ユーグリド・アイザック
いつものように女神に祈りを捧げている最中に女神の贈り物である《愛玩人形》が各国の教会に送られた神託が降る。
何百年と続く贈り物は必ず国一番の教会に届き、司教や司祭によりランク分け後に各地の教会に送られる。昔からある制度であるが、何故か毎回送られる愛玩人形は必ず裸で男性司祭を困らす悩みの種でもあるが、慣れれば一瞬のことの流れ作業。紳士的に丁寧に話しかけ素早く移動する。
言葉が通じない愛玩人形から暫くすればある程度言葉が通じる愛玩人形まで様々で、ただ必ず人ならざぬ耳や尾などを持つ。そう、人ではなく人形…死ぬことはなく、怪我ではなく破損はするが主の魔力があれば修復する彼女達はまさに女神から授けられた人形。魔力なしには停止する人形。それが愛玩人形。
一部には愛好家もおり収集する者もいれば、魔法が使える愛玩人形は生活から戦闘までのサポートをこなす優秀な人形であり、婚姻すれば子作りまでと流行り病で女性不足に陥った時にはかなりの助けになった記述もある。婚姻後、愛玩人形のサイズに戻ることもなく、耳や尾も人と同様になるが魔力が扱えることは変わらない。まさに《愛玩人形》は神の神業といえる。教会でも治癒や光魔法を使えるものは相棒として連れる者もいる。
愛玩人形が届く神聖なる部屋の扉を開けると…やはり毎回すぐには言葉は通じず、異世界での記憶のある愛玩人形はこちらではわからない言葉を発している。
何故かこの部屋には愛玩人形が届いた時には女性は入れないために必ず男性である司教や司祭が運び出さなければならないことに申し訳なく思いながらも、丁重に扱うように指示をだす。
こちらが言葉を発することで言語を素早く習得する愛玩人形がいるため、一つ一つの愛玩人形に話しかけ、運び出す。教会で預かっている間の彼女達は女神から授けられた贈り物なので丁重に接する決まりである。
それを眺めているが、やはり獣型のが多い。エルフ型や妖精型もいるが…毎回あまり変わらない。過去の資料によれば、特殊な愛玩人形もいたようだが、私が神官長となってからはまだ目にしたことはない。この世界にはいないがあの姿は愛玩人形達の前の世界では獣人やエルフや妖精と呼ばれる姿だと言われておりこちらに来る際に自ら選んだ姿と聞いてある。
特殊な愛玩人形…その愛玩人形は大抵高ランク愛玩人形であり、スキルも良いとあった。その時は王への報告義務があり、さらに丁重に扱うようになっている。王族と結婚したケースもあるほどの有能さだと。
そんなことを考えているとふと目に止まる愛玩人形がいた。
色とりどりの鳥かごの中で輝くような美しい装飾のある銀の鳥かご。中には裸の愛玩人形ではなく、高位貴族にも劣らぬシンプルだが質の高い艶のある純白な生地に見事な銀糸の刺繍のリボンのドレスを纏う美しい女性。獣でもなく、耳長などの特徴はなく、サイズ以外はまさに人と…貴族令嬢と変わらぬ姿に目を引く。
夜を溶かしたような美しい艶のある深黒の髪に、空を移したかのように煌めくアクアマリンの瞳は僅かに陰り怯えを宿していたがこちらをみるとその宿した感情はスッと消えた。このような状況だが、冷静に感情の隠す技術もきちんと身に付けている。大きな瞳にスッと通った鼻筋、フワリと笑みを浮かべる愛らしい唇。
こちらにきてすぐの愛玩人形は通常暴れるか恐怖や恥ずかしさから肌を隠し泣きわめく。だが、この方は私が近寄ると緩やかに立ち上がり美しいカーテシーまでできるほど冷静かつ優雅。鳥かごさえなければ公爵家の令嬢や一国の姫君と見間違えるほどである。
話しかければやはり言語も通じる。こちらを観察する視線からスキルで習得中としても、かなり早い適応能力だ。すぐに他の愛玩人形とは別の特別室へと案内した。
言語能力なしの愛玩人形に言語能力ありの愛玩人形。それから日をかけて更にランク分けしていくのだが、あの方だけ異様に言語習得もはやく一週間もすれば単語を話せ、1ヶ月あたりにはスムーズに会話が成り立つほど。聞き取りはできても話せるようになるまでは他のスキル持ちの愛玩人形でも1ヶ月以上はかかるのにだ。
そして魔法能力も異様に高い。言語のスキル持ちは通常単一の属性魔法が使えるとよいほうで、把握してある限り初めは3つのスキルしかないはずだが…おかしい。
無から有を生み出し、更には水や火の魔法を使い紅茶を飲むほどであり、机や椅子だけではなく茶葉や菓子さえも生み出す能力。
スキル名称などは教えてくれず、はぐらかす変わりにこちらにどのような魔法が使えるかは披露し、自身の価値を高める。一度、羽もないのにフワリと浮かぶ姿もみたがおとぎ話の精霊のようでもあった。羽や翼持ち以外が飛ぶのは書物にもなかった。
この世界は魔力はあるが人間にはあまり扱えず、生活魔法が使えると良い方だ。それよりも魔物からの魔石を使い魔道具として使用するか、愛玩人形を購入して魔力の使用を頼むのが一般的である。魔石も高価な為に愛玩人形からの情報から有した書物からみてもこの世界は他の世界よりもかなり原始的な世界だと確認もとれている。愛玩人形の知識から徐々に豊かになっているがまだまだなのは否めない。何よりこちらからすれば愛玩人形からの話は夢物語に近い。
あの方なら知識もかなりありそうなので、親しい貴族の誰かに購入か、いっそ私が…とも考えたが、魔法能力をみるかぎりあの子の役にも立ちそうだ。
手紙を出して返事もきたし近いうちにこちらへ帰ってくるだろう。兄上にも話をしたらあの子にと連絡もきたからね。まさかプレゼントにしようて持ちかけられるとは思わなかったが…悪くない。あの子になら私から出そう。兄上だけなんでズルいですから。
何度か愛玩人形を見て購入を悩んだが結果的に今まで持たなかったあの子でも気に入りそうな賢く美しい愛玩人形。貴族令嬢としてもきちんとできるのに時々扉からは可愛らしい無邪気な声や寂しそうな泣き声が聞こえる。
あの子ならきっと愛玩人形を気に入って大切にしてくれるはず。ふふ、あの子に会うのも久しぶりですし楽しみです。さて、ある程度までは手続きを済ませておきましょう。
この世界には人と愛玩人形、魔物しかいません。獣人やエルフや妖精は愛玩人形としての姿の型と認識されており、おとぎ話ででるのは精霊や女神です。女神は神、精霊は女神の遣い、愛玩人形は女神の贈り物という認識です(´ε`;)ゞ