表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あおとみずいろと、あかいろと  作者: 蒼真まこ
あかの章~朱里
14/65

側にいるよ

 海斗はいつも通り、話を聞いてくれた。普段と違うのは、私の片手をずっと握っていてくれたことだ。話し始めた途端、私の体が震え始めてしまつたので、咄嗟に手を握ってくれたのだ。少し汗ばんた海斗の手は温かく、おかげで落ち着いて話をすることができた。経緯をゆっくり話すことで、混乱していた気持ちに少しずつ整理がつき始めていた。


「私、これからどうしたらいいと思う?」

「…………」

「海斗? 何か言ってよ」


 海斗はいつになく難しい顔をしていた。


「ごめん、具体的にどうしたらいいのか、正直いってオレにもよくわからない」

「海斗……」


 思えば当然だった。経験豊富な大人ならともかく、海斗はまだ自分と同じ未成年(こども)なのだから。


「でもひとつだけ言えるのは、たぶん朱里がこれからどうしたいか? じゃないかと思う」

「私がどうしたいか?」


 海斗はゆっくりと頷いた。私の手を握る力が少しだけ強くなった。


「こんなこと言ったら無責任かもしれないけど、今後は全て朱里の気持ち次第だと思うんだ。朱里が何を望み、何を願うかで変わってくる」

「私が何を望み、何を願うか……」

「朱里はどうしてほしい? オレやおじさん、そして実のお父さんに」


 率直に聞かれて、戸惑ってしまった。けれど自分がどれだけ混乱しているのか、改めて分かった気がした。


「心配するな、朱里。おまえが何を望んでも、オレは朱里の側にいるから」


 海斗は優しく微笑み、まっすぐに私を見つめていた。『朱里のしたいようにすればいい』そんな思いが海斗から伝わってきた。彼の優しさと愛情が、冷え切った心を温め、勇気づけてくれた。


(考えよう、私がどうしたいのか、何を望むのか)


 静かに目を瞑ると、自分の心を見つめる。握ってくれている手の温もりが、心のよりどころだった。

 私はおじさんとの穏やかな生活を、何より大切にしたかった。おじさんの愛情があったからこそ、「私は捨てられた子」という感情に囚われずに済んだのだから。けれど心の奥底では常に疑問があった。「なぜ私は捨てられ、おじさんを実の父親と思ってはいけないのか」と。おじさんへの疑問と、実の父親の不可解な行動の理由。私は知りたい、真実を。そうでなければもう私は、前に進めない。


「海斗、私は真相を知りたい。お父さんのことはまだよくわからないけど、おじさんのことは信頼してるもの。おじさんとお父さん、それぞれに真実を話してもらいたいって思う」

「それが朱里の望みか? 真実を話してもらうと、また傷つくかもしれないぞ」

「もう十分傷ついてるもん。だったらいっそのこと全部話してほしい。何事もなかったように過ごすなんて、もうできないから。海斗、辛すぎることがあったら、また話を聞いてくれる?」

「言ったろ。オレはおまえの側にいるって。いつでも話せばいい。ひとりで抱え込むなよ、朱里」


 海斗は両手で私の手をつつみ込み、力強い目で私を見つめている。


「ありがとう、嬉しい。海斗、もうひとつお願いがあるんだけど聞いてくれる?」

「なんだ?」

「私を家まで送ってくれる? ひとりだと怖くなってしまいそうだから」

「わかった、送るよ。オレもおまえの大好きなおじさんを見てみたいしな」

「おじさん、イケメンだよ?」

「オレよりカッコイイわけ?」

「うーん、どうかなぁ?」

「おいおい、そこは『海斗のほうがカッコイイよ』って言うべきだろ?」

「嘘は言えないもん。でもね、海斗は今の私にとって心の支えなの。だから誰より素敵だよ」


 一瞬で海斗の顔が赤くなる。よく見たら耳まで真っ赤だ。


「お、おまっ、ストレートすぎるだろっ」

「海斗が言えっていったのに? 照れ屋のところは変わってないねぇ、海斗」

「おまえが照れるようなことを、さらっと言うからだろ!」

「今更言ってんの。今日の海斗もだいぶキザなこと話してるんだよ?」

「う……確かに」


 私たちは目を合わせ、どちらからともなく笑った。素直に笑えることが、何より嬉しかった。


「じゃあ、そろそろ行くか?」

「うん、行こう」


 海斗と手を繋ぎながら、おじさんと父が待つ家へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 複雑で悲しい現実の中で海斗君との関係性に安心しますね。 ただそれが「弱くなっていたタイミング」だったのが少し気にかかります。 海斗君の朱里ちゃんに対する気持ちは既に読み手に伝わっていたけど…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