表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あおとみずいろと、あかいろと  作者: 蒼真まこ
みずいろの章~水樹
39/65

君が誰より愛しくて

 桃子とはすぐに仲良くなった。気さくで明るい桃子は話しているだけで楽しく、一緒にいると時間を忘れてしまいそうだった。境遇(きょうぐう)(ちが)えど、家庭に事情を抱えているところに共感する部分も多く、話が合うことが(うれ)しかった。


「桃子は(えら)いなぁ。家の家事を支えてるんだろ? 俺なんて青葉に任せたまんまだよ」


 学校からの帰り道を桃子と一緒に歩くのは、俺にとって一番の楽しみとなっていた。


「水樹も手伝えばいいでしょ、何で手伝わないの?」

「だって、俺は青葉とちがって要領(ようりょう)悪いし不器用(ぶきよう)だし、俺がいると邪魔(じゃま)になるだけだから……」

「それは言い訳でしょ? やれるかどうかじゃなくて、やるかどうかよ。ようは気持ちだよ」


 正論(せいろん)だった。青葉に言われるとムキになって反論(はんろん)するのに、桃子に言われると素直(すなお)に従いたくなる。不思議と逆らえないのはなぜなんだろう?


「桃子の言う通りだね。これからは俺にできる形で手伝っていくよ」

「偉い、偉い。水樹くんは素直で、いい子だね」

「あのなぁ、ガキ扱いすんなよ」

「ガキじゃないよ、可愛い弟って感じかな?」

「おとうと……おい! 俺は桃子と同じ歳、同学年だっつの!」

「あはは、そうだった、忘れてたよ!」


 少々口が悪いところもあるけど、それでも桃子はいいヤツだと思う。うん、たぶん。


「弟で思い出したけど、兄貴の青葉くんと水樹って、仲悪いの?」


 直球(ちょっきゅう)で心をえぐる質問をされ、さすがの俺もしばし言葉を失った。桃子は大きな目をくりくりとさせながら、じぃっと俺を見つめてくる。


「あのさぁ……もうちょっとこう、オブラートに包むっていうか、少しは気を(つか)って言えないわけ?」

「なによ? 本当はすごく仲が良いとか?」

「いや、それはその、確かに青葉とは最近仲は良くないけどさ……」

「じゃあ、当たってるじゃない。友だちなんだから、気を遣って聞くことじゃないでしょ?」


 全く悪びれることのない桃子の発言に少し呆れそうになるものの、確かに青葉とは不仲だしな、と納得してしまう自分がいる。俺はどこまで桃子に弱いのやら。自分でも情けなくなる。


「私、一人っ子だからさ。兄弟姉妹に(あこが)れてるの。いざとなったら助け合えるのは、やっぱり家族だと思うし。だから水樹が青葉くんと仲が悪いなら、仲直りしてほしいな、って思う。家のことがいろいろ大変なら尚更(なおさら)だよ。兄弟で助け合わないと。私の言ってること、まちがってる?」

「……まちがってない。正論だよ」

「でしょ? じゃあ、青葉くんと仲直りしなよ!」

「いや、いきなりそう言われても……」


 そんなに簡単に仲が良くなれたら、俺だって苦労はしない。青葉と助け合っていくべきなのはわかるけど、急に素直になんてなれるはずがないじゃないか。一人っ子の桃子には、兄弟の、ましてや双子の複雑な感情とか理解できるはずがないんだよ。

 (うつむ)きながら、ひとりでぶつぶつを文句を(つぶや)く。何で面と向かって言えないんだ、俺は。

 桃子は体を横に傾け、俺の顔を覗き込むように、上目遣いで見つめてくる。


「な~にをひとりでごにょごにょ言ってるのかな? 水樹くんは、お兄ちゃんと仲直りできませんかぁ?」


 少し甘えるように首を傾けながら、じっと見つめてくる桃子。やや茶色い髪が揺れ、ほんのり甘い香りが漂ってくる。制服の襟元にもつい目が行ってしまい、顔と体が一気に火照ってくるのを感じた。


「わ、わかったよ! 青葉とはなんとか仲直りする。これでいいか?」


 堪らず叫ぶように答えると、桃子は体を元に戻し、にんまりと笑った。


「素直でよろしい! 水樹くんはいい子ですね」


 くっそ、やっぱりこいつ、俺のことを弟か何かと思ってやがるな。赤くなっているだろう顔をごまかすように、髪をかきむしりながらそっぽを向く。ああ、何で俺はこんなにも桃子に弱いんだろう? 少しぐらい強く出ないと、男のメンツにかかわるぞ。


「言いだしっぺは私だからさ、良かったら私も手伝うよ? 料理上手な青葉くんに、料理のことも教わりたいしね。今度、水樹の家に遊びに行ってもいい?」

「え? ウチに来るの?」

「ダメなの?」

「ううん、全然いい! おいでよ、俺んちにさ!」


 桃子が家に遊びに来てくれたら、きっともっと仲良くなれる。つまらない毎日が、楽しくなるぞ。

 少しぐらい強く言ってやるぞ、と思ったのも忘れ、(えさ)につられた犬のごとく、大喜びしてしまった。ああ、俺は桃子にとことん弱いらしい。楽しいからいいけどね。


「あれ、桃子は何で青葉が料理上手って知ってんの?」

「この前、スーパーで会ったの。カレーの作り方を教わったんだ。青葉くん、ちょっと人を寄せ付けない雰囲気あるけど、話してみると優しくて、細かなところまで気を遣ってくれるのね」

「ふーん……。そりゃ、ようございました」


 桃子にだけは、俺の目の前で青葉のことを()めてほしくなかった。(くちびる)()みしめながら、桃子を言葉でなじりたくなる気持ちを押し止める。


「そーんな顔しないの、水樹。青葉くんは青葉くん、水樹は水樹でしょ? 水樹はちょっとガサツだけど、気は優しいって知ってるから。照れ屋で可愛いしね」

「俺はガサツじゃねーよ。ガサツなのは桃子だろ?」

「じゃあ、似た者同士だね、私たち」


 屈託(くったく)のない笑顔を見せつけられ、俺はそれ以上何も言えなくなってしまった。

 ああ……もうダメだ、気付いてしまった。認めよう。俺は、桃子が好きだ。ちょっと生意気(なまいき)だけど、可愛くて、俺はそんなコイツにたまらなく弱いんだ。


「じゃあ、今から青葉くんとの仲直り作戦を練りましょう!」

「はいはい、わかりましたよ」


 桃子への感情が何なのか自覚した俺は、(となり)を歩く桃子への(いと)しさに心を揺さぶられながら、共に歩いたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 自分と青葉をちゃんと見分ける桃子。 そりゃあ認められたと思いますよね。 彼女を好きになる水樹の気持ちもよくわかる。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