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第53話 シユティ・シュテイン

 どうして魔術を撃つのかと問われれば、シユティ・シュテインは平然と「それがレースだからだよ」と答えるだろう。彼女が後方集団に大規模魔術を撃ちこむ理由はその程度でしかない。


 ウィザード・レースとは、己の持つ全ての力を互いにぶつけ合うものだ。


 かつて世界的に活躍した競技魔術師はそう言った。幼い頃からその競技魔術師に憧れていたシユティ・シュテインは、その言葉を忠実に実行しているだけだった。


 全力をぶつける。していることはそれだけで。……ただ、結果として彼女の全力はやや行き過ぎていた。『虐殺の魔女』と、周囲から恐れられる程度には。


「『疾く疾く走れ、迸れ。光れ、光れ、稲光れ』」


 彼女は唱える。まるで鼻歌でも口ずさむような気軽さで。右手の先に、全てを飲み込む雷の奔流を発生させる、魔術式を展開しながら。


 見下ろす先には、数百人規模の集団。来訪記念ウィザード・レースには王立魔術学園の生徒だけでなく、老若男女様々な一般の参加者も大勢出場している。有力貴族やその縁故者、かつての輝きを取り戻したい古強者たち、そして多少魔術を齧った程度で軽い気持ちで参加した者たちなど……。


「『駆けろ、駆けろ、空翔ろ。天翔け、宙翔け、突き抜けろ。切り裂け、貫け、轟かせ』」


 関係なかった。


 シユティ・シュテインにとって、相手が誰であろうと、レースに出場した時点でそれは全力をぶつける相手なのだ。手加減しようとは思わない。だってそれは、相手に対して最もしてはいけない失礼な行為に他ならないのだから。


 だから、常に全力をぶつける。


「『一切合切全部まとめて消し飛ばせ――雷神の鉄槌』ッ‼」


 魔法陣から放たれた雷光は、集団の全てを飲み込んだ。


 ぶつけた全力の一撃。シユティは待つ。それを乗り越えてくる相手を。


 全力をぶつけ返して来てくれる相手を。


 やがて、雷光の中から三つの箒が飛び出してきた。


 銀色の髪の少女を中心に、彼女の魔力シールドに守られる形で二人の女子生徒。


「やっほー、アンナちゃ~ん、ミナリーちゃ~ん♪」


「来ましたか」


「シユティ先輩……!」


 手を振りながら降下して横に並ぶと、表情を崩さないアンナ・シールズに対して、ミナリー・ロードランドは緊張した面持ちで苦笑いを浮かべた。


 彼女たちと飛んでいるのは、アリス・バルキュリエの妹であるアリシア・バルキュリエだ。アンナはともかく、アリシアまで一緒とはシユティも予想していなかった。


「シユティ……って、この人が『虐殺の魔女』⁉」


「初めましてだね、妹ちゃん」


「……っ! 先輩、その呼ばれ方はあまり好きじゃないんですが」


「どうして? パイセンの妹ちゃんでしょ? じゃあ妹ちゃんだよ」


 シユティは呼び名を改めようとは微塵も考えなかった。アリシアが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるのも気にせずに、ミナリーに向かって語り掛ける。


「にしても驚いたなぁ。アンナちゃんはともかく、妹ちゃんまでミナリーちゃんと一緒なんて。もしかしてミナリーちゃんって意外とプレイガール?」


「なっ⁉ あ、あたしたちはそんなんじゃっ!」


「冗談だよ、冗談。んもぅ、妹ちゃんったら顔を赤くしちゃってまぁ。何を想像しちゃったのかにゃー?」


「くぬぬぅ……っ!」


 アリシアは顔を真っ赤にして悔しそうな顔をする。


(でもま、あながち間違ってもないのかも)


 アリシアの反応を見て、シユティはそんなことを思う。アリシアがミナリーを見る瞳には、友情以上の何かが含まれているようにシユティには見えた。


 ただまあ、それはレースに関係のない話だ。


『アンナちゃんも、アリシアも、新入生歓迎レースからすごくすごく頑張ってきたので、明日のレース、楽しみにしておいてくださいね』


 昨晩のミナリーの言葉を思い出す。新入生歓迎レースから、秋休暇を挟んでだいたい半月ほどが経った。その短い期間の間に、彼女たちはどれほど成長したのだろうか。


(ごめんねぇ、パイセン。妹ちゃん、ここでリタイアしちゃうかも)


 シユティは迷わない。たとえ、尊敬する先輩が妹とのレースを心待ちにしていたとしても。たとえ、尊敬する先輩の妹が姉とのレースに相当な覚悟を持って挑んでいたとしても。


 それが手を抜く理由にはならない。


 だって、これがウィザード・レースなのだから。


「昨日、ミナリーちゃんは言ったよね? 楽しみにしておいてください、って。あたし、今この瞬間を本当に楽しみにしてたんだぁ。アンナちゃん、ミナリーちゃん、妹ちゃん。三人まとめて相手してあげるよ。――全力でねぇ‼」


「「……ッ‼」」


「『光れ』」


 魔法陣を展開し最短の詠唱で魔術を放つ。雷撃はミナリーへ向かって突き進み、


「わたしも、楽しみにしていました」


 アンナの魔力シールドによって弾かれた。


「今日こそ、あなたの魔術を全て防ぎきって見せます」


「……へぇ」


 前回のレースでは常時全方位に展開されていたアンナの魔力シールド。だが今の瞬間、彼女はシユティが魔術を撃ってからシールドを展開した。それも、全方位ではなく雷撃が来る一方向のみに。


next→第54話 シユティ VS アンナ


2020/11/25:6時過ぎ頃更新予定

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