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暴力で解決できない問題

 魔族同士のケンカは、お互いに再生能力があるため過激になりやすい。

 それは混血同士でも同じなようで、明星もずいぶんと過激に立ち回った。


 正直双子はドン引きしていたが、再生していくチンピラたちをみて少々安堵していた。

 やはり傷が治るのと治らないのとでは、後々の禍根が違うのだろう。


 とはいえ、傷が治ったタケマル達の心は癒えていない。

 彼らは痛い目を見て学習したのだろう。奇襲が失敗するとどうなるのか、格上と戦うということがどういうことなのか。


 そして、そもそも自分たちが生まれた目的。魔界統一皇帝の血、桃一郎の血に挑むことの、無謀さを。

 父祖の悲願に反して……自分たちはそこまで強くなかったと。

 彼らは傷が治ると、文字通り尻尾を巻いて逃げ出した。


「みょ、明星様! お着換えをいたしますか? お手伝いしますか?」

「大丈夫だよ、フォライさん。なんかもう面倒だし、しばらくはこのままでいるよ」


 フォライの気遣いはありがたかったが、もしかしたらまた戦うかもしれないのでこのままにした。

 ぶっちゃけ着替えを一着しか持ってきていないので、着替えて潰したら後がないのである。


「超強かったよ、明星! オレの旦那様ツエ~~!」

「うん……うん……その言い方止めようぜ」


 全方向に対して棘のある言い方をするナベル。

 喜んでいるのはわかるのだが、周囲の神経を効果的に逆なでしている。


「アレだな、明星……ナベルちゃんも言ってるけど、チートで無双したなあ……」

「本人も真面目に頑張って修行したはずなのに……親からもらった才能だけで勝ったわね」

「ほら……ナベルちゃんの言い方のせいで、二人から軽蔑のまなざしで見られてるし……」


 双子からの、モラルの高い発言。

 悪い奴らが可愛そうに見えるほど、明星が強すぎた模様。

 しかも、一切鍛錬せず、生来の力だけでの模様。


「二人とも、気にしなくていいよ。どうせあいつらも、自分より劣る奴らを才能でぶちのめしたかっただけだしね」

(つまり俺はあいつらと同類ってことに……)


 フォローするオンラだが、明星は切なくなった。

 どうして世の中は、こんなにも残酷なのだろう。


「見ての通り馬鹿な奴らだけど、これで懲りたでしょ。あいつらの問題を解決してくれて、マジでありがとね。あとは……」

「あら、まだあるの?」


 絵に描いたような問題児が解決した一方で、まだ悩みがあるようだ。

 それが具体的に何なのか、皷は不思議そうにしている。


「私たちの親世代だよ。まあ親父がひどすぎるだけで、他の人はみんないい人なんだけどさあ……さあ……」


 オンラはちらっと、志夫を見る。

 その眼には、期待と申し訳なさがあった。


「ねえ志夫。アンタさ、高校生だよね?」

「え、うん……そうだけど」

「そうか……男子高校生か……」


 ぼりぼりと、頭をかくオンラ。


「私たちの親世代が、いろいろと迷惑をかけるかもだけど……もしよかったら、相手してあげてね」

「え、なに、なんなんだ?!」



 さて、このコミュニティの、第一世代について語ろう。

 彼ら彼女らは、桃次郎や桃一郎に負けた吉備家の旧主流派、およびルキフェルに負けたアモンの一族。その二つである。

 彼ら彼女らは、アイツらがおかしいだけで自分たちも強い、という自負があった。だからこそ、復権のために、積極的に血を混ぜたのである。


 では第二世代、つまり混血世代はどうだったのか。

 親からの過剰な期待や、同世代最強たる冠者からの抑圧。

 それらによって迫害され、子供を作るように強制されてきた。


 その彼らこそが、冠者の死を喜んでいるのは当然だが……。

 しかし自由を得た彼らの掌には、何も残っていなかったわけで。


「……こ、ここにさ、ここにさ……私たちの親世代が集まってるんだ。まあ、その、みんないい人だからさ……いい人、ではあるからさ、仲良くしてほしいんだよ。まあ、うん、その……えっとさ……無理は言わないけどさ」


