宮川雅、バスケ部、日常。
良く晴れた、春の日の体育館。
ダムッ ダムッ ダムッ
シュッーーーパサッ。
「雅ナイッシュー!」
『由梨こそ、ナイスパスだったよ。でもやっぱり先輩達は強いね…。私、今日はいつになく絶好調なのにダブルスコアって…』
「さっすが全国出場が当たり前の高校って感じだよねぇ。でも雅ならもしかしたら1年生レギュラー狙えるかもよ!1年生の実力を測る試合なのにボックスワンで雅にだけキャプテンの冴木先輩がついてるのが良い証拠だよっ」
「ほらほら1年!喋ってないでディフェンスに戻るっ!」
「『はっ、はいっ!!』」
今年、地元の高校に上がった宮川 雅は、小学校の頃からの親友である由梨と一緒に女子バスケ部へ入部し、今日も部活仲間達と青春の汗を流していた。
雅の通う高校では、放課後の体育館はバスケ部が占領している。
その理由は、バスケ部が全国出場常連の強豪校だからである。
男女共に全国常連の強豪ではあるが、男子バスケ部に関していえば何年も前から全国ベストエイトの常連で、一昨年からは夏と冬の全国大会を全て優勝で飾る程に強い。
ダムッダムッダムッーーー
「おら楓っ!ぶちかましちゃれぇぇぇ!」
ズバシッ、
「いって、松お前もうちょい優しくパスしろってーーーよっ、と」
パスッーー
「よぉぉっしっ!今日もノッてんな楓ぇぇぇ!あの神マンガの無口なエースと同じ名前を名乗るだけの事はあるなっ!」
「まぁ楓は無口キャラにはなれそうもないけどねぇ、一応イケメンではあるから そこもキャラ被りポイントだよねぇ」
「ハァ〜 おまえらなぁ、毎回毎回人の事を漫画のキャラと比べんじゃねぇよ。あっ、でも松はあの変な頭のキャプテンに似てるな」
全国優勝を連発する強豪である事に偽りはないが、部活動をする男子達に殺伐とした雰囲気はなく、真剣と楽しさを両立させながら部活動に励んでいた。
その中でも一際目立つ存在……それが楓と呼ばれている男子である。
楓は現在最高学年の3年生で、1年の時に入部してすぐにレギュラー入りをした。
以来、強豪と言われていたこのチームは最強の名を手にし、楓が出た試合では未だに無敗記録を更新中なのである。
ダムッダムッ、キュッ、ダムッダムッー
体育館全部をバスケ部が使用しているのだが、体育館の丁度真ん中でネットが張られており、男子バスケ部と女子バスケ部は分かれて部活動を行なっている。
しかし、男女を隔てるのはボール避けにする為のネットだけなので、お互いの様子は常に視界に入っており、交流も干渉も頻繁にあり たまに合同で練習をしたりもしている。
「おおぉぉぉっ、見てみろよ楓っ!雅ちゃん、理沙にマンツーでマークされてんのにめちゃくちゃ頑張ってるぞぉぉ!」
「松 声でけぇよ、ってか知ってるっつの。さっきからちょくちょく見てたしな。・・・でも理沙の奴 手加減の手の字も見せないくらいかなりガチでやってやがるから、雅キツそうだな」
「だねぇ。理沙のディフェンスはボク達スタメン男子でも簡単には引き剥がせないからねぇ」
男子達がネット越しに 3年生の冴木と1年生の雅の攻防に視線を集めながら雑談しているが、当の雅にはそんな視線や雑談などに気を取られている余裕などなく、目の前にいる冴木 理沙という超高校級のディフェンスを振り切る事に全神経を集中させていた。
『(ど、どうしよう…。やっぱり全く隙がない)』
幼い頃からバスケで汗を流して過ごしてきていた雅は、生まれ持った才能も相まって 並の高校生と比べると頭1つ抜けた実力を持っていたが、目の前の冴木は並の高校生ではなく チームを全国ベスト4に導いたエースキャプテン。
いくら才能と実力があるとはいえ、中学を出たばかりの雅が簡単に勝てる相手ではなく、ドリブルで抜く事はおろか パスやシュートをする隙さえ見つけられずに足踏みをさせられていた。
キュッ、キュッ、
冴木攻略に神経を集中する雅。
入部したてだが実力と才能が垣間見える雅に先輩の威厳を示す冴木。
2人の駆け引きは現在 冴木優勢に傾いていたが、
「雅、頑張れー!」
チラッ、
ネット越しから楓が雅へ声援を送った事で状況が動いた。
『(理沙先輩がよそ見を…チャンスッ!)』
ダムッーー
雅へ向けた楓の声援を聞いて、冴木が雅から視線を外した瞬間を雅は見逃さず、瞬時にドリブルで冴木を・・・
ばしっ。
『えっ!?』
「惜しかったわね、雅ちゃん」
抜き去ろうとした瞬間、冴木によってボールを奪い取られてしまった。
「あちゃー、雅の奴まんまと理沙にやられちまったなぁ…。おーい雅っ、どんまいどんまい!」
冴木にやられた雅に向かって楓が声援を送ると、雅は恥ずかしさと悔しさで顔を赤面させながらディフェンスに戻っていった。
ピッピィィィーー
それから暫くして、試合終了の笛がなった。
「『ありがとうございましたっ』」
結果は88対42で先輩チームの圧勝。
新入生チームも雅を筆頭に奮闘はしたものの、まだチームと呼ぶには日数が足りておらず 全国レベルの先輩達の洗礼を受ける形で試合は終了した。
「1年は全体的に個々のレベルが高いね、キャプテンとして私はとっても嬉しいよ!今日は私達が勝ったけど、それは単純に今日まで2年間チームとして練習を積んできたから。あんた達もほとんどがバスケ経験者みたいだけど、チームメイトが変われば戦術も癖も変わってくるからね。これから沢山一緒に練習して、友達じゃなくて仲間としてお互い高め合って、ちゃんとチームになっていけば絶対強くなれる。もちろん、私達ともね!改めて、これからよろしくね」
「『はいっ!!』」
「うんうん、気合いの入った良い返事だっ!よぉし、じゃあ今日の練習はここまで。しっかりストレッチしてから片付けして帰る事!水分はしっかり摂りなさいよ」
キャプテンである冴木の号令に返事をし、雅達1年生はストレッチと片付けを済ませた。
片付けを終えて更衣室で部活仲間達と雑談しながら帰り支度を済ませた雅はみんなに挨拶をして、いつもと同じ様に由梨と共に更衣室を出て 校門へ向かって歩いていった。