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継ぎし賢者の禍祓い(更新停止中)  作者: 漆黒月 劉狐
6/10

 忘れ去られた空虚な過去。濁流のように流れていく中、俺は穢れた世界を眺めていた。

 何時から忘れていたのだろう。自分が気付かぬ内に消し去った日々の出来事。

 こんなにも荒んだ記憶を、特に何も思うことなく眺めている。


 殴られ蹴られ、道端に生えた雑草の様にほぼ全てを刈り取られる。そんなものを見せられた感じが否めない瞬間だった。

 一体、これを見て何になるのだろう。自分自身ですら忘れていたことを、何故掘り返されなければならないのだろう。そこにどんな意味があるのだろう。


 その時、記憶の流れが変わった。


 教室。中学生の時、俺はよく窓側の一番隅の方の席に居た。

 懐かしいのか、何だか久々に見た景色だった。男子達の喧騒や、女子達の少し黒いトークが思い浮かぶ。

 その時、景色が変わった。場所は教室、今度は生徒達も混じったもの。そして、俺の目の前の席には、机に伏せていた俺が居た。あぁ、そうだ。誰一人として見向きもされなかった俺は、常日頃人と目を合わさない様にしていたんだ。その結果、伏せて寝ることに落ち着いて、それが卒業の日まで変わる事は無かった。


 汚物を見る様な、蔑みの目を向けては嗤っているクラスメイト達。見たくなかったんだ。そんな目でいつも見られる、それは恐怖以外の何ものでもない、それはただの地獄だった。


 殴られ蹴られ、節約していた分の金を全て盗られる毎日。訴えても父は何も言ってはくれなかった。教員に至っても同じ、いや、それ以上にキツイ対応をされた。突っ撥ねられた。それはもう嫌悪感を前面に出して、「面倒事は起こすなよ」と一言言って去って行った。教育委員会に訴えもした。しかし帰ってきたのは、より悪意に染まった生徒と教員だけだった。


 誰も助けてくれない。誰も手を差し伸べてはくれない。結局俺は一人空しく空に手を伸ばすだけ。この手を取ってくれる者はいないと、分かっていた筈なのに。



 恐らく、俺の人生というのは最初から破綻していたのかもしれない。その考えは強ち間違いではない事に気付けたのは、余りにも色々なものが繋がり重なっていたからなのかもしれない。

 尤も、これ等全てが〝偶然〟であれば良かった。これが全てが裏で最悪な結末に向かって繋がっていた事に気が付いてしまった絶望でなければ。

 本来ならば、野垂れ死んでいた俺が知ってはならない理を破った真実でなければ。


 だが、それと同時に、己が内に秘めたジリジリと燻る違和感が綺麗さっぱり無くなっていた。


 少しだけ気持ちが軽く、そのまま中身に重厚感を与えたような、不思議な感覚だ。晴々としている訳でもないというのに。


 そして、これが本来のあるべきだった俺なのだろうと直感で理解した。何故今更? という疑問や理屈、道理というのはもう考えないことにした。多分、そんな事を考える時間などは無いだろう。

 だけど、これで良かったのかもしれない。これが最良なのだろう。


 だからこそ、こうして俺は戻ることが出来たのかもしれない。

 が、逆に面倒な事が増えてしまったな。


 まぁ、それは今も昔も変わらない。

 愚かな者と欲の果てしなくを求める者。そういう者が今の世を正し、自身の成功を手にしている。

 正道を歩み続ける者は、その正道に自身の成功を妨げられ、その身を肥えた豚達に喰い散らかされる世の中だ。


 愚者がこの世を統率する。それは何処に行っても変わらない。


 さて、時間は限られているが、代わりにある程度の自由を手に入れた。

 あとは俺次第でどうにでもなる、か。


 仕方が無いのは分かっているつもりだ。

 おかげで俺は本来の自分に戻ることが出来たのだから。


 それでも解せないと思うことはあるにはある。なんせこれから俺がやろうとしているのは、ただの後始末みたいなものだからだ。しかも、それをしないと世界単位で破滅するという何ともスケールのバグった事態だからだ。