 ここに来て、この上なく露骨に歯切れが悪くなってきたオンラ。

 歯に布着せぬとはよく言うが、歯に十二単でも着せているかのようであった。

 もう顎が閉まらないレベルである。


「と、特に志夫とかは……大変だと思う……思う、けどさ、あんまり嫌がらないでね」

「俺帰ったほうがいいかな?」

「待って! 帰らないで! 母さんたちが怒るから!」

「じゃあやっぱ帰る!」


 ひと際大きな集会場、そこの前に案内された一行。

 その前で、オンラは志夫を引き留め始めた。

 猛烈に嫌な予感がする、を通り越して、『これからひどい目にあうよ』と予告されている彼は何とか逃げようとする。

 しかしながら相手は混血、それも第三世代で一番強いであろうオンラ。

 その腕に、彼は逆らえなかった。


「と、とにかく入ってよ! 話があると思うからさ! 明星にはお礼も言いたがってると思うし!」


 がちゃ、と集会場の扉を開ける。

 するとそこには……オンラたちの親、というにはかなり若い男女が集まっていた。

 人数比はやや女性に偏っており、男性は数人しかおらず、女性が十人ほどだった。


「……なんか若く見えるんだけど、それも混血だから?」


 安寿の質問に、オンラは首を横に振った。


「いや、本当に若いんだよ。みんな三十歳いくか行かないかなんだ。ほら……そのさ、結婚しなくても、大人にならなくても、子供ってできるじゃん……で、親父やら爺さん世代は酷い奴らだったじゃん」

「……それは、酷いわね」


 オンラの言葉に、安寿はほほをひきつらせた。

 いやさ、全員がほほを引きつらせる。


 皮肉というべきか、オンラと安寿以外の女性は明星と婚約状態(仮含む)だったので他人事でもない。

 だからこそ、ここのいびつさが胸に痛いのだ。


「いや、本当にその通りだったよ……」


 男性の一人が、明星に近づいてく。

 今の明星は魔族のままなので、皇帝の血筋、冠者を倒してくれたものだとわかるのだ。


「私たちの親世代は、私たちへ期待をし過ぎていた。魔族と人間の長所を併せ持つ、強大な存在になると信じていた。実際に私たちは双方の力を継承していたが、君のお爺さんたちほどの力はなかった。親世代はそれを認められず……『根性が足りない、鍛錬が足りない』と言って、過酷な鍛錬を課されたものだよ」


 明星は混血であり、ありえないほどに強い。

 だがそれは良血中の良血の掛け合わせだからであり、誰もが明星ほどの才能を持っているわけではないのだ。


 そしてどれだけ努力しても、才能の壁は壊れなかった。

 それでもあきらめられない、というのが妄執に取りつかれた者たちである。


「その親世代も、魔界統一戦争から逃れてきた他の者たちとの抗争によって倒れていったが……引き継いだ冠者は何も変えなかった。君が倒してくれるまで、私たちの人生は……酷いものだったよ」

「そうですか……」

「皆を代表して、感謝させてほしい」


 年上の男性から感謝される、という恥ずかしさに戸惑う明星。

 しかしながら悪い気はせず、愛想よく笑っていた。


「ん……それでだ……志夫君、だったか?」

「違います」


 話を振られた志夫は、ここでしらを切った。

 彼は教育を受けた子供なので、知らない大人には名乗らないのだ。


「まあ違ってもいいんだが……」

「いいのかよ?!」

「その……ウチの女性陣がな……君と仲良くなりたいそうで……」


 その時である。

 十人ほどの女性たちが、一斉に志夫へ詰め寄ってきた。


「どうも初めまして、志夫君! 私(ギリギリ)二十代の女子よ、よろしくね!」

「混血の子供と一緒に育ったんですってね? それなら私たちのことも変に思わないわよね?」

「男子高校生なんですってね? いいいわよね~、男子高校生! 憧れちゃうわ~~!」

「私知ってるのよ!! 人妻って人気あるんでしょ? いえ、色物なのはわかってるわ! でもそういうヒロインだって人気あるものね!」


「……」


 その圧力に、志夫は呆然としていた。

 なぜ全員の歯切れが悪かったのか、一瞬で理解したのである。


「私たちのお母さんたちってさあ……青春に飢えてるんだよね」


 もう全員が分かりきっていることを、オンラが説明し始めた。


「ほら……全員が親父に抱かれたり、あとは他の男の人と寝るように言ったりで、恋愛とかなかったんだよ。もちろんまともに学校とか行けなかったし、その分憧れているんだよね」


