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BLUE WORLD  作者: 雪川
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#01 We All Have Sins

 ー2026年 東京 3月ー


 人が行き交う交差点と街中にサイレンが鳴り響く。消防車のそれを更に激しくしたかのような音はよく響き、近辺全体に危険を呼びかける。数秒後にはサイレンが止み、設置されたスピーカーからは女性の声が聞こえる。


『サイレン範囲内にて、脅威度Aクラスのポータルの出現を確認しました。近辺にいる弐級以下のガーディアン局員は直ちに避難誘導を行ってください。繰り返します。サイレン範囲内にてーー』


 大規模な街中に多大なる被害をもたらすAクラスのポータルが開くとなり、辺りは一層騒がしくなる。放送の通り、腕章によんの文字が刻まれた局員が一般市民に避難誘導を促す。それなりの人数がいるため情報の伝達が遅く、またそれによって進みも遅い。


 一人の弐級局員が手に持つ端末を見て焦燥の表情を浮かべた。そう思った次には、宙に黒いスパークが走った。それは段々と収束し、回転し、大きくなっていく。

 そんな光景をビルの最上階に座って見ている2人がいた。


「あちゃー、ホントにAクラスじゃないの。こんな街中に開いちゃダメでしょ」

「俺たちがどうこうできるもんじゃない。それに、弐級が対処できるとは思えない。出てきたらすぐに潰すぞ」

「はいはい、やりゃーいいんでしょ、やりゃ。ったく、休日出勤の手当とかでんのかね?」

「…知らん。帰ってからアリスに聞け」


 嫌々来たような口調で話す金髪の青年は薄いサングラスをかけながら首を鳴らした。横には青いコートを着た黒髪短髪の青年が、こちらは面倒臭そうにポケットに手を入れて下を見ている。


 どうやら2人が話している間に避難誘導は終わったようだ。スパークの付近では弐級局員が戦闘態勢に入ってポータルから出てくる敵を待ち構えている。その時だった。胎動するかのようにドクンと跳ねたスパークは急速に広がり、そこから黒い何かが溢れるように出てきた。手には鋭く反りかえった鎌を、口元には大きな牙をもち、足が10本以上あるカマキリのような集団。それが溢れ出し、局員へと向かっていく。


「来たな」

「うっし、じゃあ行きますか!俺の給料をかけて」


 2人は同時に飛び降り、ポータルの前へと急降下する。そのまま突っ込むかと思いきや音もなく弐級局員とカマキリの間に着地した。耳につけた小型の通信機に手を当てるるとザザッと乱れる音がし、すぐに通信が繋がった。


「アリスか?俺だ。東京街中にて発生したポータルに到着。これより、JOKER0番隊、“断絶者エグゼクター” 入沢 蒼太、同じく零番隊〔JOKER〕の“鍵屋キーマスター” 鍵村 直紀、交戦を始める」

『りょーかい!派手にかましちまえ!です』


 入沢いりざわ蒼太そうたと名乗った青年は通信を終えるとカマキリへと向き直った。横では鍵村 直紀と呼ばれた青年がサングラスを拭いている。


「おい、行くぞ」

「はいはい、行きますよ、っと」

「気が入らない返事だな」

「入沢くん、君は俺の親かね?」


 しょうもないやりとりをしているとカマキリが突進を仕掛ける。鋭く尖った鎌を大きく振り上げる。しかし、次の瞬間にはそこにはいなかった。向かってきたのとは逆の方向でカマキリはピクピクしており、その胴体には深々と靴裏の跡がある。


直紀なおき、お前がふざけてるから1発で仕留められなかった」

「いや、それはお前が悪い。プロってのはいつでもどこでも実力が発揮できるものなのだよ」

「お前だけはそれを語るな。まぁ、さっさと片付けるか」


 一歩踏み出した蒼太の足から上へと白い炎が捲き上る。炎はあっという間に入沢を覆い尽くし、それでもゆっくりと前進していく。炎の中から声が聞こえた。


「我が罪は憤怒 怒れる焔を見に宿し 立ち伏す全てを焼き切らんとす 今此処に おわり導き幕引きとせんー」


 腹の底へと響くような声が進むほどに炎の激しさは増し、熱波も広がっていく。そうして、熱が最高潮に達した時ーー


「ーー舞え、“白焰びゃくえん”」


 白い焔の渦はより一層大きくなり、轟々と咆える。

 渦が完全に吹き飛び姿を表した蒼太の姿は先程とは変わっていた。髪は白くなり目は蒼く、青いコートは白い炎が灯る純白のコートへとなり、これも白いブーツの足裏からは炎が噴き出している。


「己が罪の門を開け 偽りの罪を露見せん 戦線行くは鍵を持ち 生へ向かいて錠を開けとする 今此処に 鍵錠けんじょう貫き幕開けとするーー」


 同じように直紀も前進するが焔が噴き出ることはなく、代わりに目の前に大きな石造りの門が現れる。開いた門には何か半透明な薄い膜が張られ、そのまま止まることなく直紀は門へと進んだ。厚い門の反対側から直紀が出てくると門は塵になるかのように散っていき、そこには格好が変わった直紀がいた。フード付きの灰色のパーカーは所々ヒビが入るかのような模様が入っており、暗いベルトには全て異なる無数の鍵束がひっかけられている。