 勿論、俺がやりたくない事も含め漏れなく全てやる必要がある。


 それと同時に、俺の脳裏には見た事の無い様々な場景が再び浮かび上がっていた。


 ある所は針の様な山頂が連立した大山脈地帯。

 草木の生えない枯れた大陸の中央に噴火の絶えない火山。

 何もかもが白くなる白銀の世界。


 どれもこれも幻想的、何故かそこに現実味を感じる。一周回って懐かしさすら感じていた。


 だからこそ俺は目の当たりにしてしまった。



~~~~~~~~



 漸くお目覚めか。

 全く、何時まで寝ていれば気が済むのかと思えば……。


 んで、見たんだろ。“アレ”を、見てしまったんだろ。

 それを悪く言いたい訳では無いんだがな……、お前の願いは叶わなくなってしまったんだぞ。それで良いというのか? 自分に許された、唯一とも言えるであろう望みを溝に捨ててしまってもいいのか?


 そういっても、聞かないだろうなぁ。なんせ、お前だからなぁ。


 もう決めちまったんだろ。なら仕方がない、これからの人生に光が射すことは無いと思え。


 そういうわけだ。頑張れよ。俺は今回の件に関してはどうすることも出来ねぇからな。俺が出来るのは唯一、こうしてやんわりと止めるだけだ。


 ……こっから先は、言い訳がましい事に聞こえるだろうが、本当はこんな事になる筈ではなかったんだ。だからこそ申し訳ないと思っている。その上で何の偶然か、お前という存在が現れた。驚いたものだ、まさかお前が生きているとはな。


 しかし、そうか、それなりに苦労してはいたんだな。


 だが、そんなお前には申し訳ないが、これからもっと苦しくなっていくことを先に伝えさせてもらう。お前の戦う奴等が奴等だからな。

 魔物。そういえばまだ聞こえはいいだろうな。化け物だ、お前も生で見ればわかるだろう。アイツ等は生物としての本能が無い代わりにひたすら他種の肉と魂を喰らう。今後殺し合うんだ…あぁ、これも知ってんだっけな…お前。


 それでもお前は進むだろう。そんで、必ず俺の元まで来るだろう。真実という俺へのプレゼントを添えてな。



 だから、まだ死ぬんじゃねぇぞ。


 お前の力、そしてそれによって変わる未来の光は、人々の心をいずれ癒し解かすだろう。


 今を、もう一度生きてみるといい。もう、見えてもいい筈だ。


 新天地は目の前。真実の欠片は既に託した。


 さぁ、始めよう。





 俺達の全てと、真実という偽りを終わらせる為に。




~~~~~~~~





“ほう、素晴らしき力よ”


 気付けば俺は、暗い空間にいた。

 そしてどっかのテレビ番組で聞いたことのある声がする。体の内側から響くようなかなり重く低い声。


“まさか、我が力をほぼ余す事無く取り込むとは、人というのは多彩なものだ”

「アンタ、誰?」


 一応、この何とも言えない空間では喋ることが出来そうだ。体も無いのに。 


“お前がつい先ほど飲んだもの。と言えばわかるだろう”

「あの不味い劇物か? 多分死んでるぜ俺」

“既に我が力を九割方手にしておるクセに、何を言うかと思えば・・・・・・。お前は死んではおらんよ。どの道死ねぬのだからな”


 その一言に雅嗣は、先程見ていた記憶の内容を思い出した。


「・・・・・・なるほど。さっきの記憶、そういう意図があっての事だったのか」

“好きであのような凄惨な過去を見せられると思うか?”