 学校に通える者は、幸福である。

 しかし親に行けと言われている者たちは、その自覚がない。


 そして行けなかったものは、不運を強く嘆くのだ。


「気持ちはわからないでもないけどさ……オンラの世代の子は?」

「……私たちはほら、行こうと思えば行けるし」

「ああ……」


 オンラの返答に、安寿は納得した。

 なんだかんだ言って、オンラ達はまだ青春が間に合う。

 吉備家とパイプを作って仕事をもらえば、その合間を縫って学校に通うこともできるだろう。あるいはほかの青春を満喫できるはずだ。

 人によっては『いや今更……』と思うかもしれないが、選択肢があるのとないのとでは全く違う。


「それなら明星のほうがいいんじゃないの?」

「いやいや、明星はアレでしょ。全然普通じゃないでしょ。母さんたちは普通の恋愛がしたいんだよ、普通の青春がしたいんだよ」

「同世代じゃダメなの?」

「……人ってさ、欲張りになっちゃうもんだよね」


 切なそうなオンラである。


「男子高校生と付き合ったって、女子高生になれるわけじゃないのにねえ……」

(しみじみと酷い……)


 その言葉は、いろいろな感情の混ぜ合わせたものだった。


「でもまあ……それはそれとして、混血だったりすると事情が厄介じゃん。でも志夫は普通の男子高校生で、しかも関係者じゃん。それなら、混血だからって理由で拒絶しないと思ってるんじゃないのかなあ」

(それとは別の理由で拒絶されるとは思わないのだろうか……)


 さて、志夫はいままで『俺でもいいって子はいないのかな』と言ってきた。

 まさにそれが、大挙してやってきたのである。

 これはもう、モテ期と言っていいのではなかろうか。


「母さんたちはほら……私たちにとってはいいお母さんだし、私たちの幸せも願ってくれてるんだよ。でもそれはそれとして、自分たちの幸せも願いたいって言うか……」


 ギリギリ二十代の未亡人たち。

 ギリギリの限界を行く彼女たちの熱い戦いが、ラブバトルが始まろうとしていた。


「なあ明星……これはこれで、ハーレム主人公なのかなあ」

「志夫がそうだと思うならそうじゃないか?」

「じゃあ違う……助けて!!」

「俺バトル以外はちょっと……」

「役に立たねえなあ!」


 なお、攻略対象は逃げようとしている。


「母さんたちのこと、幸せにしてくれないかな」

「重いよ! 普通の男子高校生には荷が重いよ! 一人でも重いのに、十人ぐらいいるよ!」

「……だよねえ」

「わかってるんなら止めてくれ~~!」


 一応申し上げておくが、第二世代の女性たちは全員美人である。

 明星とおなじく、人間の姿になれる者ばかり。また純粋な人間もいた。


 なので彼女たちに志夫が悲鳴を上げているのは……。

 年齢とか容姿とか混血とかではなく……自分の事情を押し付けているからだろう。


「俺はどこにでもいる普通の男子高校生なんだよ~~! 無理言わないでくれ~~!」


 あるいは彼がラノベのハーレム主人公なら耐えられたかもしれない。

 だが志夫は、志夫こそは、真の『どこにでもいる男子高校生』であった。

 無理であった。


「なあ安寿、がっつくのは駄目ってよくわかったよ」

「わかってくれて嬉しいわ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 自分と同世代の子を持つ親(ギリギリ20代)10人、しかも青春に飢えてる、はキツいですね… イチャつこうとしたら子供の顔がよぎりまくりますよ
[良い点] 「普通の男子高校生」に「二十代三十代の未亡人十数人」は荷が重すぎる。 [気になる点] 何でも良いよは、何でも良くないと言うが、性癖の幅が広過ぎるっちゅうのは、どないなんや。 [一言] ある…
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