11.フィーネ、異世界ではじめてのお祭り
この世界の一ヶ月は30日あって、一年は360日で成り立っている。
日本の三月を春の第1月日に当てはめて、六月が夏の第1月日、九月が秋の第1月日、十二月が冬の第1月日とする。
フィーネがレゾナム学園に通い出したのは春の第2月日。
忘れがちなフィーネの誕生日も春の第2月日。
これから王都を中心にはじまるお祭りは、春の第2月日――最終日に行われるもの。
赤いちょうちん横並び、屋台もぎっしり立ち並ぶ。
首から狐のお面をぶら下げているフィーネは、簡単には迷子にならないようにと、コクバと手を繋いでいた。
「人、多すぎる……」
「きつね火祭りは、いつもこんな感じだよー」
人だかりを避けて、ぐいぐいと進んでいくコクバは、とても笑顔で満ちあふれていた。
「きつね火祭り?」
「そう、きつね火祭り」
「それってどういうお祭り?」
「お姉ちゃん初めて? じゃあ教えてあげる」
一旦足を止めるとコクバは、語り出した。
「きつね火祭りはね、キツネ属のモンスターと真似っこをすることで、さまざまな厄災から身を守ることができるという言い伝えのあるお祭りでしてー」
古くからの伝統であることは、興奮するコクバの落ち着きのなさからよく伝わってくる。
「モンスターの鳴き声も真似するのです、こーん」
「…………。うん」
ただでさえ鶏の鳴き声の物まねすらまともにしたことないのに、こーん。だなんて恥ずかしくてとてもじゃないけど声に出せない。
コクバの両親が小売りをしていて、コクバと二人でお祭り楽しんでほしいと言われた筈の身なのに、期待に応えられそうになくて、ちょっと私が情けない。
「こーん。楽しいですよー」
「なんというか、私そんなキャラじゃないというか……」
「もったいないですね。もっとお祭りを楽しみましょうよ」
「コクバちゃんが楽しんでいる、鳴き声の物まね以外に何かあれば」
「こーん? そうですね、なら街の中心部に行ってみましょう!」
コクバに腕を引っ張られていき、やがて立ち止まる。
相変わらず人が多くてはっきりわからない。
「たしかこの辺りですね……あっ、あれです!」
コクバが指を指した方向では、何やらテーブルを広げていて、順番に何かを配布していっているように見えた。
「まず、あそこで精霊を宿した木の枝を一本もらうのです」
「もらって、どうするのですか?」
「その後は、街全域を見渡して、地面に隠されている鈴を探すことになるの。鈴には封筒がくっついてあって、開封することができる。それを開封したら、キツネの顔が描かれている紙が出てくるのです」
「キツネの顔ですか……?」
「そうですね、キツネ顔です。こーん」
コクバは、両手を使ってキツネの耳を動かす仕草をする。
「そこで綺麗なキツネ顔を見ることができたら、見た日から一年間は、厄に巻き込まれなくなるという言い伝えがあるのですよ」
「ぬぬぬ……言うべき……?」
「こーん。ですよ、こーん」
「コクバちゃん、えっと……こーん……」
狐モンスターの鳴き声をするのが、とても恥ずかしい。
周囲の人間に私の声が届いてしまう。