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あおとみずいろと、あかいろと  作者: 蒼真まこ
あかの章~朱里
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おじさんと父、そして私

 海斗と他愛もない話をしながらゆっくり家路につく。いつもなら足早に帰宅するのに、今日はもっと遠かったらいいのに、と思ってしまう。真実と向き合おうと決めたものの、やっぱり少し怖い。海斗と離れるのも寂しかった。わざと遠回りで歩いたけれど、自宅はすぐそこまで来ていた。あの角を曲がれば、おじさんと暮らす我が家だ。


「朱里、怖かったらオレも同席しようか?」


 海斗が私の心を見透かしたように、気遣ってくれた。確かに海斗がいてくれたら心強くはあるけれど、さすがにそこまでは甘えられないと思った。おじさんや父とは、今日が初対面なのだから。おじさんはともかく、あの父親が嫌がりそうだもの。


「ありがとう。気持ちだけでいいよ」

「そうか、わかった。でも無理するなよ。辛かったらすぐに連絡してこいよ」

「うん」


 角を曲がると、家の前でおじさんが周囲を見渡しながら、うろうろと歩き回っているのが見えた。私に「ひとりになりたい」と言われた手前、探しに行くわけにもいかず、ひたすら私を心配しながら待っているのだろう。おじさんの愛情を感じ、胸が熱くなった。おじさんの傍らには、お父さんが門にもたれるように立っていた。空を仰ぎ、遠くを見つめている。一応、私を心配しているのだろうか?


「うろうろしてるのが、朱里の大好きなおじさん?」

「そう。イケメンでしょ? ぼぉっと立ち尽くしてるのが問題の父親」

「なるほどね。性格が顔に出てる感じはするけど、やっぱり似てるなぁ。さすがは双子。ま、オレが言うことじゃないけど」


 本気なのか冗談なのかわからない、海斗の言葉に小さく笑った。


「今度、空也くんのことも紹介してね。一度会ってみたいな」

「空也と? いいけど、朱里のこと気に入られたら困るなぁ」

「大丈夫、大丈夫。私には海斗しかいないから」


 海斗の顔がぼっと赤くなる。真っ赤になった海斗をからかってやろうと、口を開けた時だった。


「朱里!」


 私を発見したおじさんが、私の名を呼びながら、まっすぐ私に向かって走ってくる。


「朱里、心配したぞ! どこもケガはないか?」


 いつものように両手を広げ、私を抱きしめようとする。咄嗟に身をよじり、おじさんの腕を避けてしまった。


「止めて、おじさん。友達が見てるから」

「朱里……」


 おじさんが寂しそうに私を見つめている。その顔を見るのは辛いけど、海斗の目の前で子供みたいに、おじさんに抱かれたくはなかった。おじさんから目を逸らすように、海斗に体を寄せた。


