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婚約披露パーティー2

 

 イーサンとの食事が終わり夜も更けた頃、剣を手に持つ人影が二つ。


 ひとりが大理石の床をキュッと踏み短剣を突き出す。出された方はギリギリで交わすと身を屈め足を払おうとするも、飛んで交わされ首元に剣を当てられた。


「参りました」


 ラーナが両手を上げると、ナディアは剣を首から離しにこりと笑う。


「これで九勝一敗。今夜も私の勝ちね」

「弓矢なら負けないわ。今度は外で勝負よ」。


 淑女教育で鬱憤が溜まるたびに騎士団に八つ当たりしに行くわけにもいかないので、ナディアは最近寝る前にラーナと剣の勝負をすることに。


 ふぅ、と一息ついて水差しの水をグラスに注ぎ一気に飲み干すと、ナディアはソファに座り小さくため息をついた。勝ったのにどうしたのかと、ラーナも隣に座る。


「どうしたの? 婚約披露パーティーを控えナーバスになっているとか?」

「うーん、そうじゃなくて……」


 ちょっと宙を睨んだあと、ナディアはこの一ヵ月感じていた疑問を口にする。


「イーサン様の噂について知っている?」

「あー、悪魔のように冷酷で傍若無人。女癖が悪くすぐ暴力を振るう、ってやつ?」


 何か噂が増えている気がしないでもないけれど、ナディアはとりあえず頷いた。


「そう、それ。私一ヵ月一緒にいるけれど、そんな人には見えないのよね」


 ナディアが首を傾げる様子を見て、ラーナがふむふむと頷き身を乗り出す。


「それはどうして?」

「うーん、例えば、ダンスの練習で何回、いえ、何十回と足を踏んでも嫌な顔ひとつしないの」

「ふんふん」

「で、たまに私の足を踏むと、すごく焦って謝ってくれるわ。キャシーの話では私の足を踏まないために一人で自主練しているとか」

「うんうん」

「それに無駄な政策をやめ、貿易に力を入れ、税金だって以前より安くなって。皆喜んでいると聞いたわ」

「それから」

「孤児院への援助を増やされたわ。それから、教会から孤児院への資金の流れを明確にして私腹を肥やした神官を処罰した」

「よく知っているわね」

「キャシーがお茶やお菓子を差し入れてくれるついでに教えてくれるから」


 ナディアはそこまで話すと、残り少ない水差しの水を二つのグラスに均等に入れた。  


「噂は所詮噂ってことじゃない?」

「でも、火のないところに煙はたたないって言うでしょ?」

「じゃぁ、本人に聞けば? 婚約者なんだから」


 あっさり言うラーナをナディアは半目で睨め付ける。それができないから話をしているんじゃないか、と思う。


 確かに見た目は怖いし、眼帯は不気味かも知れない。大柄で鋼のような体躯に気後れする令嬢もいるだろうけれど、噂されているような悪魔とは違う。


 むっと口を尖らすナディアに、ラーナは呆れ肩を竦めると、グラスの水を飲み干し立ち上がった。時計を見ればもうすぐ日が変わる頃だ。


「噂なんかより、自分の目で見たものを信じればいいだけじゃない。私のカンではイーサン様はいい人よ」

「……そうね」

「そうと分かればもう寝なきゃ。おやすみ」


 ラーナはナディアの肩を叩くと、手をひらひらさせ部屋を出て行った。

 残されたナディアは少し水が入ったグラスを見て小さく息を吐く。


(確かにラーナの言う通りね。私も自分の目で見たことを信じよう。何よりラーナのカンは外れない)


 ナディアはソファから立ち上がると、着ていたシャツとズボンを脱ぎ、隣の浴室に向かった。湯は冷めていたけれど、汗をかいたので丁度良い。


 腕を背中に伸ばし、一ヶ月前についた刀傷に触れる。醜い傷跡。でも、イーサンが『名誉の勲章』と言った跡だ。そう思うとなんだか誇らしくなってくる。


「この傷跡を受け入れてくれる男性がいるなんて思わなかったわ」


 そこまで言って、ぼっと赤くなり慌てて湯船に頭まで沈む。


(私ったら何を考えているの? 受け入れてくれるなんて! これは白い結婚なのに!)


 水中から顔を出し、ぷはっと息を吐くと手で湯を掬い顔を何度も洗う


(やっぱり緊張してるのかな。私、思考がおかしい)



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