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第21話 学園の女神

「それで、どうするの? 『学園の女神』なんて呼ばれている人、居ないみたいだけど」


 アリシアに訊ねられて、わたしは「うーん」と考える。


「先輩たちが言っていたみたいに、アリシアのお姉さんに聞いてみたほうが早いかもしれないね。お姉さんって何年生?」


「三年よ。ただ、今の時間だと生徒会室に居るかもしれないわ。姉さま、生徒会長もしてるから」


「じゃあ、わたしは生徒会室に寄ってみるよ。アリシアはどうする?」


 深くは聞かないけど、アリシアとお姉さんの間には何やら色々ありそうだ。さっきもアリシアに嫌な思いをさせてしまった手前、無理についてきてもらいたいとは思わない。


 アリシアは少し黙り込むと、


「行くわ。姉さまにも顔を出すように言われているのよ。それにあんた、生徒会室の場所わからないでしょ?」


「うっ……。それは、まあ」


「仕方がないから案内してあげるわよ。感謝しなさいよね」


 アリシアは冗談っぽくそう言うと、わたしの手を引っ張って歩き出す。


 あれ……?


 意外と、お姉さんに対してはそこまで嫌っている感じじゃないのかな。


 生徒会室は校舎三階の東端にあった。木製の分厚い扉で廊下と区切られていて、扉の両脇には国旗と校章が飾られ荘厳な雰囲気を醸し出している。


 アリシアは扉を三度、ゆっくりとノックした。


 すると中から、「どうぞ」と女性の声が返ってくる。


「姉さまだわ」


 どうやら、アリシアのお姉さんは生徒会室の中に居てくれたようだ。


「失礼します」


 と、扉を開いて中に入ると、窓際でたたずむ金色の髪の女性がわたしたちを出迎えた。


 とても綺麗な人だ。ほっそりとした眉に、アリシアと同じ碧色の大きな瞳。鼻筋はスッとしていて、桜色の唇は瑞々しい。白磁色の肌にはシミ一つない。


 アリシアがもっと大人になったらこうなるだろうか。……いや、それにしては胸元の戦闘力が違いすぎる。たった二年で、制服がはちきれんばかりになるとはちょっと想像しづらい。


「あら、アリシア。それにそちらは、ミナリーですね。無事、試験に合格できたようで何よりです。おめでとうございます」


「あっ‼ もしかして、あの時の!」


 ここにきてようやく思い出した。箒がコントロールできなくてふらついていた時、助けてくれた先輩の内の一人がアリス先輩だったんだ。


 道理で、髪を下したアリシアに見覚えがあったはずだ。アリス先輩の姿を朧気に憶えていて、それがアリシアの姿に重なったのだ。


「やっぱり、ミナリーを助けてくれたのって姉さまだったのね」


「うん! あの、昨日は本当にありがとうございました! おかげで、こうして無事に入学できましたっ!」


「ゴールの瞬間も見ていましたよ。素晴らしい飛行でした」


「い、いやぁ。それほどでも……ぅっ」


 えへへ、と頭を掻いていると、アリシアにわき腹を小突かれた。


 えぇ……なんでぇ……?


「立ち話もなんですから、座りましょうか。ミナリー、紅茶はいかがですか? アリシアはハーブティのほうが好きでしたよね?」


「い、いただきます!」


「……あたしもミナリーと同じでいいわよ」


 アリシアはぶっきら棒にそう言ってソファに腰を下ろした。


 あれ? やっぱり仲良くないのかな。


 わたしがアリシアの隣に座ると、アリス先輩も対面に腰かけた。そして、遠くにあったティーセットを風の魔術でこちらに運んでくる。


 火と水の魔術でお湯を沸かし、ティーポットで茶葉を濾してカップに注ぐ。


 すごい。簡単そうに魔術を操っているけど、恐ろしく高度な技術だ。わたしだったら、風の魔術でティーセットをこっちに運んでくる時点で床にぶちまけている。


 アリシアも器用に魔術を使いこなすと思ったけど、アリス先輩はその比じゃなかった。


「ちょうど良い茶葉が手に入ったのですよ。ミナリー、ミルクと砂糖は必要ですか?」


「いえ、大丈夫です。良い茶葉なんだったら、まずは素材の味をそのまま味わわないと!」


「ふふっ、それもそうですね。アリシアは……」


 もう既に、紅茶にミルクをドバドバ入れていた。たぶん角砂糖も三個ほど投入されている。


「ん?」


「いえ、何でもありません。それで、今日はどのようなご用件ですか?」


「あ、はい! 昨日、助けてもらった先輩たちにお礼を言わなくちゃと思って。アリシアと一緒に探していたんです。アリス先輩にはお会いできましたけど、もう一人の先輩……『学園の女神』さんがどこに居るかわからなくて」


「が、学園の女神ですか……?」


「はい。二年の先輩に聞いたんですけど、そんな人知らないって言われちゃって」


「それはそうでしょうね……」


「何かご存じなんですか?」


 アリス先輩は額に手を当てて「はぁ……」とため息を吐いた。何やら込み入った事情がある様子だ。


「あなたにコアホウキを渡した女子生徒の名は、シユティ・シュテイン。二年生です」


「えっ? でも……」


 二年生の先輩たちに聞いても『学園の女神』と呼ばれている生徒は居ないって言っていたけど……。


「説明するのも馬鹿馬鹿しいので省きますが、彼女なら今この学園には居ませんよ。寮で魔術をぶっ放して謹慎中です」


「き、謹慎……⁉」


「ええ。ちょうど、月末の新入生歓迎レースの頃には復学する予定ですね」


 と言って、アリス先輩は紅茶をゆっくりと口に運ぶ。


「そ、そうですか……」


 寮で魔術をぶっ放して謹慎って……『学園の女神』さん、どんな人なんだろう……?


next→第22話 バルキュリエ姉妹


2020:11/4更新

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