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管理人は辛い

 明星はスポーツ万能なのだが、スポーツに興味がない。正しく言うと、競技に興味がない。

 その一方で勉強はあんまり得意ではないが、寝る前に宿題をしたり、平均点をとれるように予習や復習をするぐらいには真面目である。


 そんな明星が勉強している時間は、誰も彼に声をかけない。

 その時間を利用して、フォライとジョカは、大親家の面々へ意見を求めていた。


「フォライさんなのですが、教養として『リナイワ』という楽器を演奏できるのです。しかしながら明星様が気に入ってくださるか心配なので、一度皆さんに聞いていただきたいのです」

「よ、よろしくお願いします!」


 明星に凄いと言ってほしかったので、自分にできることを再確認しようとしたフォライ。

 家の都合で習っていた『リナイワ』なら褒めてくれるかもしれないと思ったのだが、演奏できる曲が魔界のものだったため、明星が喜んでくれるのかわからなかったのだ。


「わ、私が超絶技巧の持ち主なら……その、自信をもって演奏できたんですが……そこまでではないので……簡単な曲ぐらいしか……」

「そんなに気を張らなくてもいいわよ。私たちも正直、そんなにわからないと思うし……」

「で、では失礼します……」


 はてさて、リナイワなる楽器はどんなものか。

 楽器と言っても様々なものがある。弦楽器、打楽器、管楽器。片手で持てるもの、両手で持てるもの、持てないほど大きいもの。

 専門家ではない大親一家でも、具体的な名前が言えないだけで結構な種類の楽器を知っている。


(いきなりグランドピアノみたいなのを出されたらどうしようかしら……)

(シンバルみたいなのを単品で演奏したりしないよな……?)


 両親は楽器の種別について心配していた。


(どうしよう、こんなに可愛いフォライさんがヘビメタみたいなすげえのを始めたら……!)

(雅楽とかされても、私わかんないけど……それを素直に言っていいのかしら……)


 なお、双子は音楽のジャンルについて心配していた。


「曲名は『遠い雨音』です」


 その視線を集める彼女が取り出したのは、両手で包めるほどの、小型の『岩』だった。

 まるでサンゴのように細かい穴が開いており、そのうちの一つに彼女は口をつけて、息を吹き込む。

 すると、まるでオカリナのような音があふれ、優しい曲が始まった。


 リナイワが奏でるのは、外国の童謡、という雰囲気である。

 魔族の曲なので正直警戒している面もあったが、なんとも優しいメロディーだった。


 ほんのしばらくの演奏だったが……本人が言ったように、さほど難しい曲でもなかったので、素人が聞く分には特に問題もなく終わっていた。


「ど、どうでしょうか……」


「ええ、上手だったわよ」

「ああ、明星が聞いても凄いって言うと思うぞ」

「うん」

「ええ」


 四人は普通に褒めていた。

 だがそれを見て、フォライは少し残念そうである。


「ナベルさんがビマリを披露したとき……明星様は目を輝かせていたんです……やっぱり私のリナイワじゃ、感動させるなんてとても無理ですね……」

「まあそうでしょうね」


 大親家とちがって、ジョカは割と残酷なことを言った。

 だがそれこそが、フォライにとって必要なことである。


「問題のあるナベルさんですが、ビマリについては一人前です。本人に才能が有り、大好きで、その上練習を怠りませんでしたからね。その彼女だから、明星様を感動させられたのよ」