「蒼太、今日の調子は何割ぐらい?」

「よくて中の上ぐらいだ。眠くてたまらない」

「まだ昼の3時だけどな」


 装いが変わった2人に尻込みしていたカマキリたちは耳をつんざくような甲高い叫び声をあげて威嚇する。背中からは昆虫特有の羽が広がり、その姿はどういってもカマキリだ。

 先ほどとは比べ物にならない程の速度で前方へと突っ込むカマキリは黒い鎌を掲げる。


「キシャキシャ五月蝿いんだよ、頭が痛くなる」


 指を鉄砲の形にした蒼太の人差し指から炎で形作られたフルメタルジャケット弾が飛び出す。およそ視認できない速さで飛来するそれは容易に先頭のカマキリを貫き、そのまま後ろへと突き進む。少しかすっただけでも一瞬で炎は体中に広がり、堪え難い高温が襲う。

 炎は近くにいるカマキリに伝播し、黒いカマキリはあっという間に白い炎へと飲み込まれ、辺りは純白に染まった。


「俺、要らないよね?」


 炎を射出する蒼太の後ろからそんな寂しい声が聞こえた。



 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽



 黒いカマキリが辺り一帯に広がっていた悪夢のような光景は嘘のように消え、消し炭も残さずに無くなっていた。黒いスパークを放つポータルもいつの間にか消え、少しだけ地形的な被害は出たものの死傷者共に0人という結果で今回のポータルは閉じた。


 元の姿に戻り、青いコートを着た蒼太の近くに直紀が近寄った。


「…さっきも思ったけど、俺、要らなかったよね?」

「いや、要る要る。主にそれを感じさせるために必要」

「俺の時間返してくれない?あと、ちょっとカッコつけて蒼太と違って必要無い詠唱して姿変フォルムチェンジまでした結果何もしなかった俺の羞恥心もどうにかしてくれない?」

「待て、後者に至っては俺は関係ないだろ」


 そんなくだらない会話をする2人が、否、その一方が今の今までAクラスポータルから溢れ出した敵を蹂躙していたとは到底思えない。離れて避難誘導をしていた数人の弐級局員が呆けた顔で遠くから2人を見ていた。


「なぁ……なんだったんだ…?」

「…わからない。あの2人ってまだ子供だよな、多分」

「え、いやでも今のは戦闘じゃなくて蹂躙だろ。何者だありゃ」

「お前ら知らないのか?ガーディアン最強の隊の事を」


 2人のことについて話していた局員の会話に1人の男が加わった。中々に厳つい顔の男は片腕は金属製の義手になっており、背中には大槌を背負っている。二の腕には「弐」の文字と各部隊の隊長である者特有の刺繍が入った腕章がある。


「ガーディアン最強って…どういうことですか、隊長?」

「その感じだと本当に知らないのか。ガーディアン内だけじゃなくて世間でも割と言われてるんだがな。まぁ、あれが日本支部だけでなく、世界の中でも指折で最強と謳われる零番隊の中の2人だ。見た目通りの年齢だが、一人一人が壱級数十人分、いや、それ以上の力を持っているな」

「見た目通り…高校生ぐらいですよね、あれ…ウソ…」

「壱級っていえば世界中でも1万人いませんよ!?それ以上何ですか?!」

「嘘でもなんでもない。その通りだ。現に俺があの2人の片方と勝負したとしても1秒以内にそこらで肉塊になってることだろうな。ってか肉も残らねぇな」


 その言葉を聞いた数人の顔が青くなった。隻腕になりつつも義手をつけ、弐級であるがその実力は壱級にも劣らないのでは、そう言われているこの隊長を一秒足らずで肉も残さず消し去ってしまう。そんなバケモノがこの世界にいるのか、と。もしも彼らが敵だったら…ありきたりな表現ではあるが、そう思うと背筋に嫌な汗が流れる。

 普段を見ればただの高校生、戦闘にもなればその力を使い、一人で敵を殲滅する。まさしく一騎当千。


「しかし、どうすればあのようになるのでしょうか。訓練を積めばいつかはあのようになる、となればそうとしか言いようがありませんが、あれは流石に異常でしょう。何がそこまで突き動かすんでしょうか」


 考え込む女性の一言に全員の目が蒼太と直紀に向く。

 いくら元がいいとしても、いくら訓練を積んだとしても、あのレベルに到達するにはそれこそ血反吐を吐いてそれでも足りないぐらいだ。どうすればあんな風になるのか、と。


「ーー世の中で何かを手に入れるには代償が必要である。野心を持つのは良いことだが、叶えるのは高くつく」


 突然そんなことを言った隊長を不審そうに数人が見た。


「俺は何度かあいつらと話したことがある。その時に言っていた言葉だ。赤毛のアンに出てくる言葉らしい。俺は戦いの中で片腕を失くした。その代わりにこの義手を手に入れた。あいつらは、あの力のために何かの代償を払った、そう言うことなのかもな」


 焼け焦げたアスファルトに立つ2人を見て、何故か心がざわついた。

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