間、両親はキャルディン家から遠い王都にある学校に入学するよう手配する。
両親はコニーを後続人にしたいってだけで、フィーネを遠回しに追い出そうとしている。
そう捉えても仕方なかった。実際、合っているのだろうけど。
幸か不幸か、未来が望んだ転生特典は、貴族としてみるのであれば、魔法の才能以外はあまり役に立たなさそうなものばかりである。
三日後にフィーネは十二歳の誕生日を迎え、馬車での移動開始日が四日後に迫っていた。
誕生日パーティーなんて記憶にないし、今回もパーティーが開催されないとなると、自由時間が少しだけあるように思えた。
「お前はあらゆる面で育ちが悪いのだから、勝手にキャルディン家を名乗るのではないぞ」
馬車での出発の日、父親からそう言われた。
母親のほうに振り向くと。
「…………」
無言だった。
ちょっと残念だった。全く期待していないけれど、何かしらの言葉がほしかった。
「行ってきます……」
フィーネは馬車に振り向いて、キャルディン家の屋敷から離れる。
コニーはというと、まだ自室で寝ているのだろう。
まだ朝日すら昇っていない時間ですから。