「いいや、思わないな。寧ろ、アンタ等は隠したい側の大馬鹿者だろ」


 俺が今話している相手は、竜神。

 それも、民を捨てた愚かな神の一柱にして、竜人族の王である竜王の名も冠した史上最強の竜神と呼ばれた竜人だ。


 そのまま聞いていれば、何だか強そうに聞こえなくもない。

 だが俺は、コイツが他の連中と同じ様に、いや、それ以上に臆病で情けない奴である事を知っている。だからコイツは同族に尊敬される事は無かった。


 記憶がまた流れていく。その度に怒りが込み上げてしまうのは、恐らく仕方のない事だ。

 だからこそ、我慢できなかった。


「余裕が無くなり、他力本願でやり切ろうと。形振り構わず助けの手を、か。随分と落ちぶれたものだな。臆病者の老人達は」

“お前の世界にも危機が生じる事態となっているのだぞ、”

「ああハイハイ。それもこれも、アンタ等のやらかした事だろ。アンタ等が大失敗しか出来ない屑でなければこうはならない。そう言っているというのに。今度は「自分達見守っているから後はよろしく☆」だとか抜かしやがって。なぁ、分かってんのか?」


 この抑えきれない怒気を取り敢えず元凶の一柱にぶつける事にした。

 え? 神に容赦なくそんなこと言っていいのか? だって?

 どうせ何もしない傍観者で被害者を気取っているゴミにかけてやる言葉なんざ決まっているだろ。


「神ってアレか、ちょっと賢い人間に軽~く頭脳で抜かされちゃうほど幼稚に出来たお子ちゃまの集まりなのか?」

「神だとか崇め奉られて調子扱き過ぎなんじゃねえのか?」

「なぁ、テメェ等よ」


“あぁ、確かにその通りだ。しかし……起こってしまった事なのだ。この世界が破滅に近い事がその証拠、残り数年と残す時間は少ない。だからこそ”

「開き直ってんじゃねえよ。災厄巻き散らしておいて、出てきた芽の一本も抜けなかった腰抜け風情が、上からモノ言ってんじゃねぇ」

“……ッ”


 こんな調子だから、俺の人生は奪われるような形となって……?


 俺は、今なんて言った?

 奪われる? 俺の人生? いやいや、何言ってんだよ。最初から俺の人生は終わっていたじゃないか。それで合っているじゃないか。今更どうしたっていうんだ。


 その時、また俺の中に記憶が入ってくる。

 今度はもっと、泥の様に纏わりつくような怨嗟に溢れた記憶。それは微かに、俺に痛みを与えた。

 そして、更に思い出された記憶を頼りに、竜神を追い詰める。


「間違いではないと言っているくせに、真実に蓋をしたことをひたすら隠していた」

“…それは”

「挙句お前等はその後の処理を怠った為に、更なる多くの犠牲者を生みだした。そしてそれに関しての物事に無視を決め込み、また多くの犠牲を出した。そんでもって、いよいよ手の施しいようが無くなってきた」

“……”

「そこで漸く気付いたんだろ。遂に自分達が怠惰を貪った分のツケを支払う時が来たと」

“……”

「恐るべき大罪を、お前等の血と魂で贖え」

“……”

「どうした、今更逃げたって遅いぞ。神のクセに言い訳と力を笠に着て、責任から逃げ続ける臆病者に力など要らない。この言葉も、本来ならばお前等が人々に言い放った言葉だった筈だが、覚えているか?」

“…う、我は、我等は間違ってなどない”


 この阿呆な連中は未だに自分達は失敗していないと豪語する間抜けだ。だからこそやらなければならない。俺という存在が今どれ程世界が欲しているかという認識が持てたから。


「世界が泣いている。大地が 空が 海が、水もこの世に生きる生き物達が、救いを求めて泣いている。それでも、涙引っ込めて自分らの生きる糧をも食らい生きているんだ。苦しいのに、死にたいのに、死にきれないままに生きている。お前等と違って、地に足着けて足掻いてんだよ。お前等は暢気に世界のバランスをとか宣う間に、決死の覚悟で戦い抜こうとしている奴等がいるんだよ。神と名が付く者のくせに、何故それが分からない。分かろうとしない。見ようとしない」

“……”

「気付いていただろ。知っていただろ。見ていただろ。だったら何故、下界の者達の惨状を見て行動に移せなかった。何故、希望と偽って人々を絶望の下へ行かせた。それこそが破滅に繋がる事ぐらい知っていたのではないのか」


