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あおとみずいろと、あかいろと  作者: 蒼真まこ
あおの章~青葉
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夕暮れと告白

「桃子に告白した」と水樹から聞かされたのは、桃子への思いを告げられた晩から間もなくのことだった。


「それで、桃子はなんて?」

「答えはしばらく待ってほしい、って言われた。ちょっと戸惑(とまど)ってたみたいだった」

「そうなんだ」


 すぐに受け入れなかったということは、桃子も水樹のことを特に意識はしていなかったのかもしれない。

 

「なぁ、青葉。青葉は本当に桃子のことは何とも思ってないんだよな?」

「そうだってこの前言ったろ?」

「そうだけど……なんか青葉が(さび)しそうな顔をするから気になって」


 どうやら水樹に見抜かれていたらしい。そんなに寂しそうな顔をしていたのだろうか?


「本当だよ。桃子のことは友達としか思ってない。でも寂しい気がするのは事実だ。水樹と桃子と僕、3人で過ごすのが楽しかったし、桃子も僕たちの家族のような気がしてたから。でもおまえと桃子が付き合いだしたら、これまでのようにはいかないだろうから」

「なんで?」

「なんで、って、そりゃカップルの間に僕がいたらおかしいだろ?」

「僕も桃子も気にしないと思うし、別に平気だろ?」


 水樹はきょとんとした顔をしている。おまえが気にしなくても、僕が気にするんだよ……という言葉をのみ込み、笑いながら水樹に説明する。


「水樹と桃子が恋人になったら、これまで通り3人で過ごすのはおかしいよ。ふたりの間を邪魔(じゃま)したくないし。そんなもんだろ?」

「そうかなぁ?」


 頭を(かし)げ、幼い子どものように不思議(ふしぎ)そうな顔をしている。よくこれで桃子と付き合いたいと思ったもんだ。


「おまえが僕を気遣(きづか)ってくれるのは(うれ)しいけど、僕のことは気にしなくていいから」

「ふぅん。まぁ、いいや。まだ桃子から返事をもらってないし、あいつがどう言うかだな」

「まぁ、そうだな」


 水樹と桃子が付き合いだしたら、これまで通り3人で過ごすわけにはいかないだろう。寂しい気がするのは事実だが、だからといってふたりの間に入り込むつもりはない。それぐらいの思慮分別(しりょぶんべつ)はあるつもりだ。


「桃子とうまくいくといいな」

「ありがとう、青葉。実は今、桃子の返事が気になって仕方ないんだ」

「だからといって急かすなよ?」

「わかってる。待つのは辛いけど、じっと待つよ。桃子のことが好きだから待てる」


 子どものようではあるけれど、水樹は本当に桃子のことが好きなようだ。なら、ふたりがうまくいくように祈るのみだ。


 その日の夕方、いつもの通りスーパーに買い物に行くと、カートを持ったまま、ぼんやりしている桃子に出くわした。どうやら思い悩んでいるようだ。水樹に告白されたことを考えているのだろうか。


「桃子、大丈夫か?」


 近づき声をかけると、桃子はびくっと体を震わせた。


「ごめん、驚かれるとは思わなかった」

「ちがう、私が悪いの。ぼんやりしてたから」


 少し俯いた桃子の頬はほんのり赤く、いつもの元気すぎる桃子とは違って、妙に女の子っぽい気がした。


「後で話をしてもいい? 青葉に相談したいことがあるから」

「わかった。買い物が終わったら、近くの公園に行こう」


 たぶん水樹のことだ。相談なら場所を移動したほうがいい。


「じゃあ、後で」


 そう言うと、桃子は逃げるようにカートを押して去って行った。いつもより他人行儀(たにんぎょうぎ)な様子に戸惑いながら、僕もまた彼女の後を追うことはできなかった。

 

 手早く買い物を済ませ、待ち合わせ場所の公園へ行くとベンチに座った。こじんまりとしたその公園に遊具は少ないため、遊びに来る子供は少ない。通る風が心地良く、落ち着ける場所だった。


「ごめん、待たせて」


 買い物袋を持った桃子が姿を現した。その頬は、ほんのり赤いままだ。普段と違う少女らしさに、なぜか心臓の鼓動(こどう)が早くなる。


「今来たところだから。それで相談って?」


 早くなる鼓動をごまかすように、少し顔を背けながら聞いてみた。僕の問いに答える前に、桃子が隣に腰を下ろした。ドキリとした。普段から隣に座っているし、なんら不自然ではない。でもそれは水樹と3人でいたときの話だ。夕暮れの公園で、ふたりきりで過ごしたことはない。話をする場所を公園に指定したことを少し後悔した。

 隣に座る桃子をそっと見つめる。夕焼けに照らされた桃子の顔は、化粧をした大人の女性のように(つや)めいていた。きめの整った白い肌に、少し茶色い髪がよく映えている。


 桃子って、こんなにキレイだったっけ……?


 水樹とふざけて笑っている桃子とは、様子がまるでちがう。桃子なのに、桃子じゃないみたいだ。

 まずい、ドキドキが止まらない。一体どうしたんだ、僕は。


「あのね、青葉」

「え? なに?」


 突然名前を呼ばれて、激しく胸が高鳴り、思わず妙な声を出してしまった。


「青葉、どうかした? 気分でも悪いの?」


 桃子が心配そうに僕を見つめている。その眼差しに、自分の顔が熱くなるのを感じた。

 このままじゃダメだ、気持ちを切り替えないと……!


「ごめん、桃子! ちょっと飲み物飲んでいいかな? そこの自販機で買ってくるから。桃子もいるだろ?」

「私は別にいいよ」

「僕がおごるから飲みなよ。ちょっと買ってくる!」


 桃子の返事を聞く前にベンチを立ち上がると、近くの自動販売機まで走った。少々強引な方法だったが、一度桃子と離れることで自分の心を落ち着かせたかった。

 自販機で普段飲んだことがないブラックアイスコーヒーを購入すると、一気に半分飲み干した。


「うわ、にが……」


 甘さが一切ない、苦み走った缶コーヒーは、火照った僕の体と心を適度(てきど)に冷やしてくれた。

 落ち着け、僕。水樹に桃子への気持ちを聞かされたから、彼女のことを妙に意識してしまうだけだ。

 おそらく桃子は、水樹との交際をどうするか悩んでいるはず。水樹と桃子のことが大事なら、僕は黙って応援してあげればいい。ただそれだけだ。

 深呼吸を数回繰り返すと、心臓の鼓動は普段通りのリズムに戻っていた。


「よし……!」


 桃子用のミルクティーを買い、桃子が待つベンチへ戻っていった。



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