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エンディング・ワード  作者: セカンド
CASE.2 【 宿命 】
3/14

親友、先輩、憧れ。



雅と由梨は並んで歩きながら校門へ向かっていたが、2人の表情は真逆だった。


由梨はルンルン、雅はどんより。


天気で例えるなら快晴と曇りといった感じだろうか。


「やっぱり雅はすごいねっ!今日の試合で1年のエースは雅って完全にみんなが認めてたねっ!」


ニコニコ笑う由梨は、大親友の雅が部活で大活躍をした事が嬉しくて仕方ないといった様子でそう言ったが、絶賛されている雅はというと…


『そんな事ないよ。速攻とかではシュートも決めれてたけど、理沙先輩にマークされてる時は一点も取れなかったし1回も抜けなかったもん。あーあ、最後はイケると思ったのになぁ』


冴木がよそ見をした瞬間のシーンを思い出し 悔しそうに空を仰ぎ見ながら大きなため息を吐いていた。


「えー?またまたご謙遜を〜!雅はすごいよっ、さっすがわたしの大親友っ!んんー、雅大好きぃ」


ため息を吐いている雅本人は納得いっていないようだが 由梨の言った通り1年生の中で雅のプレイはずば抜けて上手かった。


その証拠に、1年生が得た42点中30点は雅が決めており、冴木以外の先輩のディフェンスはことごとく切り崩していた。


しかし、雅は冴木に勝ちたかった。


どうしても勝ちたかったのだ。







チリンチリンッーー



雅と由梨が徒歩で校門を抜けると、それを待っていたであろう2つの人影が自転車のベルを鳴らして存在をアピールしてきた。


「よっ、お疲れ。二人共試合頑張ってたな!ほら、ジュースやるよ」


「あっ!ちょっと楓、なんで2人にはジュース用意してあるのに私の分はないの!?年下贔屓反対っ、私も喉乾いてるっ!」


「ったく、うっせーな理沙は。別に贔屓してるわけじゃねぇつーの。ほら、やるよ。俺の飲みかけ&炭酸の抜けたコーラ」


「いらんわっ!楓のバカ、アホ、バスケ馬鹿!」



校門で雅達を待っていたのは、楓と冴木であった。


2人はお互いにバスケ部のエースキャプテンであり、かなり仲も良く 美男美女という事もあって周りからは理想のカップルと言われているが、実際には2人は別に付き合っているわけではなく 気が合う親友のような間柄であった。


しかし二人共 噂話や冷やかしに対しては全く興味がないようで、周りからヒューヒュー言われても「あんた達って本当に色恋話しが好きねぇ。そんなに恋愛話しが好きって事は女磨きも頑張ってるのよね?じゃあそのタコさんウインナーは私が食べてあげるわね!ダイエットのお手伝いよ」とか「ひがむな、ひがむな、来世ではきっとお前もモテるようなるって。多分な」などと言って笑って話を流す様なタイプであった為、付き合っている事を否定しない=付き合っている と、周りには認識されていた。


「あっ、冴木先輩に楓くん…じゃなくて楓先輩!お疲れ様です!ジュースありがとうございまーすっ」


楓達に声を掛けられた雅達。

ジュースを受け取った由梨は人懐っこい笑顔を向けてお礼を告げると、勢い良くグビグビとジュースを飲み始めた。


「ははっ、由梨は相変わらず良い飲みっぷりだな。っつか先輩とかやめてくれって何回も言ってんだろ、今まで通りでいいって」


「ぷはぁ〜。おいしかったぁ!うん、じゃあ今まで通りに・・・楓くん、ごちそうさまっ」


「おぅ、やっぱその方がしっくり来ていいな!昔からの付き合いなのに先輩とか敬語とかやられると、なんかこう ムズムズするからな」


「でも楓、他の部員の子達の前ではちゃんと敬語は使わせないとダメよ」


「そーゆーのは理沙とか松に任せるよ。人には向き不向きがあるからなぁ。俺、教育、苦手」


「もぅ!ほんっとバスケ以外はポンコツなんだからっ」




部活帰りにはたまにこうして4人、もしくはここに楓と同じ男子バスケ部の松や祐樹などを含めたメンバーで和気藹々と語らう事がしばしばあるのだが、今日はこの後 楓と冴木は2人でハンバーガー屋に寄ってキャプテンミーティングをするらしく、松達は来ていなかった。