 もういいだろう。いい加減、嘘吐くの止めて真実を吐き出してしまえよ。


「偽りは何時か、溶けて無くなるものだ」

“……そして、それはこの場でたった今崩れ去ったというのか”

「あぁ」

“呆気無いものだな。我々の吐いたものは、こんなにも軽く、こんなにも薄っぺらいものだったとはな”

「認めるのか、竜神」

“…認めよう”


 観念した時の竜神の声は、一段と老人に近づいた感覚に近いものをだった。


“我々は我が身愛しさに目が眩み、下界の者達を生贄として捧げる様な事をした。正式には”

「唯そこにあった者を喰らった」

“そうだ、他にも数えたらキリがないな”

「そうだな」

“我は、いつの間にか竜人の誇りさえも忘れてしまった。これも、驕り高ぶり続けた己への罰ということか”


 漸く自分の非を認めたな。手間のかかる奴だ。

 

 さて、あとは俺がやらなければならない事をするだけだな。


“我はこの罪を償う機会も失ってしまったのか”

「それもまたお前への罰なんじゃねぇのか? だがそうだな、俺が償いの機会を与えてやろう。それでも、ほんの少しの、だがな」

“なんと……有難い心遣い、感謝する”

「お前なんかに感謝されてたまるか」


 これは一方的な俺の都合によるものだからな。


 という訳で、


「お前の力、まだ残っているだろ。それも全部寄越せ」


 とりあえずコイツの全てを手に入れることにした。


“何だと、それはどういうことだ”

「いやいやいやいや、何言ってんだよ。護るには力が必要だろ」

“そうだ。護る為には力は必要不可欠なものだ。しかし何故、我が力を欲する”

「さっきお前はほぼ余す事無く。そう言ったな」

“確かに我はそう言った。本来ならあり得ぬ事だ”

「じゃあ、俺が手にすることが出来なかったものはなんだ。いや、見当はついているんだ。大方、称号だとかスキルとか、だろ」

“やはりお前、まさか記憶が”

「確かにあるが、俺は俺だ。とまあ、コイツを見た方がいいだろうな」


————平均ステータスサンプル


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

地球人平均ステータス


年齢:15歳 性別:男 職業:—


レベル:1


HP:10

MP:0

ST:10

状態:正常


筋力:10

技量:10

防御:10

敏捷:10

知力:10

魔力:0

魔耐:0

運 :10


スキル:―


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ウィグレスト・人族平均ステータス


年齢:15歳 性別:男 職業:―


レベル:1


HP:10

MP:10

ST:20

状態:正常


筋力:20

技量:20

防御:20

敏捷:20

知力:20

魔力:20

魔耐:20

運 :20


魔法適正:―

適正属性:―


スキル:―


称号:―


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 俺の前に二枚の半透明なパネルが浮かび上がった。

 表示されているのは、誰かがやっていたゲームで見たことのありそうなステータス表。それには身体能力などの個人情報が刻まれていた。


“・・・ッ、これは”

「なんだ?もう使えるのか?とでも言いたいのか。まぁ、そんな反応するのも無理は無いがな」

“驚いた、あぁ素直に驚かされた。それで、お前のはどうなのだ”


 さっきと同じ感じで、今度は自分の能力値を映し出す。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

氷月 雅嗣  年齢:15歳 性別:男 種族:半竜人


職業:―


レベル:1


HP:100

MP:1000

ST:500

状態:正常


筋力:200

技量:200

防御:200

敏捷:200

知力:200

魔力:500

魔耐:500

運 :100


魔法適正:極

適正属性:全


スキル:ストレージ 戦闘術基礎 竜変化 竜技 超速再生 仙術


称号:守護者


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



“……これ程とは”

「中々、良い線行ってんな」


 初っ端から無双入れそうだ。


“これを見ても尚、更に力を求めるというのか”

「当り前だ。誰の所為で俺が尻拭いを被らなければならねえんだ。と、そう言いたいのを堪えてやっているというのに」

“既に口に出しているではないか”

