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あおとみずいろと、あかいろと  作者: 蒼真まこ
みずいろの章~水樹

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青みゆく空に、とけていくものは

 青葉に料理を教わるという名目で、桃子を家に連れて行く。3人の気持ちが(なご)んだところで、俺が青葉に歩み寄って仲直りする。

 これが桃子の考えた、青葉との仲直り作戦だった。


「ちょっと待て。いくら何でも穴だらけ、ザル過ぎる計画じゃね?」

「いいのよ、これで。細かいところはその都度(つど)軌道修正(きどうしゅうせい)していけばいいんだから。ようは水樹が自分の気持ちに素直になればいいのよ」


 細かなところまで考えるのがめんどくさいだけじゃ……とも思ったが、あえて言葉はのみこんだ。青葉とこれ以上険悪にならないように、仲直りのきっかけが欲しかったのは事実だし、桃子が俺と青葉の間に立ってくれれば、案外うまくいきそうな気がする。桃子の笑顔を見ていると、何でも可能な気がするから不思議だ。たんに()れた弱みかもしれないけれど……。


「青葉、いままで家の事を任せっきりでごめん。これからは俺も一緒に手伝うよ」


 桃子に背中を押されるように、自分の気持ちを素直に伝えたことで、青葉と仲直りすることができたのだった。いつもなら照れくさくて絶対に言えない台詞も、桃子が見ていると思うと、さらっと口にできたのだから、彼女の力は絶大(ぜつだい)かもしれない。青葉もまた桃子が側にいたことで、険悪な雰囲気にならずに済んだのだと思う。


「私の言った通りだったでしょ? ようは気持ちなの。青葉くんと仲直りできて良かったね!」


 後日、にこにこと笑う桃子の顔を眺めながら、彼女に出会えて本当に良かったと思った。


「へぇ。桃子大明神(だいみょうじん)様のおかげでございます~」


 桃子は俺をじっと見つめている。その視線にどきどきしていると、桃子はいたずらっぽく笑いながら、ふふんと胸を張った。


「わたくしの偉大(いだい)さがわかればよいわ。でもあなたはもう少し、素直になったほうがよろしくてよ?」

 

 適当なお嬢様言葉を繋げながら、得意げに語る。頬が少し赤くなっているから、たぶん俺に合わせてくれたんだろう。

 くっそ、こいつ、なんでこんなに可愛いんだよ?

 桃子に触れたくなる衝動(しょうどう)(こら)えるために、わざとふざけてみせたとも知らず、桃子は無邪気な笑顔を浮かべている。

 今は桃子の側にいられればいいんだ。焦って気持ちを伝えたら、この関係はきっと壊れてしまう。


 その後、桃子はうちによく遊びにくるようになり、俺と青葉、そして桃子の三人で過ごすことが多くなった。くるくると表情を変える桃子が可愛くて、つい彼女ばかり見つめてしまう。青葉もまた笑いながら、桃子を見ている。三人で笑い合う日があたりまえとなり、毎日が楽しかった。


 そんなある日、ふと違和感(いわかん)に気付いた。それはまだ蜘蛛(くも)の糸ように、押し切れば簡単に切れてしまう程度のものだったが、たしかにそこに存在していた。おそらくまだ当の本人たちでさえ気付いてないほどの、かすかな糸。

 桃子と青葉の視線が、絡み合っているのだ。

 桃子を見つめてばかりいたから、気付いてしまったのかもしれない。彼女の視線の行き着く先が、どちらなのかを。桃子は俺よりも、青葉をよく見ている。そして青葉もまた、彼女を愛おしげに見つめている。

 それが何を意味するのか、瞬時(しゅんじ)に理解できた。俺にとってはかけがいのない存在である桃子が、たったひとりの双子の兄弟である青葉に惹かれている。今はまだ指摘しても、笑って否定するだろう。それでも二人の間にある感情が、友人や家族といった類のものではないことに気付いてしまった。


「水樹、どうかしたの? さっきからぼーっとしてるけど。3人で作ったごはん、冷めちゃうよ?」

「冷めると味が落ちるぞ、水樹。おまえが刻んでくれた野菜がたっぷり入ってるんだから、冷めないうちに食べろよ」


 桃子と青葉が、僕に笑顔を向けている。幸せな光景のはずなのに。なぜ俺は、気付いてしまったのだろう? こんなこと知りたくなかった。ぬるま湯のような幸せに、いつまでも浸っていたかったのに。


「な、なんでもねぇよ! ちょっとばかし、今日見たバラエティ番組のこと、思い出していただけ!」

「そんなに面白いテレビ、今日放送してたっけ、青葉?」

「さぁ? 僕はテレビあまり見ないから」

「あ~、わかった。水樹ってば、ちょっと休憩(きゅうけい)ってキッチンを離れた時に、隠れてテレビ見てたんでしょ?」

「そ、そうそう! バレたか~。桃子は何でもお見通しだな」

「水樹らしいなぁ」

「本当だよね~、青葉」


 テレビなんて、見てやしない。適当に話をごまかしただけだ。雰囲気を壊さずにすんだのだから、お笑い役で十分だ。


 その晩はあまり眠れず、明け方目が覚めた。外はまだぼんやりと明るい。眠れなくなった俺は、誰も起こさないように気を付けながら、そっと庭先に出た。

 空は少しずつ明るくなり、やがて青葉も起きてくるだろう。それまでは俺だけの時間だった。

 青葉は大事な兄弟だ。双子としてずっと仲良くしてきて、母さんのことをきっかけに、仲が悪くなった。俺と青葉の(きずな)を修復しれくれたのが桃子。初恋の人であり、永遠に側にいたい人だ。青葉と桃子。どちらも俺にとっては大切な存在。

 桃子を独り占めすれば、青葉との絆がまた消える。青葉を優先すれば、桃子と青葉はいずれ恋人になる。どちらも嫌だ。選びたくない。けれど、このままではいられないことも、よくわかっていた。


「どうしたら、いいんだよ。だれか、教えてくれ……」


 救いを求めるように空に向かって呟いたが、青みゆく空は何も応えない。

 目に涙がにじみ、青がん(かす)でいくのを感じながら、ひたすらに空を見つめ続けた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『それはまだ蜘蛛くもの糸ように、押し切れば簡単に切れてしまう程度のものだったが、たしかにそこに存在していた。おそらくまだ当の本人たちでさえ気付いてないほどの、かすかな糸。』 この表現がと…
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