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第48話 謎の光

 来訪祭を翌日に控えた夜のこと。わたしとアリシアはスぺリアル湖上空でレース前最後の調整を行っていた。


「どう、アリシア?」


「一回フレームを外して諸々の調整をしてみたけど、感触としては悪くなさそうね。魔力の通りもいいし、この調子なら箒の問題はなさそう」


「体調の方は?」


「そっちもバッチリよ」


 レース前夜ということもあって、飛行は軽く流す程度。箒の調整の確認も終えて、そろそろ学園に帰ろうかという頃合いだった。


 ちらりと、湖の中で何かが光ったような気がした。


「あれ……?」


 気のせい、かな……。


 飛行をやめて空中に停止する。目を凝らして湖を見つめてみたけれど、光はどこにも見当たらなかった。


「どうしたのよ、ミナリー。急に止まっちゃって」


「あ、うん。湖の中で何かが光ったような気がしたんだけど……」


「何かって? ……うーん、何も光ってるようには見えないわよ?」


「何かと見間違えちゃったのかなぁ」


 湖の中で見た光は魔力の光とよく似ていた。もしかすると近くを漂っていた魔力の粒子が目に入って、湖の中が光ったように見えただけかもしれない。


「ごめん、アリシア。気のせいみたい」


「今日はもう帰って休みましょうか」


「そうだね」


 そろそろアンナちゃんも特訓を終えて戻ってきている頃だろう。シユティ先輩へのリベンジに燃えているアンナちゃんは、何やら秘策を思いついたそうで、わたしたちとも別行動で猛特訓に励んでいる。


 わたしたちが寮に戻ったのとほぼ同時くらいにアンナちゃんも戻ってきて、三人で夕食と入浴を済ませて早めに布団に入った。


 明日はついに来訪祭のウィザード・レースの日。アリシアとアンナちゃんのリベンジマッチだ。


 休暇が終わってから今日までの一週間、アリシアもアンナちゃんも毎日魔力切れ寸前まで自分を追い込んで、明日のレースに備えてきた。その頑張りを知っているわたしだから、二人には万全の態勢でレースに挑んでもらいたい。


 隣から規則正しい寝息が聞こえてきた頃合いで、わたしはこっそりとベッドから這い出た。さっき見た、湖の中の光。それがどうしても気になって、仕方がなかったのだ。


 ベランダから箒で飛び立ち、光を見た辺りを目指す。もう日付も変わってしまいそうな時間帯。空は静寂に包まれていて、風を切る音だけがわたしの耳朶に響き渡る。


「あれ……?」


 ふと、前方に赤い光が飛んでいるのを見つけてわたしは箒を止めた。夜間に箒で飛行する際につける発光魔術の赤い光だ。


 この周囲を飛ぶのは学園の生徒くらいなものだけど、寮の消灯時間はとっくに過ぎている。いったい誰が……、


「だぁ~れだっ♪」


「うひゃあっ⁉」


 唐突に何かがわたしの視界を覆った。ビックリしてバランスを崩しそうになり、慌てて箒につかまる。鼻孔をくすぐるのはシトラスの甘い香り。そして、この声と行動には覚えがあった。


「シユティ先輩! 落ちたらどうするんですかっ⁉」


 わたしが怒ると、先輩は手を放してすっとわたしの前に飛んできた。


「ピンポンピンポン大正かぁ~い! 驚かせてごめんねぇ、ミナリーちゃん」


 桃色の髪にあどけなさの残る顔。それに見合わない豊満な胸元。無邪気な子供のように、シユティ先輩はコロコロと笑っている。前の新入生歓迎レースで見せた『虐殺の魔女』の面影はどこにもない。


 先輩はわたしと同じように寝間着姿だった。薄緑色のネグリジェで、この時期の夜に空を飛ぶにはすごく寒そうな格好だ。魔術で温度調節はしているんだろうけど、見ているだけで体が震えそうになる。


「先輩、こんな時間にどうしたんですか?」


「それはこっちのセリフだよ、ミナリーちゃん? こんな遅くに寮から飛んでいく箒が見えたから誰かなーって追いかけてきたんだよ。こんな時間から練習かなぁ?」


「いや、わたしは……」


 言いかけて、本当のことを言っていいのかと悩む。湖の中に見えた光を確かめに来たと言って、シユティ先輩は納得してくれるだろうか。変な子だと思われちゃいそうだ。


 ……わたしの考えすぎだよね、うん。


「実は明日のレースが不安で眠れなくて」


 それとなくありそうな理由を答えてみる。


「ふぅーん、ミナリーちゃんってそんなタイプに見えないけどなぁ」


 うっ……。確かにそんなタイプじゃないかもしれない。緊張はしても、結構普通に寝れてしまうタイプだ、わたし。


「むしろ、わくわくで胸が高鳴って眠れないタイプと見た! あたしと同じでね!」


「先輩、もしかして眠れなかったんですか?」


 さっき、寮から飛んでいくわたしを見て追いかけてきたと言っていた。布団に入っていては当然、わたしが飛んでいくことに気づけない。


「まあね! レース前はどうしても気持ちが昂っちゃって、こうして夜に飛んでみたり、ベランダで星を眺めたり。こう見えて繊細だからねぇ、あたし!」


「自分で言うことじゃないと思いますけど……」


 でも、確かに意外だ。シユティ先輩、レース前でも平気でお昼寝しそうな人だと思ってた。緊張じゃなくて興奮で眠れないっていうのが何ともシユティ先輩らしいけど。


 ……その気持ちはちょっとわかる気もする。先輩が言うように、わたしも先輩と同族なのかもしれない。


next→第49話 可哀想だよね

2020/11/20:5時過ぎ頃更新予定

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