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第35話 敗北の爪痕

 新入生歓迎レースから三日が経った。明日からに控えた秋休暇を前に、休み時間の教室にはどこか緩んだ空気が流れている。新入生歓迎レースも終わり、みんな一山越えたといった感じで気が抜けているのだ。


「それにしても、酷い目にあいましたわね」


 アンナちゃんと並んで座っていたところに、包帯を頭に巻いたロザリィが話しかけてくる。


 彼女の頭の包帯は新入生歓迎レースでシユティ先輩の魔術によって負った傷の応急処置だ。回復魔術である程度の怪我は癒されているけど、軽度の生傷はこうして簡易的な治療にとどめられている。


 というのも、負傷者が多すぎて救護担当の国家魔術師が魔力切れでぶっ倒れたらしい。


 かくいうわたしも腕と足に包帯を巻いている。アンナちゃんも同様だ。


 ロザリィはわたしの隣に座ると、頬杖をついて溜息を吐いた。


「まさか、ここまで実力の差があるなんて。自信を無くしてしまいそうですわ」


「実力の差って、シユティ先輩のこと?」


「そうですわよ。『虐殺の魔女』、噂には聞いていましたがまさに別格でしたわね」


「……うん」


 シユティ先輩の魔術は、わたしがこれまで見てきた魔術とはまったくの別物だった。格が違う……と言うよりは、物が違う。


 たぶんあの術式に何かあるんだろうけど……。


 あの時、レースの途中から見えるようになった魔力の粒子。今も教室の中に漂っているそれに手を触れて意識を集中させる。すると、魔力の粒子はわたしがイメージする通りに文字や記号を描いていく。


 うん、やっぱり。シユティ先輩の魔術式はこうやって描いていたんだ。


「何をやってますの?」


「ううん、何でもないよ」


 集中を解くと魔力の粒子はパっと弾けて形を失った。ちょっとのことで形が崩れてしまうから、わたしじゃシユティ先輩みたいなちゃんとした魔術式は作れない。というか、魔術式の内容を知らないから作りようもないけれど。


「そういえば、アンナさんは『虐殺の魔女』の魔術を受け止めたのでしょう? 手ごたえのほどはどうだったのかしら?」


「あ、ちょっと、ロザリィ!」


 今、アンナちゃんにシユティ先輩の話題は禁句だ。


 アンナちゃんはいつもと変わらない無表情で……けれど、少しばかりムスッとした様子で立ち上がると、そのまま教室を出て行った。いつもは話しかければちゃんと答えてくれるけど、ことシユティ先輩の話題になればこうして居なくなってしまう。


「アンナさん、ずっとあの調子なんですの?」


「うん。レースで色々あったから……」


 新入生歓迎レースで、アンナちゃんはシユティ先輩との勝負に敗北した。彼女が絶対の自信を持っていた魔力シールド。それをシユティ先輩は、宣言通りに真正面から打ち破って見せた。


 アンナちゃんの力負けだったと思う。小細工なしの真っ向勝負での敗北は、まさに実力の差。アンナちゃんははシユティ先輩に、格の違いを見せつけられた形だった。


 ……表情ではわかりづらいけど、アンナちゃんの行動はわかりやすい。


 シユティ先輩が話題に出ればどこかに行ってしまうし、昨日なんか自主練をすると言って随分と帰りが遅かった。……よっぽど、負けたのが悔しかったのだ。


「意外と負けん気が強い方でしたのね。ああいう姿勢は嫌いではないですわよ」


「変な無茶をしでかさないか心配だよ……」


「心配といえば、アリシアさんは大丈夫ですの? もう三日も風邪で寝込んでいますけれど」


「えっ? あー、うん……」


 そういえば心配の種はもう一つあった。新入生歓迎レースから今日で三日。この間、アリシアは一度も登校していなかった。


「心配ですわね……。体調、まだよくならないのでしょう? 一度、ちゃんとした病院で診てもらった方がいいですわよ」


「そ、そうだね。アリシアにはそう伝えておくよ」


 わたしはそっと目を逸らした。アリシアはレースで魔力切れを起こした際に着水してずぶ濡れになって、そのせいで風邪を引いたことになっている。


 ……つまりまあ、そういうことだ。


「そうですわ! 今日の放課後、アリシアさんのお見舞いに――」


「待ってロザリィ!」


 今のアリシアにロザリィを会わせると絶対に面倒くさいことになる。ただでさえ手を焼いている状況に空気が読めないロザリィが合わさったら地獄だ。今はとにかく、アリシアをそっとしておいてあげたかった、


「アリシア、体調がかなり悪くて気が滅入ってるから、しばらくはそっとしておいてあげて! ロザリィの気持ちはちゃんと伝えておくからっ!」


「な、何やらえらく必死ですわね……。でも、わたくしもアリシアさんのために何かしてあげたいですわ! 気が滅入っているならなおのこと、元気づけてあげたいですわよっ!」


 うっ……。全然引いてくれない。思いのほか、ロザリィはアリシアのことが大切みたいだ。ロザリィの気持ちはわかるけど、けどなぁ……。


「それじゃあ、わたしの買い物を手伝ってくれる? アリシアを食堂に連れていけないから、王都で材料を集めてわたしがアリシアの夕食を作ってるんだけど……」


「それならお安い御用ですわ! なんならわたくしがアリシアさんの夕食を作って差し上げますわ。あまりの美味しさに舌が溶け落ちること間違いなしですわね!」


「ロザリィ、料理したことあるの?」


「いいえ、まったくありませんわ」


 じゃあ今の自信はいったいどこから湧いてきたの?


 とにかくそんな話の流れで、わたしはロザリィと王都まで買い物にでかけることになった。


next→第36話 祭りの準備

2020/11/9:22時過ぎ頃更新予定


【御礼】

今回もご拝読賜り誠にありがとうございます。

楽しんでいただけましたでしょうか?

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していただけますと作者のモチベーションなりますので、

何卒宜しくお願い致しますm(__)m

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