「……才能が無くて練習も足りていない私が、いきなり感動させられるわけありませんよね」


 事実を羅列されると、人はひるむものだ。

 だが今のフォライは、むしろ燃えていた。


「じゃあ練習します! 明星様に感動してもらえるように!」


 ただ褒めてほしいだけではない、感動してほしい。

 そのモチベーションが、彼女を燃えさせていた。

 それに対して、ジョカは嬉しそうに笑っている。

 そのうえで、大親一家へ質問をしていた。


「よろしければ、明星様の好きな曲などを教えていただけませんか? どうせ練習するのなら、明星様になじみのあるジャンルの方がよろしいかと」


「え?」

「あ、ああ~~」


 それを言われると、双子は弱かった。

 明星が好きな曲はあるのだが、それは大抵アニソンである。

 目の前のフォライに、アニソンを勧めるのは気が引けた。


「そういうことなら……ちょっと待ってな」


 ネットから音楽をダウンロードできる時代には珍しく、CDとプレイヤーを持ってきた友一。

 彼は自信ありげに、再生ボタンを押す。

 すると、なんとも荘厳で、重厚で、いつまでも聞いていられるような、そんな音楽が流れ始めた。


「す、すごくいい曲ですね……」

「ええ、さぞ名のある作曲家の、その中でも代表作となるような曲でしょう」


 フォライもジョカも、その曲に感動していた。

 実際ものすごくいい曲であり、それは大親一家も認めるところである。

 だが志夫と安寿は、やや疑問気味に父を見ていた。


「なあ父さん……コレ、ゲームのBGMだろ」

「フォライちゃんにこれを練習させるの? いやまあ、アニソンを熱唱させるよりはいいけどさあ……」


「ふふふ……名作に名曲あり、だ」


 明星も好き……というか、日本人なら知っている大作ゲームのBGMだった。

 たしかに偉大な作曲家の名曲であり、海外からも評価が高い。


 ゲームのBGMであるということを除けば、フォライが練習しても、披露しても問題ないように思える。


「フォライちゃんが得意げにBGMの演奏をするのかぁ……いや、オーケストラでもやる曲らしいけども……」


 志夫は少し複雑そうだった。

 ゲームのBGMに使われていようと、名曲は本当に人を感動させる。

 彼女に腕前があれば、明星から感動を得ることもできるだろう。

 だがゲームの曲を一生懸命練習する、というのはすこしどうかと思ってしまう。


「友一様、ありがとうございます」

「ああ、いや、大したことはしてないさ。明星のため……とは少し違うけども、頼られるのも気分はいいしねえ」


 友一に礼を言うジョカ。

 それはただお礼を言っているだけであって、媚びは感じられない。

 その姿を見て、安寿は疑問をぶつけた。


「ねえジョカさん、そっちが素なの?」

「は……あ、え……まあそうですね」

「そっちの方が素敵だと思うけど……」


 安寿の言いたいことも、ジョカはあっさりと察していた。

 そのうえで、とても困った顔をしている。


「安寿さん、おっしゃりたいことはよくわかります。ですが……私も後宮の一員ですので、ある程度は理解をしていただきたい……」

「明星だって、そっちの方がいいと思いますけど……」

「……あんまり好かれても困るので」


 ジョカの立場を考えれば、というよりも、ジョカは立場を考えて行動している。

 明星へ最初に伝えたように、ジョカは基本的に後宮の管理者だ。管理者が一番好かれていて、一番嫉妬されていたら、何が何だかわからない。


「……堂々としている、媚びを売らないジョカさんのほうがいいなあ」

「私の前の同僚も、同じようなことを言って引き留めてきましたよ。でも……」


 そこまで言ったところで、二階からすごく大きな音がした。


『な、ナベルちゃん?!』

『なあ明星! ビマリしようぜ~~!』

『いや、俺今勉強中で……』

 

「ちょっと行ってきますね……」

「頑張ってください」


 またナベルが暴走したのだろう。

 彼女を止めるため、ジョカは二階へとにょろにょろ這っていった。


 後宮の管理人は、その性質上女性が望ましい。

 男が管理者だと後宮の女性に手を付けてしまうか、あるいはそうではないかと疑われるからだ。

 もちろんその管理者が女性なら皇帝が手を出してしまうこともあるし、何ならその管理者が自分を優先する可能性もある。なので後宮の管理者には自制心が求められる。


 その役目を負うジョカは、とても大変だった。

 まあ……想定していた大変さとは、少し違っていたのだが。


 その背中には、哀愁が漂っている。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 低音で吾輩は10万六十何歳である。と言って高音で歌い出さなくて良かったw
[良い点] 好かれ過ぎたら困るっちゅうのは、好かれようとしてるフォライちゃんからすれば嫌味にしか聞こえんやろが、まあ、客観的に見た場合、ハーレムやのうて誰か一人しか選べんとなったら、ノータイムでジョカ…
[一言] 竜のアレなのか 学生オケだったが演奏したことあるなぁ
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