「年季の入った錆とこびり付いた便器の糞を掃除させようという魂胆丸出しの間抜けには言われたくはない」

“ぬぐぅ”


 ステータスに表示されているのは俺自身の能力値を数値化したものだ。


 確かに、能力値としては他を一桁上回る数値となっている。だけど、それだけじゃ足りない。もっと時間を短縮して強くなるには足りなさすぎる。だからさっさと強くならなければならない。


「せめてお前の力の全てだけは手に入れておかなければ、後々面倒な事になりそうだからな」

“……本当に、アレを討つことが出来るのか?”

「俺が?まさか、他の奴に任せるに決まってるだろ」

“そんな者に力を渡す訳にはいかない”

「今のお前の同胞に、いつか俺と同じ領域に届く者がいるのか?」

“それは、”

「そういうことだ。ソイツ等には、後で俺が伝えるとしよう。俺が漆黒き竜神の後継者だと。それに」


 俺はそう言ってスキル《ストレージ》を発動する。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ストレージ


・竜神の指輪

・時空の指輪

・弱化の指輪


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「竜神の指輪。コイツを嵌めて宣誓するだけだしな」

“知っているのか。我等、竜人族にしか伝えられていない儀式を”

「今の俺は、知識だけなら全盛期のお前よりあると思うぞ」

“……なるほど、そういうことか”


 納得の声が聞こえたところで、俺は指輪を取出し、右の中指に嵌めた。


「悪いな、本当は同族に渡したかったんだろう」

“もう良い。我も未練がましく考えるのはやめた者なのだ。私の愛した竜の姿を、彼等に視ることは無い”


 謝罪を述べた俺に、哀し気な声が響く。

 同時に理解した。この者〝も〟また、哀れな一生を生きた果てに、無念に朽ち果てた者なのだと。


“真なる竜。それは常に孤高であり、自身に厳格であり、真を護る者である。

……そうか、今の今まで気が付かなかったが、それは貴殿の様な者の事ではないか”

「俺はそんな大層な心掛けなんざしたこともねえんだが」

“内に秘めたる不動にして堅牢な変わらない意志。〝宿った意思〟と言えば良いか。素晴らしい、あぁなんと素晴らしいッ”



 おーおー。

 暫く聞いていたが、何やら勝手に興奮しているらしい。


“あぁ、我が子にも見せてやりたいものだ。この不動の意志を、この者が地獄の門の先へ踏み込む覚悟を、是非見せてやりたかった”

「あぁ、興奮している所で悪いが、やる事はやらせてもらうぞ」

“…そうであったな。すまない、少し昔を眺めていただけだ”


 コイツもそんな事を言うあたり、まだ未練が残っているんだろうな。




“では、始める”


 瞬間、空気が変わったような感覚に襲われた。

 なるほど、これが竜神としてのコイツの姿か。デカいな、ああ、とてもデカい。


 容易に想像がつく。山の如き巨体、天を裂く鋭利な爪、他を寄せ付けぬ圧倒的存在感。


 そして、遂に竜神の継承の儀が始まった。


“我 誇り高き強者の頂点 力と自然の神なり

 そして 今 我が力を譲渡するべき時が来た

 その者 孤高にして 強者

     強者にして 厳格

     厳格にして 唯一 真実を知る者なり


 今 此処に 竜の神は現れた 誓いの言葉を”


「我 真実に覚悟と終焉を誓い 守護者となった者である

 そして 新たなる竜の神として名をその身に刻む者なり」


“貴殿の真の名は”


「氷月雅嗣。いや……」



~~~~~~~~


“……新たなる竜神よ、この咎人の願いを、どうか聞き届けてはくれないか”

「分かっている……」


 俺は、先代竜神からある願いを聞いた。まぁ、それは果たせれば果たすということにしたが。


 先代竜神の声は、その言葉を最後にして聞こえなくなった。代わりに俺のステータスは、少しだけ変わっていた。


 そこには、称号:漆黒(くろ)き竜神 と刻まれていた。

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