表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あおとみずいろと、あかいろと  作者: 蒼真まこ
あかの章~朱里
9/65

海斗とのお弁当タイム

 翌日、海斗とのランチタイムで話を聞いてもらうことにした。父とおじさんと同じように、双子である海斗なら、何かわかることがあるかもしれないと思ったのだ。


「それ、わかる。すげぇ、わかる!」

「そ、そうなの? どの辺が?」


 どうやら、すごく共感できることだったらしい。


「嫌いなのに、相手の安否とか気になってしまう、ってところかな。オレの双子の兄は空也って名前なんだけどさ。正直いって、空也のこと嫌いなんだよ、オレ。側にいると苛つくし、できれば一緒にいたくない。だから高校も別のところに進学したんだ」

「そうだったんだ……」

 

 なんで同じ高校じゃないだろう? と思ってたけど、そういう理由だったのね。


「でも気になるんだよなぁ、あいつのこと。空也は学校でうまくやってるかな、つい気にしてしまう。そんな自分がなんとなく嫌だったんだけど、オレたちだけじゃなかったんだ。少し安心したよ」


 海斗は空を仰ぎ、どこか遠くを見るように言った。その顔は少しだけ寂しそうで、おじさんの切なげな顔と被った。


「あのね、聞いてもいい? どうして、空也くんのこと嫌いなの?」


 軽々しく聞いてはいけないのかもしれない。でも聞かずにはいられなかった。海斗は私の思いを見透かすように、しばらく私を見つめ、話し始めた。


「自分によく似てるのに、やっぱり違う人間だって思うから、かな」

「どういうこと?」

「チビの頃は楽しかったよ。同じ家によく似た兄弟がいてさ。毎日遊び相手に困ることはなかった。でも大きくなればなるほど感じるんだ。こいつは似てるけど、オレと同じじゃない。違う人間だって。そう思うのに、周囲の奴らもオレたちを比べる。『ここが同じだね、さすが双子。ここは違うんだ、双子なのに』って、無邪気に比べる。それがオレたちの心を切り刻む。やがて、空也と一緒にいたくない、って思うようになった。『アイツが嫌いだから』って思うと楽だったのかもしれない」


 空也は自嘲気味に笑った。それは私が初めて知る、海斗の隠された思いだった。きっと誰にも話したくなかったことだろうに、私のために話してくれてるのだ。


「双子はみんなそんな感じなの?」

「いや、双子もいろいろだから全員同じではないと思う。ずっと仲がいい奴らもいるって聞くし。でもお互いに複雑な感情をもってる奴らは意外と多いと思うよ」


 双子といえば、マンガやアニメに出てくる双子みたいに、常に一緒に行動して仲良しこよし。なんでも仲良く半分こ。そんなイメージだった。でも実際は複雑な思いを抱えてるんだ。


「朱里のおじさんと父親がお互いにどんな思いを抱えているかは、オレにもわからない。でもいろんな感情が複雑に絡み合ってるんだろうな、っていうことはわかる気がする。そして何かあったらお互いのことが思い浮かぶんだと思う」


 兄弟姉妹のいない私には、理解できない感覚だった。そして少しだけ羨ましい気もした。


「おじさんとあの父親にも、いろんな事情があるってことなのかな」

「たぶんね。でもそれは朱里に責任がある話じゃないし、ただ受け止めておけばいいんじゃないかな。朱里だけで受け止めきれなかったら、オレが一緒に受け止めてやるよ。ほら、これがオレの連絡先とLINE。いつでも連絡してこいよ」


 海斗はスマホを差し出し、私に連絡先を教えてくれた。


「ありがとう。これで海斗といつでも繋がれるね!」


 その瞬間、海斗の頬が赤くなった。照れ屋なのはいつものことだから、私は構わずに話を続けた。


「海斗は優しいね。今日はいろいろと教えてくれて嬉しかった。私ね、海斗と一緒にいると楽になれる気がする。出会えて良かった。これからもよろしくね!」


 話し終わった頃には、海斗の顔は夕暮れみたいに真っ赤に染まった。


「お、おまっ! またそういうことをさらっと言う!」

「え、ダメなの?」

「ダメじゃねぇ、ダメじゃないけど。オレ以外には言ってほしくないっていうか、その、だから……」

「え? 何? 後半がごにょごにょ言ってて聞こえないけど?」

「あ~もうっ! とにかく、何かあったらいつでも連絡してこい。わかったな?」

「うん、ありがとう!」


 私はありったけの笑顔を海斗に向けた。少しでも感謝の思いを伝えたかったから。海斗は顔から湯気が出そうなほど赤くなり、やがてたまらないといった様子で叫んだ。


「ああっ‼ これ以上おまえといると、おかしくなりそう。抑えられる自信ないから、もう行くわ。じゃあな!」


 バイバイを言う間もなく、海斗は走り去ってしまった。


「あいかわらず変なヤツ。ま、それがいいところでもあるんだけど」


 海斗と話してると、暗く沈んだ思いが軽くなる。以前はおじさんが私の最大の理解者だったのに、今は少しだけ違う気がする。それが良いことなのか、悪いことなのか、私にはわからなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