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船1


 結婚式 一週間前


 真っ白なウェディングドレスがナディアのもとへ届いた。といっても部屋に届いた訳ではない。城内にある教会の一室が花嫁の控室となっていて、そこに運ばれたのだ。

 試着してサイズに問題がなければ、このまま式まで控室に置いておくことになっている。


 ナディアが少し躊躇いがちに生地に触れる。


「ナディア様、調整をいたしますので御試着ください」


 仕立て屋の女性達に促され着ている服を脱ぐと、少し緊張しながらドレスを身に纏った。


 ホルターネックのシンプルなAラインのドレス。首元からデコルテにかけては細かなレースになっていて、裾はふわりと控えめに広がっている。


 ナディアの細く引き締まった身体によく似合っていた。一見、シンプルすぎるようにも見えるけれど、ドレス全体に銀糸で細かな刺繍が施されているので、一目で高価と分かる品だ。


 その洗練された華やかさに、部屋にいたスザンヌだけでなく、ラーナでさえ思わずほぉっとため息をもらした。


「苦しいところはございませんか?」

「いいえ、まったく」


 にこりと微笑みながら、太腿あたりの余裕を確かめている。


「ナディア、もしかして帯剣するつもりじゃないでしょうね」


 その様子を見てラーナが耳元で囁く。


「もちろんそのつもりよ。いつ狙われるか分からないし」

「衛兵、いっぱいいるから。私もいるから」

「でも、イーサン様の一番近くにいるのは私だからやっぱり持っておいた方がいいと思うの」


 自分を守るためではなく、イーサンを守るために持つ気のようだ。ラーナは、いい加減守られる側になったと自覚して欲しいと思うも、それは無理かとあっさり諦めた。


「スザンヌ、脱ぐのはラーナに手伝ってもらうから仕立て屋さんをイーサン様のもとにご案内して」

「畏まりました。ではラーナ、ハンガーをこちらに置いておきます。くれぐれも汚さないように」


 イーサンは自室で試着するので、案内が必要。スザンヌはじとりとラーナを見て念を押すと、仕立て屋と一緒に部屋を出ていった。



 控室に残ったのはラーナとナディアの二人。ナディアは早速剣を太腿につけると、鏡の前でくるりと回る。


「いいんじゃない?」

「そうね。パッと見、帯剣しているとは分からないわ」


 ナディアがドレスの動きやすさを確認するのを、諦め顔のラーナが見守る。しゃがんだり跳ねたりとやけに念入りだ。


 ふいに扉を叩くと音がしてラーナが開けると、困った顔のフランクがいた。


「ナディア様のドレス姿をイーサン様より先にお見せするわけには行かないので、ここでご用件を聞いてもいいですか?」

「もちろんです。実は先程、プリシラ様が来られまして。ナディア様はドレスを御試着されているので帰るようお願いしたのですが、だったら尚更会いたいと言い張られて……」


 フランクの言葉を遮るようにプリシラがその後ろから現れ、控室へと押し入ってきた。


「家族なのだから私がウエディングドレス姿を見ても構わないでしょう? 結婚前に姉妹の時間を持ちたくて来たの。ラーナ、お茶を頼めるかしら」

「……畏まりました。ただ、お茶の用意は城にありますので少し時間がかかります」

「かまわないわ。それからフランク様、このワインをイーサン様にお渡ししてください。義妹からの結婚祝いですわ」


 プリシラは強引にフランクにワインを手渡すと、ラーナを部屋からおいやりバタンと扉を閉めた。


「お姉さま、お久しぶりです」

「プリシラ……突然どうしたの」


 ナディアは頬が引きつるも、やってきた妹を無下に帰らせる理由が思いうかばず、仕方なくソファを勧める。でもプリシラはソファではなくナディアに向かってきた。

どうしたのかと身構える間もなく、持っていたハンカチで鼻と口をふさがれてしまう。


「えっ、プリ……シラ、なぜ……」

「だって、やっぱりお姉様より私の方が相応しいですもの」


霞んでいく視界の中、聖女の笑みを浮かべるプリシラの姿が最後に見えた。



夜にあと一話投稿します

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