「概算って大切なんだな」と思った出来事
もう2ヶ月も前になりますが『wikipediaの間違いを誰も直してくれないので、自分でアカウント登録して修正してみた』という、wikipediaを初めて修正したときの体験を投稿しました。
多くの方にお読みいただき、評価していただいたことで、一時、ランキングにも顔を出すことができました。ありがとうございます。
さらに数名の方からは、ありがたいことに感想まで頂戴したのですが、そのうちのお一人の感想を読んでいて思い出したことがあります。
それは概算ができる能力の大切さです。
もう15年も前に聞いた話で恐縮ですが、私の知人の書店主は、アルバイト学生を雇うときに必ず百ます計算をさせていると言っていました。
なぜそんなことを行っているのかというと、暗算がきちんとできるかを確認するためです。
これを聞いて、ほとんどの方は「どんなアホがバイトの面接に来るんだよ!」と笑われることでしょう。私も初めて聞いたときはそう思いました。
ところが、その意図と現代の学生の実態を聞いて私は背筋が薄ら寒くなりました。
実は、今日びのアルバイトの学生さんは、おつりの桁を間違える人が少なからずいるそうです。
どういうことかというと、たとえば、税込720円の本を買って千円札を出した客がいたとして、おつりを9,280円渡すということです。
冗談だと思われるでしょうが、これは実際にあった出来事で、しかも1回だけの出来事ではなく、複数回あったそうです。
本の1冊当たりの利益が大変少ないことはよく知られています。万引きによって倒産に追い込まれる書店があるのはそのためです。数百円単位の万引きですらそうなのですから、一度に9,000円以上の損害を複数回受けていたらお店としてはたまったものではありません。
では、間違えた学生さんたちの頭が悪かったからなのかというと、一概にそうともいえないようです。なぜなら、優秀な進学校に通う学生さんであってもやらかす人はやらかすし、入試の偏差値で10以上低い実業系の学校に通う学生さんでも、大丈夫な人は大丈夫なのだそうです。
では、なぜ、そんなことが起こってしまったかというと、失敗した彼らは、レジの数字を盲信してしまうようなのです。
『1000』とタイピングするところを『10000』と打ってしまうのは比較的ありがちな間違いです。
その結果、本来『280』と数字が出るべき所に『9280』という数字が出てきたとします。『1000円もらって700円余りの買い物をしたんだからおつりは200円以上300円未満だな』と考え、こんな数字が出たら『あ、レジ打ち間違えた。やりなおそう。』と考えるのが、私や書店主の常識だったのですが、間違えた彼らはレジの画面に出た『9280』を疑うことができなかったのです。
件の書店ですが、その後しばらくたって商品管理システムを導入ました。
商品管理システムがあればレジ打ちミスがなくなるので、採用試験の100マス計算をやめたのかと思いきや、今でも変わらず行っているそうです。
店主は、その理由について、
「コンピュータとはいえ全くバグがないとは限らないし、バーコードだってミスがないとは言い切れない。停電でレジが動かないことだってあり得る。最後の砦は人の力だから、ヒューマンエラーを起こしやすい人材は怖くて採用出来ない。」
と言っていました。
最近の技術の進歩はめざましく、昔ならいちいち電卓(あるいは算盤)をいじって手計算していたものが、専用のアプリや表計算ソフトに数字を入れればあっという間にコンピュータが計算をしてくれるようになりました。また、ほしい情報は本を買ったり図書館に行ったりしなくても、インターネットで検索すれば大抵は容易に得ることができます。
しかし、他のエッセイでも触れましたが、ネットで得られる情報は信頼性に乏しいものが多く、決して鵜呑みにはできません。市販のソフトウェアを使ってもバグがないとは言い切れません。当然、表計算ソフトを使って自分で作った表など、セルの計算式が間違っていたり、式が消えていたり、入力した値そのものが間違っていたりということもあり得ます。
そのバグやミスに気づけるかは、最後は人間の感覚にかかっています。普段からその感覚を鍛えていれば、まさかの時に損はないと思います。
かの書店主がしたように、100マス計算の特訓をしろとは言いません。例えば、普段、買い物に行って複数のものを購入するとき、大体の金額を思い浮かるだけでもその力は相当鍛えられることと思います。
皆さんも『概算力』鍛えてみませんか?