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船3

ラスト三話です


 ▲▽▲▽▲▽▲▽


「イーサン様、私は大丈夫です」

「怪我はないようだな。ところで一人登場人物が足りないように思うのだが。そのあたりにいるんだろう? いい加減出てこい!!」


 イーサンが叫ぶと、船底から伸びる階段をギシギシと鳴らし上がってくる足音が聞こえた。規則正しいリズムと共に現れた姿は逆光で黒いシルエットのように見える。


 ナディアとイーサンが、目を細め見ている中、その男はプリシラの横に立った。プリシラが当たり前のように腕を絡ませる。


「よく分かりましたね」


 銀縁の眼鏡が夕陽にギラリと光った。ナディアは蔑んだ視線を二人に向ける。


「全ての襲撃があまりにタイミングがよすぎましたから、気づきました」


 ナディアは一歩踏み出そうとするも、肩をロドリックに抑えられてしまう。フランクに続きやってきた男達が回りを取り囲むと、そのうちの一人がナディアに剣先を定める。しかしナディアは構うことなく話続ける。


「マルシェに行く前日、あなたはラーナに案内先の候補地をいくつか聞いたそうね。事前に行き先を知ったあなたは、それぞれの場所で襲撃の準備を整え、私達を待ち構えた。でも、私とラーナの能力を甘く見たせいで計画は失敗に終わった」

「まさか、ナディア様達がナイフを持つとは思いませんでした。まして、ラーナの投げるナイフが、弓矢に匹敵する距離を飛ぶなんて。あの女の肩は一体どうなっているんだ」


 ナディアはその言葉に少し口角をあげた。女だからって甘く見ないで欲しい。


「それから宿での襲撃ですが、偽宿主を探すようイーサン様に頼みました。先日見つかり尋問すると全部白状したそうです。岩で道を塞いだのもあなたの指示だったとか。あの宿に泊まるのは私達にとっては予想外でしたが、あなたにとっては計画のうち。偽宿主夫婦も客も全部あなたが雇った人達です」

「どうして宿主が怪しいと思った」

「私が三人目の襲撃者を追いかけて外に出たとき、雨でぬかるんだ地面に足跡がありませんでした。ならば考えれることは一つ。襲撃者は入り口の上にある屋根に飛び乗り小屋の中に戻った」


 その時は違和感を覚えながらも、その正体が分からなかった。でも、雨上がりの道に馬車の車輪の跡が続くのを見て、その違和感の正体に思い至ったのだ。


 偽宿主の話では、ナディアが部屋に戻ったのを見計らい男達の手当をしたらしい。フランクはナディア達が宿を出たらすぐに逃げるよう指示をしたそうだ。

宿から森に少し入った場所に馬が繋がれていた跡が見つかっており、四人は馬で逃げたと考えられた。


 それで捜索範囲を広げたところ、反対側の川岸で本物の宿主の夫婦の遺体が見つかり、二つ向こうの街で襲撃者を捕縛した。


「フランク、お前の望みはなんだ? 俺の命ならくれてやる。だからナディアを離せ!」

「もちろん貴方の命ですよ。貴方が帰国したせいで計画が全てくるってしまった」

「その計画とは、教会の使途不明金を着服することか」

「まさか、そんなものは些末なことにすぎない。そもそもこの領地は俺が治めることになっていたんだ。それを王太子殿下が勝手にお前を呼び戻し公爵とした。」

「なっ!!」


 イーサンは目を見開き、次いで軽く頭を振った。


「それは嘘だ。領地を誰が治めるかは決定していないと兄は言っていた」

「正式に任命されていないと言う意味だ。親戚縁者から数名、名前は上がっていたが、カーデラン国からすれば辺境の地、誰も手を挙げなかった。そこで俺はこの国について調べたんだよ。小さい何もない国だと思っていたら、教会との癒着で金を得ることも、炭鉱の台帳を誤魔化し金を作ることも容易にできそうだ。だから、俺が治めると名乗り出ようとしたところで、お前が帰ってきた」


 名乗り出る前だったので、当然王太子はフランクの考えを知らない。知っていたら、謀反を危惧しイーサンの側近にはつけなかっただろう。

 ルシアナにきてすぐフランクが接触したのは教会。話を聞くなりロドリックはフランクを支持することを即決した。


「教会側としても、悪魔のような容貌を持つ方が公爵となることは受け入れられない。不満や恐れを持つ司教やシスターが多く出てくるのは必須ゆえ、失脚して頂く必要があります」


 ロドリックの言葉にナディアが堪らず声をあげた。


「そんなの言いがかりでしょ? あなたは私腹を肥やしたいだけじゃない!!」


 次いで、フランクの隣にいるプリシラを見る。


「プリシラ、あなたの望みは何なの?」

「ふふっ、それはもちろん公爵夫人です。お姉様がいなくなれば、王族の血を継ぐ未婚の女性は私だけになります。フランク様は、ルシアナ領主となった暁には私を妻にすると約束してくれました」


フランクから話を持ち掛けられたプリシラは、即座に頷いた。ナディアを気に入っているイーサンを振り向かせるよりその方がずっと早く確実に思えたからだ。

フフフと笑うプリシラは、ナディアの理解を超えている。


「今のあなたは聖女でもなんでもない、醜い犯罪者そのものよ。もう私のことを二度と姉と呼ばないで。」

「なっ!!」

「……姉妹喧嘩はそれまでに。どのみち、二人にはこの船で死んでもらうのだから」


 プリシラは、初めて向けられた侮蔑の視線と言葉に顔を歪めるも、フランクの言葉を聞きにまりと笑った。ナディアにはその顔こそが悪魔に見えた。


「俺を殺したあとは兄になんと言うつもりだ? 誤魔化しきれるとは思えん」

「何、問題ない。信仰深い信徒により、海の魔物として殺されたとでも伝えておく。あぁ、それからラーナを頼っても無駄だ。俺の仲間が港の倉庫に閉じ込めているからな。あいつの遺体もあんた達と一緒に浜辺に投げ捨てて置こう」


 フランクはクツクツと笑いながら、プリシラから離れるとナディアの背に剣の切っ先をあてた。


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