『・・・・・』


楽しそうに談笑する楓と冴木と由梨。


その輪にいながらも、楓から受け取ったジュースを浮かない顔でちまちま飲んでいる雅。


雅は普段から無口で静かなタイプという訳ではないが、今日は試合で悔しい思いをして まだその気持ちを引き摺っている為 笑って会話に混ざる気分ではなかった。

しかもその輪には、悔しさの元凶である冴木もいるのだから 仕方ないといえよう。


だが、そんな雅のブルーな気分などお構いなしに巻き込んでくるのが、楓という男であった。



「なーにを不貞腐れた顔してんだよ雅。可愛い顔が台無しだぞ?あっ、もしかして理沙にコテンパンにやられたのが相当堪えてんのか?理沙、手加減なしだったからなぁ」


「ちょっと楓!なんで私が悪者みたいな言い方になってるのよっ。まぁでも実際今日は1年生の実力を見るための試合だったから あそこまで本気でやるつもりはなかったんだけど…。雅ちゃん相手に手加減なんかしたら 下手したら私達が負けちゃう可能性だってあったんだから仕方ないでしょ!」


「わぁ〜、やっぱり雅はすごいなぁ。ねぇねぇ雅 今の聞いた?冴木先輩にあそこまで言われるなんて、やっぱり雅はすごいんだよぉー!」



不貞腐れている雅を囲む3人は、雅を慰めようとしている訳ではなく ただ思った事を普通に話しているだけであったが、その会話から 3人が雅の事をどう思っているのかは一目瞭然だった。



みんな、雅の事が大好きなのだ。




『理沙先輩…、1つ聞いてもいいですか?』


話題が雅の事になってしまった事で、無言でいるわけにはいかなくなった雅は小さく口をひらく。



3人にそんなつもりはないが、囲まれて声を掛けられている雅自身は慰められていると思ったらしく、気まずさで顔を少し赤くしながら俯向き気味に冴木に話し掛けた。


「うん?どうしたの、雅ちゃん。私に答えられる事ならなんだって聞いていいわよ。ちなみに好きな食べ物はチーズケーキよ」


『最後…、どうして止められたんですか?理沙先輩は完全に油断してたのに。もしかして、それまではずっと手を抜いてたんですか?』


冴木は多少戯けた様子で話しを聞こうとしていたが、雅の真剣な表情を見て 冴木も表情を引き締め直した。


「あぁ、最後のマンツーの時ね。あのよそ見と油断はワザとよ」


『ーーーっ!』


「雅ちゃん、私に隙がなくって攻めあぐねてたでしょ。だからワザと隙を作ったのよ。私からカットしに行ったら多分抜かれてたし、かと言ってあのまま硬直してても仕方なかったし。それに時間が経てば由梨がスクリーン掛けに来ちゃうと思ったからね。なんとか雅ちゃんに動いてもらおうと思ってたところで、ちょうど楓が大声で叫んでたから利用させてもらったのよ」


「げっ、雅が負けたのって俺のせいかよっ!」


冴木の言葉にすぐさま反応した楓とは真逆に、質問をした雅は無言のまま 先程の冴木との一対一のシーンを思い出していた。


冴木は、考え込む雅を優しい表情で見ながら一言付け加えた。


「隙が見つからなかったのは雅ちゃんだけじゃなくて、私も同じだったのよ」


その一言を聞いた雅は、先程の暗い表情ではなく 喜びが溢れるのを必死に抑え込むような表情で顔を上げて冴木を見た。


『理沙先輩っ…』


「あははっ、そんな子犬みたいな顔で見つめながら名前を呼ばないでよね。餌付けしたくなっちゃうじゃない。あっ、そうだ!1つ雅ちゃんにお説教があるわっ。私がバスケで手を抜くなんて絶対にあり得ないから、そこだけは今後も間違わないように!雅ちゃん以外の1年生の実力を見る時だって、相手に合わせる事はするけど 手を抜く事なんてしない。手加減する事と手を抜く事は全く別物よ、いい?わかった!?」


「『はっ、はいっ!』」


「なんで由梨ちゃんまで返事してるのよ…。それと、その謎の敬礼はやめなさい…」


呆れた表情で冴木が大きなため息を吐くと、4人で顔を見合わせて笑い合った。


わだかまりとまではいかないが、憂いのなくなった雅も今は楽しそうに笑っている。




4人はそれからしばらく校門の前で談笑していたが、楓が「おい理沙、そろそろ行かないと帰りが遅くなっちまうぞ」と発言したのをきっかけに解散となった。


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