海斗とのお弁当タイム
翌日、海斗とのランチタイムで話を聞いてもらうことにした。父とおじさんと同じように、双子である海斗なら、何かわかることがあるかもしれないと思ったのだ。
「それ、わかる。すげぇ、わかる!」
「そ、そうなの? どの辺が?」
どうやら、すごく共感できることだったらしい。
「嫌いなのに、相手の安否とか気になってしまう、ってところかな。オレの双子の兄は空也って名前なんだけどさ。正直いって、空也のこと嫌いなんだよ、オレ。側にいると苛つくし、できれば一緒にいたくない。だから高校も別のところに進学したんだ」
「そうだったんだ……」
なんで同じ高校じゃないだろう? と思ってたけど、そういう理由だったのね。
「でも気になるんだよなぁ、あいつのこと。空也は学校でうまくやってるかな、つい気にしてしまう。そんな自分がなんとなく嫌だったんだけど、オレたちだけじゃなかったんだ。少し安心したよ」
海斗は空を仰ぎ、どこか遠くを見るように言った。その顔は少しだけ寂しそうで、おじさんの切なげな顔と被った。
「あのね、聞いてもいい? どうして、空也くんのこと嫌いなの?」
軽々しく聞いてはいけないのかもしれない。でも聞かずにはいられなかった。海斗は私の思いを見透かすように、しばらく私を見つめ、話し始めた。
「自分によく似てるのに、やっぱり違う人間だって思うから、かな」
「どういうこと?」
「チビの頃は楽しかったよ。同じ家によく似た兄弟がいてさ。毎日遊び相手に困ることはなかった。でも大きくなればなるほど感じるんだ。こいつは似てるけど、オレと同じじゃない。違う人間だって。そう思うのに、周囲の奴らもオレたちを比べる。『ここが同じだね、さすが双子。ここは違うんだ、双子なのに』って、無邪気に比べる。それがオレたちの心を切り刻む。やがて、空也と一緒にいたくない、って思うようになった。『アイツが嫌いだから』って思うと楽だったのかもしれない」
空也は自嘲気味に笑った。それは私が初めて知る、海斗の隠された思いだった。きっと誰にも話したくなかったことだろうに、私のために話してくれてるのだ。
「双子はみんなそんな感じなの?」
「いや、双子もいろいろだから全員同じではないと思う。ずっと仲がいい奴らもいるって聞くし。でもお互いに複雑な感情をもってる奴らは意外と多いと思うよ」
双子といえば、マンガやアニメに出てくる双子みたいに、常に一緒に行動して仲良しこよし。なんでも仲良く半分こ。そんなイメージだった。でも実際は複雑な思いを抱えてるんだ。
「朱里のおじさんと父親がお互いにどんな思いを抱えているかは、オレにもわからない。でもいろんな感情が複雑に絡み合ってるんだろうな、っていうことはわかる気がする。そして何かあったらお互いのことが思い浮かぶんだと思う」
兄弟姉妹のいない私には、理解できない感覚だった。そして少しだけ羨ましい気もした。
「おじさんとあの父親にも、いろんな事情があるってことなのかな」
「たぶんね。でもそれは朱里に責任がある話じゃないし、ただ受け止めておけばいいんじゃないかな。朱里だけで受け止めきれなかったら、オレが一緒に受け止めてやるよ。ほら、これがオレの連絡先とLINE。いつでも連絡してこいよ」
海斗はスマホを差し出し、私に連絡先を教えてくれた。
「ありがとう。これで海斗といつでも繋がれるね!」
その瞬間、海斗の頬が赤くなった。照れ屋なのはいつものことだから、私は構わずに話を続けた。
「海斗は優しいね。今日はいろいろと教えてくれて嬉しかった。私ね、海斗と一緒にいると楽になれる気がする。出会えて良かった。これからもよろしくね!」
話し終わった頃には、海斗の顔は夕暮れみたいに真っ赤に染まった。
「お、おまっ! またそういうことをさらっと言う!」
「え、ダメなの?」
「ダメじゃねぇ、ダメじゃないけど。オレ以外には言ってほしくないっていうか、その、だから……」
「え? 何? 後半がごにょごにょ言ってて聞こえないけど?」
「あ~もうっ! とにかく、何かあったらいつでも連絡してこい。わかったな?」
「うん、ありがとう!」
私はありったけの笑顔を海斗に向けた。少しでも感謝の思いを伝えたかったから。海斗は顔から湯気が出そうなほど赤くなり、やがてたまらないといった様子で叫んだ。
「ああっ‼ これ以上おまえといると、おかしくなりそう。抑えられる自信ないから、もう行くわ。じゃあな!」
バイバイを言う間もなく、海斗は走り去ってしまった。
「あいかわらず変なヤツ。ま、それがいいところでもあるんだけど」
海斗と話してると、暗く沈んだ思いが軽くなる。以前はおじさんが私の最大の理解者だったのに、今は少しだけ違う気がする。それが良いことなのか、悪いことなのか、私にはわからなかった。




