第23話 魔力シールド
アリス先輩に紅茶のお礼を述べて生徒会室からお暇すると、またも廊下でアリシアが待っていた。教室に戻らないなら先に出ていかなきゃいいのに。
「遅かったわね。姉さまと何話してたのよ」
「別にー。たいした話じゃないよ」
「あっそ。ならいいわ」
追及する気もなかったのか、アリシアはさっさと歩きだしてしまう。ただ、ちょっぴり機嫌は悪そうだ。
「アリシア、次の授業ってなんだっけ?」
「外で実習よ。魔力シールドの復習だったわね」
「復習って、わたし習ったことないよ?」
「あんた、それでよく入学試験レースに出ようと思ったわね……。普通は初等教育学園で魔術よりも先に教わるものよ。確か、平民でも入学はできたはずだけど」
「そうなんだー……」
前世の世界とは違ってこの世界に義務教育なんて制度はないから、わたしみたいに学校に通ったことがない子供はかなり多い。
ただ、王立魔術学園のような大半が貴族生まれの子供たちの中では圧倒的少数派だろう。当然のように、授業は大多数側の生徒に合わせて進められていく。
そこに生まれる差は、自分で埋めていくしかない。
「アリシア、魔力シールドってどうやるの?」
「結構簡単よ? ぎゅんって来た魔術にしゅばーんって感じに自分の魔力をぶち当てるのよ」
「うん、ごめん。ぜんぜんわかんない」
アリシア、勉強ができるから論理派だと思ったら、実技はめちゃくちゃ感覚派だった。
「ようはタイミングとイメージよ。ぎゅんって来たら、しゅばーんって魔力の壁を作るの」
「ぎゅんっ……しゅばーん……」
イメージはしてみるけど、いまいちピンとこない。
そういえば、わたしって一度も魔術を向けられたことがなかった。入学試験では基本的に最下位だったから攻撃されなかったし、日常生活ではなおさら滅多にそんな機会は訪れない。
実際に魔術で攻撃されたらわかるかな……?
アリシアと共に外の演習場に向かうと、そこにはクラスメイトたちがほぼほぼ集まっていた。ほどなくしてシフア先生と、なぜか先生に首根っこをつかまれたアンナちゃんが引きずられながら現れて授業が始まる。
「さて、今から魔力シールドの復習をしていくよ。その前に、まずは魔力シールドについて簡単におさらいをしよう」
「あの、シフア先生。その前に、どうしてアンナちゃんの首根っこを掴んでるんですか?」
たまらずわたしが質問すると、シフア先生は「あぁ」と言ってアンナちゃんの首根っこを手放した。
「この子がどうしても授業をサボろうとするからね。少し手伝ってもらおうと思っていたんだけど、言うことを聞いてくれなくって。仕方がなくここまで引きずってきたわけだ」
「魔力シールドなら十分に使えます。この授業を受ける意味はありません」
アンナちゃんはそういうと、乱れた襟元を正して校舎の方へ歩き出してしまう。
そんな彼女の方へ向かって、シフア先生は右手を突き出して、
「まあまあ、そう言わずに手伝ってよ」
先生の周囲の空間が、歪む。
魔術――ッ!
「アンナちゃん、危ないっ‼」
「〈燃え盛れ〉」
シフア先生は、アンナちゃんの背中に向かって炎の魔術を放った。
間に合わないっ……!
駆けだそうとしたわたしの目の前で、シフア先生の手から放たれた火球がアンナちゃんに襲い掛かる。
もうダメだ。そう思ったとき、
「無駄です」
アンナちゃんの周囲の空間が歪み半透明の白色の壁が現れ、火球を一瞬で打ち消した。
今のが、魔力シールド……?
実際に目の当たりにして、少しだけわかった気がする。シフア先生が放った魔術に対して、アンナちゃんはシフア先生の魔術と同等程度の魔力をシールドに込めていた。
魔術に魔力を当てて相殺する。たぶん原理はこんな感じ。
できるかどうかは、実際にやってみないとわからないけど。
「流石だね、アンナ。今みたいに、魔力シールドは魔術師にとって必須ともいえる技術だ。今は戦争のない平和な世の中とはいえ、いつどこで何が起きるかわからないからね。魔術を防ぐ術は持っていて損のないものだよ」
シフア先生の言葉には、どこか実感が込められているような気がした。
気のせいかな?
「それじゃ、今から実際に魔力シールドを用いた模擬戦をしようか。アンナも戻っておいで。二人一組で交互に魔術を放って、魔力シールドで打ち消しあうんだ。ほら、時間は有限なんだからさっさと二人一組を作って!」
先生の号令で、クラスメイトたちは二人一組を作り始める。わたしは隣にいたアリシアと顔を見合わせて、アイコンタクトを交わして頷き合った。
言葉を交わす必要すらない。二人一組という背筋が凍るワードにも、もはや恐れる必要はないのだ。わたしはアリシアというパートナーが居るのだから!
さて、みんなが二人一組を組み終わるまで高みの見物といこうか。
なんて思っていた矢先、わたしの目の前に一人の女子生徒が立ちはだかる。
長い藤色の髪を内巻きにカールさせたお嬢様。
「アリシアさんを賭けてわたくしと勝負ですわ、ミナリー・ロードランド!」
ロザリィ・サウスリバーはわたしに人差し指を向け、そう高らかに宣言した。
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2020:11/6更新




