罪を背負いて、愛を乞う
ある晩、意を決して青葉に相談があると伝えた。できるだけさりげなく、桃子への気持ちを打ち明けたのだ。
「俺さ、桃子のこと好きかもしれない。友達としてじゃなく、ひとりの女の子として」
青葉は目を大きく見開き、心底驚いた様子だった。
「好き……? おまえが桃子を?」
あまりの驚きように、なんだか俺まで恥ずかしくなってしまう。
「桃子ともっと一緒にいたい。笑ってる桃子の隣にいたい。こういうのを『好き』って言うんだろう?」
一度も解けたことがない問題に取り組むかのように、青葉は真剣に考えている。
「僕にはよくわからない。桃子は親友で、家族のようなものだと思ってたから」
「家族? 青葉は桃子のこと、家族と思ってたのか?」
やはり青葉は、自分が桃子に惹かれていることに気付いてはいないようだ。ふたりの視線は、家族を見つめるものとは違うというのに。
「俺にとって桃子は女の子なんだ。彼女の側にいたいし、できれば桃子を守ってあげたいって思う。もっともアイツは黙って守られるタイプじゃないけどさ」
青葉の言う、「桃子は家族」は言い変えれば、「家族といっていいほど大切で、かけがえのない存在」ということなのだろう。家族や周囲の平和を何より大事に思う、青葉らしい感覚だ。
でも俺は違うんだよ、青葉。桃子の隣にいたいんだ。あいつのたったひとりの相手でいたい。ずっとこのままの関係でいるのは辛すぎるんだ。
桃子のことでおまえと争いたくない。だから……ごめんよ、青葉。
青葉の気持ちを確認しながら、俺は最後の賭けに出た。
「なぁ、青葉。一応聞いておきたいんだけど……。青葉は桃子のこと、どう思ってる? 好きだったりする? 友達や家族としてではなく、ひとりの女の子として」
青葉の目に一瞬、迷いが生じたのを感じた。青葉は今、揺れている。静かに答えを待った。
もしも、青葉が「僕も桃子が好きだ」と言ったら。その時は、俺は桃子に思いを告げることなく、二人を応援しようと思った。秘かに惹かれあってる二人のためにも、俺が身を引く。桃子をあきらめるのは想像するだけで辛いけど、大事で大切なふたりのためなのだから堪えよう。
けれど、もしも青葉が……。
「僕は桃子ののことは大事な友達だと思っている。そして水樹と同じように大切にしたい、家族のような存在だ。それ以上の思いは僕にはないよ」
青葉は黙って身を引いた。「それ以上の思いはない」とはっきり告げたのだ。俺に気を遣っているのかもしれない。けれど本気で好きだったら、こうもきっぱり言わないはずだと思った。
「じゃあ、俺が桃子に告白してもいいんだね?」
「勿論だよ、むしろ応援する」
「ありがとう、青葉」
予想通り、青葉は自分の本当の思いに気付くことなく、俺と桃子のために黙って身を引いた。青葉の性格ならそうするだろうとわかっていたけれど、青葉を騙したような気がして、気が重かった。
ごめんな、青葉。昔からおまえにはなにひとつ敵わなくて、周囲の女の子もおまえを好きになった。そんなおまえが双子の兄弟であることが誇らしくもあり、苦しくもあった。
でも、桃子だけはどうしても譲りたくないんだ。桃子が俺を選んでくれたら、彼女のことは俺が必ず幸せにするから。だから、おまえの優しさを利用したことを、どうか許してほしい。
心の中で詫びながら、青葉に負担をかけないよう、元気でお調子者の水樹のふりをした。
「話してたらお腹減ったよ。早くごはんにしよう、青葉」
「そうだな」
罪悪感をごまかすように、笑顔でごはんをかきこみ、いつも以上におしゃべりをした。
青葉に申し訳ないと思いながらも、これでやっと桃子を自分だけのものにできるかもしれない、という喜びにひたっている自分を感じる。我ながら、嫌になるほど醜い。けれどどんなに醜くても、俺は桃子の側にいたかった。たとえ罪といわれても、青葉をできるだけ傷つけないように、桃子をこの手にしたかった。
ならば自分の愚かさも、醜さも、全て受け入れていくしかない。
罪悪感は心の奥底に押しこみ、ひたすら笑顔を浮かべた。負の感情は、心の奥底に封じ込め、努めて笑顔でいよう。桃子と青葉が、少しでも穏やかでいられるように。それが3人にとって、最善の方法だと思ったのだ。
その時の俺は知らなかった。心の奥底に封じ込め、鍵をかけた負の感情は、決して消えることはないのだと。そしてある日突然、封印を解き放ち、マグマのような感情の渦となり、暴れ回ってしまうことがあるのだ。
その事を、俺はずっと後になって知ることになる。




