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第70話 どうなっても知らないからね

 しばらくして落ち着いたのか、ミナリーは顔をあげると腫れぼったい目を細めて照れ臭そうに笑う。


「ごめんね、ちょっと感極まっちゃった」

「別に謝ることじゃないでしょ。普段からもっと甘えてくれてもいいのよ?」

「えー、それはちょっと」


 やんわりと断られてしまった。

 むぅ。甘えてくるミナリー、絶対に可愛いのに。背も小さくて童顔なくせに、そういうところはシッカリしてるんだから。


「本当に元気そうで何よりだよ、アリシア。怪我の具合はどうなの?」

「全身打撲と骨折で全治2週間ってところらしいわ。幸い、後遺症も傷も残らないだろうって。来週中には退院もできるみたい」

「それだけの大怪我で全治2週間って、さすが魔術世界」

「へ?」

「なんでもない、なんでもない」


 ミナリーはそう言って誤魔化した。ミナリーってたまによくわからないことを言うのよね。キリクスの方言か何かかしら。


「2週間で済んだのはミナリーの応急処置のおかげだって、治癒魔術の先生も言ってたわ。ところで、応急処置ってどんなことをしたの?」

「ふぇっ?」

「姉さまに聞いても教えてくれなかったのよね」


 なぜか顔を赤くして「そ、それはミナリーに直接聞いてくださいっ!」と言われてしまった。治癒魔術の先生も詳しい方法はわからないって言っていたし。


 だから直接聞こうと思ったのだけど、月明かりに照らされたミナリーの頬が少し赤くなっていることに気が付く。


「どうしたのよ、ミナリー?」


「いや、あの、その……。あれは緊急事態ゆえの致し方のない医療行為というか、医療行為だったからノーカンだったというか」

「あんたあたしに何したの? 怒らないから、今もう一回同じことしてみなさいよ」

「今ここでするんですかっ⁉」


 ミナリーらしからぬ慌てっぷりだった。というか本当に何したのよ……?

 でも、ここまで取り乱すミナリーって新鮮かも。普段なかなか見られない弱味だし、せっかくだからとことんおちょくってやろうかしら。


「ほらほら、どうしたのミナリー? 医療行為なんでしょ? 再現して見せてってば」

「う~……。アリシア、もしかして憶えててそんな意地悪言ってるの……?」

「さあ、それはどうかしら?」


 どうやらミナリーにとって少し恥ずかしいことだったらしい。まったく記憶にないけど、憶えているっぽく「ふふっ」と笑って答えてみる。

 ミナリーは顔を真っ赤にして、


「アリシアの意地悪。むっつりすけべ。どうなっても知らないからね⁉」


 そう言ってあたしの上に覆いかぶさってきた。

 ベッドに沈み込むあたしのすぐ目の前に、ミナリーの顔がある。上気した赤い頬。うるんだ大きな瞳があたしを見つめる。


「み、ミナリー……?」

「行くよ、アリシア」

「いや、ちょっと待っ――」


 何やら不穏な雰囲気を感じてストップをかけようとした時にはもう遅かった。

 待ってと言葉にしようとした口に、柔らかな何かが押し付けられる。


「んんんんんぅぅぅぅ!!!???」


 それがミナリーの唇だと気づいたときにはもう、口と口を通じて温かな何かがあたしの中に流れ込んでいた。


 こ、これ魔力……? というかどうしてあたしはミナリーとキスしてるのよ⁉

 混乱する頭を必死に動かそうとしても、ぽわぽわと靄がかかったかのように思考がまとまらない。


 ただ、体内に浸透していくミナリーの魔力だけが心地よかった。まるで、ミナリーと一つになっていくような不思議な感覚。溶け合って、混じりあって、交わりあうような――


「ぷはっ。はい、おしまい! 終わり!」

「あ……」


 ミナリーは唇を離すと、すたっとベッドから降りてしまった。


「まったくもぅ、アリシアは欲しがりさんなんだから。明日もまたお見舞いに来るから、病人は大人しく寝てること! わかった、アリシア?」

「えっ? あ、うん……」

「よろしい。それじゃ、また明日ね」


 そう言って、ミナリーはそそくさと病室の外へ出て行ってしまった。


 …………え?


 病室にはあたし一人きり。残されたのは唇の柔らかな感触と、今も体内に感じるミナリーの温かな魔力の名残。


 そして、ミナリーとキスをしたという事実のみ。

 結局あたしは窓から日差しが差し込むまで、一睡もすることができなかった。


   ※


 逃げるように病室から飛び出して、わたしは病院の廊下にへたり込んでしまった。

 顔が熱い。心臓が口から飛び出ちゃいそうなほどに高鳴っている。

 指で触れた唇には、まだアリシアの温もりが残り続けていた。


 ど、どうしよう。勢いでアリシアにチューしちゃった!


 ナルカちゃんとは遊びでちゅっちゅすることはあったけど、それとこれとは話が違う。

 いくらアリシアから誘ってきたからとは言っても、それに応じてしまったのはわたしなわけで。わたしは、アリシアとキスがしたかったの……?


 わからない。わからないけど、ドキドキが治まってくれない。

 女の子同士なのに。アリシアとは、親友なだけなのに。


「うぅ……。早まっちゃったかなぁ……」


 明日、どんな顔してアリシアのお見舞いに来ればいいんだろう……。


 ドラゴンのことや、わたしの中に居る女の子のこと。それに、ここへ来る前にシフア先生に連れられて行った王城でのこととか。

 ただでさえ考えることがいっぱいなのに、もう頭がパンクしちゃいそうだった。


70話かけてようやくファーストキス。

お待たせしました。

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