団欒、兄、鼓動。
冴木とのミーティングを終えて帰宅した楓も食卓に着き、家族4人でいつもと同じ様にテーブルを囲む。
「そういえば楓、あんた今日は理沙ちゃんとハンバーガー屋に行ってたんじゃないの?なんでお腹減って帰ってきてるのよ?まぁお母さんはそれを予知して、ちゃんと楓の分も作っておいたんだけどね」
「いやいや、母さんは絶対俺がハンバーガー屋に行くって言ったの忘れてただけだろ!なに「わたし凄いでしょ」みたいに言ってんだよ。
まぁそのおかげで飯にありつけたからいいけどな。
俺、今月バッシュ買って金欠だったの忘れてたんだよ。理沙に頼ると倍返しさせられるからポテトのSしか食ってない。だから、米大盛りおかわり」
「楓は良く食べるなぁ。ははは、お父さんの唐揚げも食べていいよ。お父さん最近油物食べると次の日に胃もたれしちゃって…」
「お、マジで?サンキュー!」
『・・・・・・』
いつも通り賑やかな食事風景だが、楓が現れてからの雅は先程の様にペラペラ喋ったりはしなくなってしまっていた。
「なんだよ雅、またピーマン残してんのか。相変わらず雅はお子ちゃまだなぁ。よしよし、じゃあ お兄ちゃんが雅の天敵ピーマン君を退治してやろう」
パクッーー
『ご、ご馳走さま。私、明日も朝練あるからもう寝るね!おやすみ!』
「あら、もういいの?ちゃんと歯磨きなさいよ、それと髪もしっかり乾かし・・・行っちゃった。ほんと雅はせっかちねぇ」
ドタドタドタドターーー
「なんだ?最近、雅のやつたまにおかしくないか?まぁせっかちだったり人の話聞かないのは母さんからの遺伝だとしても……げっ、もしかして雅のやつピーマン好きになったのか?それで最後に取っておいたのに俺が食べちゃったから怒ったとか!?」
「ちょっと楓!お母さんはちゃんと人の話聞いてるわよ!?ねぇお父さん、私けっこうしっかりしてるわよね!?」
「え、あ、んーははは。まぁ雅もお年頃だからね、家族に対して距離感の掴み方が分からない時期なんじゃないかな?女の子の思春期がどういうものか、お父さんはよくわからないけど、楓は学校も部活も同じだからね。少し気にして、雅の事を見ててあげてくれるかな?」
「ん〜、ピーマンが原因じゃないとすると…今日の試合の事を気にしてんのか?でも帰りは普通に笑ってたしなぁ…。まぁまた今度聞いてみるとするか。とりあえず母さん、おかわり!」
ーーー
ー
2階にある自室へ戻った雅は まだ少し湿ったままの髪を乾かす事もしないまま、ベッドにうつ伏せでパタンっと倒れ込んだ。
ドックン、ドックン、ドックン、、、
『むぅ〜〜・・・』
枕に顔面を押し付ける雅は疲れ果てて眠ってしまった…というわけではないようだ。
ドックン、ドックン、ドックン、、、
『むぅぅ〜・・ムゥゥゥ〜・・』
枕に顔を埋めたまま、雅は足をパタパタと動かし むぅむぅと声を漏らしていた。
それは、抑え切れない感情を小刻みに口から逃がしているような、とでも言えばいいだろうか。
ドックン、トックン、トクン、、、
『むぅぅ〜・・、ふぅ』
暫くむぅむぅと悶えていた雅だが、どうやらようやく落ち着きを取り戻す事に成功したらしい。
悶え終わった雅は枕から顔を上げると、うつ伏せの状態からゴロンと半回転して仰向けになり、天井を見ながら自分の胸に手を当てた。
トックン、トクン、トクン、、、
『はぁ〜・・・』
先程まで激しく主張していた心臓の鼓動が通常通りに戻ったのを確認した雅は、大きなため息を吐き 早く眠ってしまおうと思い布団の中に潜り込んだ。