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あおとみずいろと、あかいろと  作者: 蒼真まこ
あおの章~青葉
20/65

再会とカレー

 花村桃子と次に再会したのは、スーパーだった。

 かごを持ち、慣れない手つきで商品を手にしては、頭を傾け何事か悩んでいる。おそらく何を選んだらいいのか、わからないのだろう。

 声をかけるべきかどうか悩んだが、結論を出す前に、僕に気付いた花村が先に声をかけてきた。


「あっ、芹沢青葉くんだ! ね、聞いてもいい?」


 昔からの友人のように、気さくに声をかけてくる。不思議と嫌な気はしなかった。

 それにしても僕が誰なのかあっさり気付いたということは、当てずっぽうではなく、僕と水樹を本当に見分けられるということなのだろうか。


「この間もそうだけど、よく僕が青葉だって気付いたね。大概まちがわれるのに」


 僕の問いに一瞬きょとんとした顔をする花村だったが、すぐに人懐っこい笑顔に戻った。


「この間のはかんだよ。今回は状況から判断した」

「状況?」

「クラスの子から聞いたんだ。芹沢兄弟のお兄ちゃんは、家の事情で家事を担ってるって。となると、スーパーで買い物をするのは、高い確率で芹沢青葉くんってことになる」

「なるほど」


 どうやら勘が鋭く、頭の回転もいいほうらしい。見た目は軽いタイプに見えるのに、意外と細かなところまで考える人間らしい。


「それよりさ、教えてよ。今晩はカレーを作りたいんだけど、ルーはどれを買ったらいいの? この間買ったルーは、水っぽくなっちゃって美味しくなかったの」

「ちゃんと分量は守った?」

「分量? そんなもん適当。お鍋いっぱいに水を入れたよ」

 

 前言撤回ぜんげんてっかい。細かいところまで気付くタイプではなく、おおざっぱな人間のようだ。


「料理に慣れてないなら、始めはきちんと軽量したほうがいいよ。適当は失敗を招きやすい」


 花村は目を丸くして、僕の言葉を聞いている。どうやら人の意見はちゃんと聞くようだ。


「そうなんだ。すごいねぇ、青葉くん。噂には聞いてたけど、本当にしっかり者なんだ」


 子供のような笑顔だった。お世辞ではないことが伝わってくる。


「ひとつお願いしてもいいかな? カレーの材料、一緒に選んでもらってもいい?」

「いいよ」

「ありがと、助かる!」


 満面まんめんの笑みで喜んでるところを見ると、本当に困っていたようだ。音楽室で助けてもらったこともあるし、得意な料理で手助けできるなら、できることはしてやりたいと思った。

 おそらく僕と同じように、何かしら家庭の事情があるように感じられた。あえて何か聞くつもりはないが、なんとかして料理をしなければならない理由があるのだろう。


「カレーは何人分作るの?」

「えっとね、二人分かな。明日も食べれるといいけど、さすがに二日続けてカレーだと、大人は嫌かな?」

「じゃあ、翌日はカレーうどんか、カレードリアにしたら? どっちも意外と簡単だよ」

「本当? 教えて、教えて!」

「冷凍のうどんを買って常備じょうびしておくと、いろいろと使えて便利だよ」

「そういう情報助かる! なら冷凍のうどんも買って、明日はカレーうどんにする!」


 まるで主婦の会話のようだったが、まさか同級生とスーパーで料理の話をすることになるとは思わなかった。くるくると表情を変えながら、楽しそうに話す花村と会話するのは僕も楽しかった。


「青葉くんって気さくだし親切だよね。なんか女子たちは誤解してるみたいだけど」

「『女嫌いの芹沢青葉』だろ?」

「あれ、知ってるの?」

「噂はなんとなく聞こえてる。おまけに『男のほうがいいらしい』という噂もくっついてるみたいで、おかげで男子からもどことなく距離をおかれてるよ」

「アハハ!  なにそれ、みんな噂を信じすぎでしょ」

「学生はそんなもんだろ。あれこれ説明するのも面倒だから、あえて傍観ぼうかんしてるけど」

「ふぅん。青葉くんは大人なんだ」

「そんなことないけど、今はそれどころじゃないって感じかな」

「ああ、それわかる。私もいろいろ噂されてるみたいだけど、正直かまってる余裕ないんだよね。引っ越してきたばかりで私もお父さんも必死だから」

「そうか、大変だな」

「お互いにね」


 花村も僕の家庭の事情はなんとなく知っているのだろう。お互いにあえて詮索せんさくすることもなく、それぞれの検討を祈りたい気持ちになる。


「いろいろと教えてくれて助かったよ。ありがとう、青葉くん」

「この前音楽室で助けてもらったからね。このぐらいならいつでも教えるよ」

「ありがとう!」


 スーパーの出入り口で別れを告げ、カレーの材料を重そうに運ぶ花村桃子を見送った。

 久しぶりに同級生と話をした気がする。案外楽しかったな。友だちというよりは、同士って感じだけど。


「さてと。僕も急いで帰らないと」


 花村に今度会ったら、カレー以外の簡単な料理を教えてあげようかな、と思いつつ帰路きろについた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 叔父さんとお父さんの学生時代。 そしてお母さんの登場ですね。 青葉叔父さんといい関係性に見えますが、水樹と結婚した事を考えるとここにも切ない予感が満載です。 色々ときになりますね〜。 朱里…
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