16.ギルドハウスに行こう
王都ハリアから旅立ちの時――。
お世話になった方々への感謝の気持ちを伝えた後、商人に貰ったコカトリスのフードを被るフィーネは、決して悲しい顔をしなかった。
やっとのことで手にした開放感。
雲ひとつない大空。
生い茂る森が大きく揺れる暖かな風。
冒険初日にしては、新鮮な空気が漂っていて気持ち良すぎる。
「目指すはブラックドラゴン! 一攫千金ですよー」
フィーネの少し後方を歩くコクバは、笑顔に満ちていた。
なんで私について来てるの……?
フィーネにとって、早速理解できないことが起きていた。
大きなリュックサックを背負っているコクバは、立派な商人になるための修行で親元を離れたのかもだけど……。
素材の情報とかはやはり詳しいので頼りにはなる。その反面、危なっかしいことに突っ込んでいかないよう、気を配らないといけないかもしれない。
「お姉さんはまずブラックドラゴン――じゃなくて、ギルドハウスに向かって冒険者の登録をするんでしょ?」
「一応、そうだけど……。もしかして、コクバも冒険者の登録を……」
「ううん、私はまだ十歳だから出来ないよ。平民でいうと二回目の学校を卒業してる必要があるからねー。一回目の学校は一昨年終わったけど、二回目は十二歳になるタイミングでないと入学出来ないしー」
「一回目の学校って、ある程度融通が利くのですね……」
「お姉さんは貴族だから、その辺りの仕組みは理解しているものだと思っていたけれど?」
「その辺の座学はあまり興味なくて……」
実際、在学中に聞く機会なんて無かった。
フィーネ自身、冒険者になるための最低条件は既に満たしているので気にもならないけど。
「この山道を登って行けば、リ・エンジュ村があって、そこにギルドハウスもあるよー」
コクバが堂々と道を紹介する。
「そのギルドハウス……王都ハリアから一番近くってこと?」
「そうですー」
「それなら、村に行く以外の選択肢はないね……」
生活費の貯蓄があるとはいえ、依頼を受けないで無紋一になってしまっては旅に出た意味がまったくなくなるから、早めに位置を知れてよかった。
「あっ、でも……だいたいどれくらいの距離がありますか?」
「村までは、ここからだいたい十五分くらいでしょうー」
「走ったら数分ってところか……」
モンスターと出くわす気配もない。
だったら、ここは一気に――。
静かに息を吐くフィーネは、コクバの腕を掴み、軽やかに坂道を駆け上がる。
生い茂る草木からはモンスターが覗き込むが、おとなしめの性格だったのか、フィーネに襲い掛かることはなかった。
アリスのデバフ効果でもないけど、これはラッキー。
これだったら快適に進める――。
どんどん坂を登っていくフィーネは止まらない。
やがて、リ・エンジュ村の仕切りである二本の石柱が見えてくると、走る速度を緩めた。
「ここが……リ・エンジュ村……」
想像してたより、もの静けさがあって――。
生き物が住んでいなさそうな川。
いくつかの一軒家は見受けられるが、人が住んでいる気配はない。枯れた雑草がそこら中にあって、新鮮な空気とは裏腹に、廃墟の地とも呼べそうなくらいには、不気味さが漂っていた。
「これは一体……なんか寂しいというか……」
「お姉さん、学校で習わなかった? リ・エンジュ村はお墓いっぱいなんだよー」
「うーん、たぶん都合の悪そうなことはもう忘れてるかも……しれない……」
「簡単に言うと、世界で活躍した冒険者に安らかな眠りを提供する場として有名なのー。埋葬されるのは、だいたいギルドハウスで登録している冒険者だけどねー」
「とりあえず、ギルドハウスに行きます……」
フィーネは歩く。目と鼻の先には、大きな豪邸がひとつ。
他の建物と見比べても、その豪邸だけはとても綺麗で清潔感があったので、ギルドハウスではないかと予測していた。
近づいてみると、看板が立てかけてあった。
『ギルドハウス。リ・エンジュ支部』
ここで間違いなさそうだ。
入り口には馬小屋にでもありそうな小さな扉がふたつ付いていて、中の様子もすんなりと見えそうな構造になっていた。
「すみません、失礼します!」
フィーネが挨拶しながら入っていった。
「おや……見ない顔だ。本日はどうされましたか?」
本を広げる黒髪の美少女が、大きなカウンター越しに立っていた。




