1 ミヤ
『黒い英雄』
世界的に有名な絵本で、子供の時に誰でも一度は目にするだろう御伽話だ。
子供向けの絵本にしちゃ話が暗いけど、1000年くらい前に実際にあった世界戦争をモチーフにしてるらしいので、まあ仕方ないのかもしれない。
要するにあれですね。
『戦争ダメ!絶対!』
的な教育のための絵本なんですね。
まあ、それもわかるんだけど、それにしてもこの黒い人に対しての扱いがひどいと思う。
黒い人としか描かれてないから人かどうかも怪しいけど。
助けてもらってる間だけ勇者扱いで、戦争終わったら手のひら返したように魔王扱いとか。
あれですよね。
戦争の英雄も終わればただの人殺し的な…
こどもの頃に読んでもらってからこの黒い人に対してのモヤモヤがずっと残ってるんですけどっ
「ミヤ、片付け終わった?」
絵本から顔を上げると兄がドアから覗いているのが見える。
つい懐かしくて読んでしまっていたけど、そういえば部屋の片付けの途中だったことを思い出した。
「あー、あともう少しかな?」
「どうせまた別のことしてたんでしょ。あと一週間で学校が始まるんだから、それまでに送る荷物は段ボールに入れときなよ」
呆れた顔をしながら兄はまたキッチンへと戻っていった。
もう一ヶ月くらい前から言われてる同じ小言を聞きながら「はーい」といつもの返事をしておく。
この世界には魔力という力がある。
全ての人間に魔力はあるが、持っている量や属性は様々だ。
火属性なら炎が出せるし、水属性なら水が出せる。
魔力の量が多ければ、長い時間使えたり、より強力なものになる。
しかし、魔力は使えば使うほど、体力が削られていくし、魔力切れなんか起こしたら、寿命が縮むし、最悪死ぬ。
なので、今は仕事の手助けとして使う人も多くはいるが、無理して大技決めようなんて人はいない。
それこそ、世界戦争時には攻撃魔法をバンバン使っていたそうだけど、攻撃魔法は1番魔力を喰うらしいので、今の平和な世の中で、そんな簡単に自分の命削る人はあまりいなくなった。
それから今はこどもの魔力制限がされている。
早いと母親の胎内にいる時から、魔法でこどもの魔力を封印するのだ。
これは、こどもの時に魔法を使う危険がないようにすること。さらに魔力の暴発を防ぐためらしい。
世の中にはかなり強い魔力を持って産まれてしまう子もいるけれど、子どものうちからそんな力を制御するのは難しい。最悪生まれる前から母親にも危険が及ぶ。それを防ぐためにも、出産前、出産直後に魔力の封印が義務づけられているのだ。
そしてその封印を解除できるのは魔法学校に入学した時だ。解除されると同時に魔力のことについて学び始めるという仕組みだ。
この私、ミヤ=アイゼットも来週からそんな魔法学校に入学するのだ。
魔法学校は各地にあり、16歳になる年に全てのこどもは入学することがこの国では決められている。
家から通う子もいるけど、家が遠い場合は寮から通うこともできる。うちは田舎暮らしなので、寮暮らし確定だ。そのため、入学前に必要な物を持っていく準備をしていたのだけど…
「終わらない…」