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1.前世の記憶を思い出す


「ふにゃ……おはよーございます……」



 窓から差し込む太陽の光によって、目を開けられずにいた。


 茶色い木の壁と床、レースがついた赤いカーテン。中央にある机には白いテーブルクロスが敷かれていて、銀のコップが置かれている。


 まるで貴族の個室であるかのような雰囲気が漂う室内。ひとまず身体をゆっくり起こしてみると、頭の中に記憶流れ込む。



 痛い、なにこれ。



 頭痛? じゃない……。



 すぐに痛みが和らいでいった。私はフィーネ・レチカ・キャルディン、前世では雛岡(ひなおか)未来(みらい)



 キャルディン家の次女で、もうすぐ十二歳になる。


 ――って、あれ?



「私、たしかに死んだはずなのに……」



 口で自らそう言い聞かせるが、自分が転生者であることは理解していた。



「この私が、貴族の身分かぁ――。これじゃあ、前世の記憶と割に合わないよ……」



 ベッドから離れて、窓ふちに手を添える。さらりと金色の髪が垂れこんだ。


 そこから一望できる外の景色を眺めると、グリフォンが三羽ほど、大空を優雅に飛んでいた。

 


 雛岡(ひなおか)未来(みらい)は、不倫の中に生まれた次女だった。幼い頃から母親の親戚と言われる元で育てられていたので実の両親の顔なんてしらない。


 勿論、義理の姉の顔なんてみたことすらなかった。


 三歳差だっけ? うろ覚えで未だにはっきりしない。



 たとえ覚えていたとしても、私はもう転生してしまっているので意味はないが……。



 学校に通い出すと、成績はクラス平均値まんまか平均より少し上をいくか、程度で明るい子ではあった。口は少ないけど空気が読める子として評されていた。


 高校まではちゃんと卒業した。その後は、母親の親戚にも迷惑をかけたくないと思い、大学には通わず独立する進路をとった。


 卒業してすぐ、近くの養鶏場に住み込みしはじめた。


 これから毎日、鶏の世話をすることになる。


 そう、雛岡(ひなおか)未来(みらい)は、鶏が大好きだった。


 あの白いモフモフの羽毛に、コケコッコーという鳴き声。なにもかも大好きだった。


 独立して、鶏と一緒にいられる。


 それだけで、幸せになれる。


 心から、そう思っていた。


 雛岡(ひなおか)未来(みらい)の住み込みがはじまった数日後、養鶏場で放火事件が起こるまでは。


「面会時間は五百秒としよう」


「お忙しいなか、そんなに時間を割いてよろしいのですか?」


「構わんよ」


 薄暗い部屋から、二十代後半の青年が近づいてきた。


「おはよう。雛岡(ひなおか)未来(みらい)さん」


「ここは、どこなの……?」


 体育座りで少しうずくまる未来(みらい)に、淡々と状況を説明しはじめる。


 雛岡(ひなおか)未来(みらい)は死んだ。原因は、義理の姉による放火であること。


 面識がなかった姉が放火事件の犯人だなんて信じられなかったが、今は青年の言葉を信用するしかなさそうだった。


 多くの鶏も一緒も焼け死んでしまったが、未来(みらい)が必死に庇った数羽だけ奇跡的に助かったのだという。


「痛々しいことを口にしてしまって申し訳ないね。ここからは、雛岡(ひなおか)未来(みらい)がこれからどうするかの話をしよう」


 はい、待ってました異世界転生。その話題に入り込もうと、未来は顔を少し上げる。


「転生特典とかあるのですか?」


「ふむ、少しだけ考える時間を頂戴ね」


 あれ、何か気まずかったのかな。


 それとも、転生できないとかじゃ……。


「望むのであれば、雛岡(ひなおか)未来(みらい)の転生は可能だよ。ただ、世界に張り巡らされた法則を乱さないよう配慮しないといけないからね。たとえ神様であっても、法則に反することをすれば、容易く世界のひとつやふたつが壊れてしまうものだから」


「簡単に壊れる……なんかごめんなさい……」


「いや、気にするものでもないさ。ところで、雛岡(ひなおか)未来(みらい)の欲しいものはなんだい?」


「ほしいもの……そうですね……」


 学校は楽しいものではなかったし、鶏ですら一緒に暮らせなかった。


 ただ、人生の中でもうちょっとお喋りしたい人がほしかったかも。


 後悔したことを叶えるって、発想が普通すぎるのかな……。


「あの……転生したら、お友達がほしいです。ずっと離れないお友達です!」


「わかった。その望みは叶えてあげよう。他にはあるかい?」


「他、ですか……?」


 うーん、転生者としての自覚とか……?


「前世の記憶と、ファンタジーの世界でありそうな魔法が使える才能、あとは頑丈で壊れない如意棒です」



 ……なんか普通すぎない? まぁ良いか。


 うんうんと頷く神様は、未来(みらい)が伝えた転生特典にふさわしい世界を脳内にイメージしている様子だった。


「言いたいこと言っちゃったけど、どんな世界に転生するのだろう……」


雛岡(ひなおか)未来(みらい)が転生する世界は、治安が少しよくないけど、武器が望みのひとつに入っているなら最低限、生きることは出来るだろうね。わたしとの面会時間も少なくなってきたから、詳しい情報はお友達にお願いするとしようか」


 口を閉じた神様は、すぐさま何かを唱え始めた。


 言葉として聞き取れないけど、不安がる必要はない。



 たぶんこれが、転生の魔法――。



「最後にひとつだけ伝えておく。転生特典の大半は、お友達に持たせることにした。世界に張り巡らされた法則を乱さないようにした結果、そうせざるを得ない。それだけ理解してね?」





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