「おじさん、紹介するね。佐々木海斗くん。私と同じクラスなの」


 私の言葉に、少し緊張した面持ちの海斗が、一歩前に歩み出る。


「初めまして。佐々木海斗です。朱里さんとお付き合いさせてもらってます」


 おじさんが驚いたように、大きく目を見開く。驚いたのは私も同じだった。


「え、私たち付き合ってるの?」

「え? 違うの?」


 海斗がきょとんとした表情で私を見ている。


「好きだよ、とは言ったけど、また付き合うとは……」

「え、え、え~? あそこまで告白し合ったのに、オレたちまだ彼氏彼女じゃないわけ?」

「好きだけど、まだ心の準備ってものが……」

「ここまで来てそれはないだろう、朱里ぃ」


 私たちの掛け合いを茫然と見つめていたおじさんだったけれど、やがてクスクスと声をあげて笑い始めた。


「そっか、朱里にもいつのまにか素敵な彼氏が出来ていたんだね」

「まだ彼氏じゃないよ」

「じゃあ、朱里にとって海斗君はどんな存在なの?」


 問われて返答に困ってしまった。


「えっと、今一番大事な人……かな?」


 海斗の顔が再び真っ赤に染まる。


「そういうのを世間では、彼氏彼女、または恋人っていうんだよ、朱里」


 おじさんが優しく教えてくれた。


「そっか、そうなんだ。私と海斗はもうカレカノなんだ……」

「なんだよ、嫌なのかよ。朱里」

「違うよ、ちょっと照れくさいだけ」

「オレのほうが照れくさいっつの!」


 おじさんは私たちを眩しそうに見つめている。


「海斗君は朱里を送ってきてくれたんだね。ありがとう。事情は聞いてるかもしれないけど、家族のことで少し揉めててね。できれば家族だけで話し合いたいんだよ」


 おじさんの言葉に、海斗の顔がすっと真顔になった。


「わかってます。朱里もそれを望んでますから。でもひとつだけお願いしてもいいですか?」

「なんだい?」


 おじさんが軽く手を組み、海斗の言葉を待った。


「朱里を泣かせないでください、絶対に。朱里、いや、朱里さんはオレにとって誰より大切な人だから」


 おじさんの目を真っすぐに見据え、自分の言葉をしっかりと伝えた海斗は輝いて見えた。


「わかった、気を付ける。弟にもよく言い聞かせておくよ」

「お願いします!」


 ぶんっと頭を振り下ろすように、おじぎをした海斗の姿に驚いてしまった。彼がここまでしてくれるとは思わなかったから。海斗の思いを感じて胸が熱くなる。


「朱里、家に入ろう。水樹と話し合って、全部おまえに話すことにしたから」

「本当? 今度は隠し事はなし?」

「ああ、もうしないよ。そんなことしたら海斗君に殴られそうだしね」


 軽くウィンクしながら視線を送られた海斗は、またまた赤くなった。

 家に入る前に、ずっと手を繋いでいた海斗とそっと手を離した。


「海斗、またね」

「ああ、またな。連絡はいつでもいいぞ」

「うん」


 名残惜しいけど、ここからは私ひとりで向き合わなくてはいけない。

 海斗に別れを告げると、おじさんに促されながら家の中に入った。玄関には父が待っていた。


「ほら、水樹。朱里に謝れ」


 おじさんに言われ、渋々といった様子で父が私に頭を下げる。


「悪かった。経緯をきちんと伝えなければダメだって、青葉に散々怒られた」


 悪戯を咎められた子供みたいな表情だった。


「水樹はいつも言葉が足りなくてね。こんな奴だけど、朱里のことを大事に思ってるのは確かだよ。それは僕が保障する」


 おじさんの言葉に、父が照れくさそうに微笑んだ。どうやら、悪気はなかったみたい。だからといって、何をしても許されるわけではないと思うけど。


「わかった。少し誤解があったんだと思っておくね。まずは全部話してくれる? 私が産まれたときのこと、そして桃子お母さんのことも全部。私、お母さんのこと何も知らないもの」


 おじさんは父と顔を見合わせると、互いに頷いた。

 私達3人はキッチンへ移動し、そこで話をしてもらうことにした。キッチンを指定したのは私。慣れ親しんだ食卓に座って話をしてもらったほうが、落ち着いて聞くことができる気がしたからだ。


「じゃあ、まずは僕から話をするよ。そのほうが朱里も落ち着いて聞けると思うし。いいかい?」

「はい、お願いします」


 おじさんに向かって、軽く頭を下げる。目を細めながら私を見ていたおじさんは、ゆっくりと話を始めた。それは敬愛するおじさんの、生い立ちから始まるものだった。

こちらで第一部完です。

ここまで読んでいただいた方、ありがとうございます。

次話から朱里の青葉おじさんが主役となります。

視点が大きく変わりますが、どうかご理解お願い致します。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 朱里のみずみずしい感情がテンポよく豊かに描かれていて、遠く過ぎ去った女子高生時代を思い出しました。 明るく素直な彼女に、父親に対して素っ気ない態度を取ってしまう部分までを含めて、好感が持て…
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