天下統一まで我慢
いろいろと問題はあったが、とりあえずジョカがナベルを連れて帰ることにして、フォライもそれに同行した。
残った大親一家のもとに友一が帰ってきて……一家はとりあえず晩御飯となった。
「って感じでさあ、強烈なのが来たぜ」
「いろいろ心配してたけど、それどころじゃなかったわよ」
「悪い子じゃないと思うんだけどねえ……」
「フォライさんがかわいそうだったよ。俺も残念だったけど……」
話を聞くことになった友一は、情報を整理していた。
実際に会わない分には、なかなか笑える話である。
しかしながら、彼の顔は神妙であった。
「どうしたの、あなた」
「いや……ちょっとずれた話なんだが……」
友一は、明星を見た。
「明星はちゃんと就職するまで、子供ができるようなことはしないんだな?」
「あ、うん」
「俺としては配慮(意味深)していればいいと思うんだが……」
「あなた!」
「わかってるわかってる、確かに気を付けたほうがいいからな。ただ……」
妻と意見が違うと認めたうえで、妻の意見を尊重する友一。
その彼は、言いたいことを口にした。
「それって、魔界統一皇帝にならないとだめってことだよな……」
(ハードル高けええ……)
明星はその座を約束されているのでそこまで問題ではないが、文字をそのまま受け止めると『天下統一しないと結婚できない』ということだった。
すさまじいほどの、ハードルの高さである。そんなことを言っていたら、魔族は遠からず絶滅するだろう。
「いやいや、何言っているんだよ父さん。そこはほら、副魔界統一皇帝とか、サブ魔界統一皇帝とか、準魔界統一皇帝とか、魔界一部皇帝とか、魔界県知事とか一日魔界統一皇帝とかやるんじゃねえの?」
「それもそうだな……現時点で皇太子なわけだし……」
「よく考えたらそうなるか……どのあたりでオッケーなんだろう……」
大親家の男たちは、具体的な線を考え始めた。
高校を卒業したらそのまま魔界に就職するのだろうし、そうなったらそのまま解禁なのだろうか。
世間一般において十八歳の就職している男子は大人であろうし、許可されても不思議ではない。
ただ他でもない男子たちとしては、それはアリなのか、と考えてしまう。
「父さん……俺あと三年かそこらで高校卒業するんだけどさ~~……あと三年で結婚するヴィジョンが見えねえよ」
「俺もだよ、おじさん。おじさんはどうだった?」
「高校を卒業したときの俺か……あの時点で親になるのは無謀だったな……。しかしまあ、言い出したらキリが無いのも事実だ」
果たしていつになったらちゃんとした大人になれるのか。
それは男子にとっても女子にとっても、永遠の命題だと言えるだろう。
「とりあえず今がダメなのはわかってるんだから、フォライちゃんと向き合ってあげなよ」
「ナベルちゃんのこともね……あの子も悪い子じゃないんだから」
「うん……それはそうだよな~~」
桜と安寿から直面している問題を突き付けられて、明星は問題を先送りにした。
どのみちこの程度の問題も解決できないで、一人の父親になることはできまい。
(でもまあ……そのフォライさんとナベルちゃんがヤバいんだよな……)
※
フォライ、ジョカ、ナベル。
この三人は現在、拠点となっている家へ集まっていた。
三人とも明星の奥さん候補であり、一応は仲良くしなければならない間柄なのだが……。
表向きさえ仲良くしたくない、という空気がフォライからにじんでいた。
「なあ、アンタがフォライ?」
「そうですが……!」
「なんでそんなにイライラしてるんだ?」
「貴方が……貴方が……!」
(よっぽどいい雰囲気だったのね……)
ジョカは明星とフォライについて、ある程度理解していた。
二人ともいきなりキスをするような男女ではない、きっとその手前の、初々しい何があったのだろう。
だがそれでも、二人にとっては大事だったのだ。なにも粘膜接触だけが、愛情表現ではないのである。
「あ、子供を作ろうとしてたんだ!」
「ちがいます!」
「じゃあオレが先でもいい?」
「よくありません!」
機微がわからない、というか何もわかってないナベル。
どうやったら自分の怒りが伝わるのかわからないフォライは、もうつかみかかりそうな勢いだった。
「……ナベル。明星様がおっしゃっていたように、まず明星様と仲良くするところから始めましょう」
それを切るように、ジョカが提案を始めた。
「確か貴方は、ビマリが好きなんでしたよね?」
「うん! オレ大好き!」
「人間界にビマリはありませんので、明日にでも明星様に教えてあげるのはいかがですか? 一緒にビマリをすれば、きっと楽しいですよ」
「……うん! オレ、教えるよ!」
ノリノリになるナベル。
胸の核を輝かせて、大いに興奮していた。
面白くないのは、フォライである。
恨めしそうに、ジョカを見る。
「フォライさん……冷静に考えてください」
「なんですか……」
うるうると涙目のフォライ。
彼女に対して、ジョカは冷静な突っ込みを入れる。
「あの子が、黙っていると思いますか」
「……思いません」
「一度は譲ってあげましょう、その後は流れで貴方に回しますので……」
「わかりました……」
果たしてこれは、バカが悪いのか、大人が悪いのか。
円滑な人間関係とは、かくも難しい。
「よし、じゃあ行ってくる!」
「ま、待ちなさい! 人間界には昼と夜という概念があるのです!」
「ナベルさん、いい加減にして~~!」
まだ三人目、もう三人目。
それでこの状況なのだから、先が思いやられるとはこのことだった。