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普通すぎるほどに異常な生徒たち  作者: 天野るみ
第一章 壊れていく
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第十話 新たな可能性






 ──午後十二時三十三分




【奥宮梅葉】



(まどか)


 四限目の終了を告げるチャイムが鳴り、各々が自身の昼食の準備をし始める。


 今朝『相談したいことがある』と言われた私は、当の円の元へ近寄り声をかけた。

 軽く顎で扉の方を指し、それに頷く彼女と教室の外へ出て早速本題に入る。

「それで、話って?」

 私は、きっと円はエンパスで何かに気付いたのだろうとみていたが……相談とやらを話しそうな気配が感じられない。気のせい──とは思えない。

「あの……梅葉(うめは)……『話って?』って…………私に何か用があるから呼び出したんじゃないの?」

 予想外の答えが返ってきた。

 単にとぼけている風には見えないし、忘れている──というより()()()()ように見える。……しかし、つい今朝のことだというにも関わらず、こんなこと有り得るのか。

「……今朝、円が『相談したい』と私に声をかけてきたのだけれど」

「え? そう……だったっけ…………」

 ──本当に何のことか分からないといった表情だ。

 円は雛子(ひなこ)光空(みそら)のように忘れっぽいところがあるというわけではない。むしろしっかりしている方だ。

「んー…………忘れちゃったみたい……。ごめんね、わざわざ時間取らせちゃって……でも忘れるってことは、大したことじゃなかったのかもね」

「…………そう」

「じゃ、もし思い出したりしたらまた言うね」

 ロブヘアを揺らし教室内へと戻っていく円の後ろ姿を見ながら、私は胸に引っかかりを覚えていた。


 そして、いくつかの仮説を立ててみる。

 何故円は、数時間前の自分の発言を忘れていたのか。

 考えられるのは…………。


 一、「忘れたふり」で巧妙に私を欺いている

 二、何者かによって()()()()忘れさせられた


 ……一は考えにくい。心理学に詳しいわけではないが、普通の人間よりかは多少の嘘を見抜けるつもりだ。もし円が覚えていないふりをしていたのだとしたら相当な演技力だ。

(……となると二か)

 いずれも蓋然性(がいぜんせい)は高くないが、後者の方がまだやや現実的かもしれない。

 “何者かによって”。それは(イコール)何らかの()を使ったものだと推測できる。一重に「力」と言っても、催眠術のような、いわば“洗脳”に近いことだとも言えるし、()()()()()()()()だと………………“超能力”とも考えられる。

 しかし超能力なら誰が? E組全員の能力は把握しているが、そんな能力を持つ者は一人もいない。強いて言うなら、“周りには()()()()()能力”ぐらいだろうか。


 会都やヒトミなど、使える能力が細かく分けて二種類以上ある者がいるが、表向きに明かしている力以外の、もう一つの力は意外と私達に教えていなかったりする。それは能力だけではなく、能力を使用する際の条件・制約にも共通することだ。

 例えば雛子の“コピー”。先日、彼女の能力は「対象が一定の範囲内にいないと発動できない」と皆に(勝手に)公表したが、あれは私を含めた数人しか知らないことだった。本人曰く『聞かれたら話すけど、別にわざわざ喋ることでもない』そうだ。確かに、皆が知らなくてもあまり影響が無い条件などは、言う必要性は無いとそれぞれ判断するだろう。


 ────()()のように、“言いたくない”という場合もあるが。




 ()()────時雨てまりは、〈時を操る〉能力者。

 “時間”を操作できるなんて()()()()()()()()能力、初めは信じられなかった。けれども、()()()……てまりに()()()を聞いた時、少しだけ納得した。



 皆はてまりの力を最強だと思っているが、実はそうではない。

 〈心から念じて口にしたことが現実になる〉。──そんなかなり強力な能力を持った実言さえ、色々制限はある。緋咲にも、透にも、光空にも……何かしら条件や能力の範囲がある。勿論私自身もそうだ。「完璧」は無い。……だからてまりも、絶対に何かあるはず、とは思っていた。


 案の定、予想は的中した。が、それは……想像を超えるものだった。




『時間を止めた分、時空を移動した分、時間を──動かした分だけ…………私の寿命は減ってくんだよね』




 思考が一瞬停止した。心臓の鼓動が跳ね上がった。



 てまりの能力に疑問を持った私は、ある日の放課後、彼女に訊ねた。


 “能力の効果が強ければ強いほど、それによる跳ね返りも大きくなる”。私はなんとなくそのことに気付いていた。“跳ね返り”は全ての能力にあるわけではないけれど、ヒトミが「遠隔視を使用しすぎると過度な負荷により失明する」ように、人によって取り返しのつかないことになる場合もある。

