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第52話 襲来

 レースが始まってしばらく、わたしたちは集団の後方を飛んでいた。王都中央公園を出発し、王都東の山脈方面へ向かって既に四十キロ。もう間もなく、魔術使用可能エリアに入ろうとしている。


「誤算でしたわね……!」


 ロザリィが歯噛みをしながら呟いた。


「どうしてこうも参加者が多いのよっ! ……もうっ!」


 アリシアも、思うような飛行ができず苛立っていた。


 なぜかと言えば、レースの参加者が多すぎるのだ。


 例年、来訪祭とともに開催されるこのウィザード・レースには大勢の人が参加する。ただ今年は千年紀とも重なったせいか例年よりも参加者が遥かに多いようで、わたしたちの目の前で箒が大渋滞を起こしていた。


 一般枠で参加したわたしたちは、学園の生徒ということもあってハンデかほぼ最後尾からのスタート。目の前には大勢の一般参加者が居て、思うように前へ進めない。


「これじゃ、姉さまとの勝負にならないわよっ‼」


「全くですわ! 魔術使用可能エリアまでもう少しですのに‼」


 血の気の多いアリシアとロザリィは、スタート直後からヤキモキしている。確かにこのままじゃ、レースが終わるまでずっと最後尾かもしれない。


 かといって強引に突破しようとすれば他の箒に接触するかもしれないし、大きく迂回すればタイムロスどころかコースアウトで失格になる危険もある。


 もうそろそろ、魔術使用可能範囲だ。


 前を行く一般参加者たちは和やかな雰囲気で、とても魔術の応酬になりそうな感じじゃない。後方から魔術を撃てば地位の高い人たちから顰蹙を買う可能性もあって、学園からの参加者も魔術を撃ってよいものかと悩んでいる状態だった。


「もう我慢できませんわ‼ 勝負開始ですわよ、ミナリー・ロードランド‼」


「あ、ちょっとロザリィ⁉」


 ついに我慢できなくなったのか、ロザリィが姿勢を前に傾けて一気に箒を加速させた。


「あたしも……!」


「待って、アリシア‼」


 ロザリィの後に続いて加速しようとするアリシアの腕をつかんで強引に辞めさせる。


「ちょっとミナリー、危ないでしょ⁉ どうしたのよ、急に‼」


「ごめん、アリシア! でも、今のタイミングはダメ! アンナちゃんから離れないで!」


「はぁ……?」


 アリシアは理解できないと顔に描きながらも、加速をやめてアンナちゃんに並走する。


 その間も、ロザリィはどんどん前へと進んでいた。


「見せて差し上げますわ、先日の休暇中わたくしが死に物狂いで身に着けた箒の華麗なコントロールを‼ ふははははっ! ふははははははははははっ‼」


 速い……っ⁉


 ロザリィは箒の上で体を左右に揺らす独特のフォームで、他の参加者の間を縫って一気に前へと進む。もしかすると、このまま集団の先頭を取るつもりかもしれない。


 集団の先頭は大きなアドバンテージだ。一足先に魔術使用可能エリアに入ることで、先手で魔術を撃つことができる。ロザリィはおそらく、それを狙っているのだろう。


 ……でも、そう考えるのはロザリィだけじゃなくて。


「どうですの、見ていますわよね、ミナリー! これがロザリィ・サウスリバーの本当の実力ですわ‼ 前回は『虐殺の魔女』に後れを取りはしましたが、今回はそうもいきませんわよ。なんせこのレースには大勢の一般人が、それも有力貴族の方々が参加しておられるのですから‼ いくら『虐殺の魔女』とは言え、貴族が参加するレースで集団に無差別魔術爆撃をするはずが――」




 ――その瞬間、ロザリィの姿は降り注いだ閃光に消えた。




「来た……っ⁉」


 魔術使用可能エリアに入った直後、集団の前に現れた雷光の壁は、次々にレース参加者を飲み込んで行く。それは一般参加者も、貴族も、学園の生徒も関係ない。平等に、暴力的なまでの魔力の奔流が襲い掛かってくる。


その凄まじいその凄まじい魔力の奔流に、肌がピリピリと痛みを発した。


「な、なによこれっ⁉」


「アリシア、アンナちゃんから離れないでっ!」


「シールド、展開……っ!」


 わたしとアリシアはアンナちゃんに抱き着くような形で、雷光の壁に突っ込む。


「ぐっ……!」


 視界が光に塗りつぶされる。アンナちゃんの魔力シールドは軋むような嫌な音を立てた。もしかして新入生歓迎レースの時よりも、威力が上がって……っ⁉


「これくらい……っ! ミナリーさん、アリシアさん、支えてください‼」


 アンナちゃんは箒のハンドルから完全に手を放して、シールドの維持に全力を注ぐ。箒はハンドルから操縦者の魔力を得る。その供給が途絶えた箒は浮力と推進力を失ってしまうけど、わたしとアリシアでアンナちゃんを両脇から抱えて何とか支えることができた。


「ねえミナリー、何なのよこれ⁉ こんな魔術見たことないわよ……⁉」


「うん。新入生歓迎レースの時、アリシアは先頭集団に居たから体験してないだろうけど……」


 雷光を抜け、視界に青空が戻る。


 その先でわたしたちを待ち構えていたのは、


「やっほー、アンナちゃ~ん♪」


 ――『虐殺の魔女〈ジェノサイドヘクセン〉』……シユティ・シュテイン先輩。


 わたしたちと先輩の他に、周囲を飛ぶ箒の影は一つもなかった。


next→第53話 シユティ・シュテイン

2020/11/24:5時過ぎ頃更新予定

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