 そのため時間操作という超能力を持っているてまりは、それは大きな反動があると考えていた。光空みたいに自分の能力を自らよく使ったりはしないが、誰かに頼まれた時などは割と使用している。もし皆に()()を隠して能力を使っているのなら、内容によっては()めさせなければならない────そう思い、問い詰めた。



 その結果、返ってきた答えがこれだ。



 かすかに目を細めて校舎を眺め、どこか遠くを見るような目ではにかむ彼女を前に、私は言葉が出てこなかった。


『梅葉になら──話してもいいかなって思って』


 ──自分の命にも関わることなのに微笑んでいる。


『どうして……』

『?』

『何故今の今まで隠していたの……?』

『……そんなの、心配させたくないからに決まってんじゃん』

『大事なことじゃない。心配かけたくない以前に、てまりの命の問題──』

『今更そんなこと言えるわけないでしょ!!!!』


 私の言葉を遮って、てまりが声を上げた。誰もいない中庭で、彼女の張り上げた声だけが静かに響く。


『もしそれをみんなが知ったらどうなる? みんなの何気ない言葉が、私の命を削っていたなんて知ったら……きっと自分達のことを責める……!!……私はこれでいい……このままでいい…………!! だから梅葉も、みんなには……言わないで』

『……てまり…………』


 何かに耐えているような表情だった。今にも泣き出しそうな、辛そうな顔だった。


『……………………………分かった、約束するわ』


 少し毒舌で、気が強く真っ直ぐで。……でも、誰よりも仲間(私達)のことを想っている。

 そんな彼女だからこそ、私には口出しすることができなかった。


 西日の逆光で上手く顔が見えなかったが、『ありがとう』と小さく呟いたてまりは、恐らくまた、嬉しそうに……どこか悲しそうに微笑んでいたと思う。




 ────あの日のことを思い出しているうちに、数分が経っていた。



 脱線してしまったがとにかく、もしも人の記憶を消す・忘れさせる()()()()を持った人物がいるのなら、かなり危険だ。今回の円のように、奴に繋がるかもしれない手がかりを潰されるとなれば厄介だ。


 ……だが、隠し能力はメインの超能力の内容と関連があるはず。

 「記憶」に関わる能力────桜詠のサイコメトリーと私の絶対的完全記憶ぐらいだが……サイコメトリーは物体に残る記憶を読み取るのであって、人間は関係無い。その上“消す”のとはむしろ反対の力だ。私の能力も、大まかに言えばただ“記憶力”を特化させただけなので、いずれも該当しない。

 円の記憶を消させたのは恐らく奴(あるいはその協力者)だ。そして奴はほぼ確定的にこのクラスの人間。けれど、相当する人物がいない。

(…………………………待てよ……)

 もう一つ、考えられる可能性があった。


「…………第三者」


 自然と口から出たそれは、自分が早々に『確率は低い』と犯人の候補から外した可能性だった。

 しかし、他人の記憶を消せる能力を持っているのだとしたら話は別だ。我々が『ホームルームが始まるまでの間、他の生徒及び教師は誰もE組には来ていない』という“記憶”も、もしかしたら()()()()()()だけで、本当はE組以外の第三者がいたかもしれない。──そう考えると、知らず知らずのうちに記憶を消されている恐ろしさを感じながらも納得ができた。


(もし本当にそうなら、この学校の人間全員が敵ね……)


 かすかに口角が上がっていることに気付き自分で自分に驚いたが、この短時間で視野が一気に広がったのはある意味いい収穫になったと言える。ほんの少しずつでも、奴に近づいていっている。


 ──このまま、奴の尻尾も掴んでやる。











【小日向遥陽】






 ──午後十二時四十分




 梅葉と円が教室を出てから、七分。

 やっと梅葉も戻ってきた。何やら考えごとをしているみたいだ。

「円はすぐに戻ってきたけど、何かあったのかな」

 光空が口元を手で隠すようにして耳打ちをしてきた。「さあ……」と肩をすくめ答えたが、ちょっとあたしも気になってきた。

 けど、よく見たら梅葉が地味に笑っている……気がする。思わず二度見してしまったが、二回目に顔を見た時にはもう普通の表情に戻っていた。

(気のせいかなぁ…………)

「どうかしたの?」

「えっあっ大丈夫! なんでもない〜」

「……?」

 雪南(ゆきな)に訊かれとっさに誤魔化した。


(いや、でもあれは見間違いじゃない! 確かにちょっぴり笑ってた! 多分!──梅葉が笑う時って、大抵何か分かった時とか()()()()()を見つけた時とかだけど…………はっ、まさか……!)


 梅葉は犯人が分かったんじゃ……!?


「……いや、さすがにそれはないか」


 …………しかしあの真相を見抜いた探偵のような表情、絶対何か分かったに違いない。

 と、どうも気になってしょうがないので、後で訊いてみることにした。

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