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エンディング・ワード  作者: セカンド
CASE.2 【 宿命 】
13/14

【エンディング・ワード2】



雅と楓が帰宅し、家族4人で賑やかな食卓を囲む。


迷いの無くなった雅の表情は明るく、雅の笑顔を見た家族も笑顔になっていく。





「あんた達が帰ってくるの遅いから、お母さん居眠りしちゃってドラマの最終回見逃しちゃったじゃないのっ」


口煩くて落ち着きがないけど、家族の前で暗い表情を一切見せる事がない明るくて元気なお母さん。





「ははは…、まぁなにはともあれ、雅が元気になって良かったよ。楓、雅の事をちゃんと見ててくれたんだね。ありがとう」


家族の為に毎日汗だくになりながら働いてくれて、家では自由奔放な家族を微笑みながら見守ってくれる優しいお父さん。




「家族なんだから当たり前だろ。礼を言われるような事なんてしてないし、俺も気になってた事だしな。あっ、父さん天ぷら食わないなら貰っていいか?雅もピーマン残すなら俺の皿に入れといてくれよ」


頭も運動神経も良くて、なんでも自分1人で出来ちゃう完璧な人。だけど、そこにおごりや慢心などなく、自分が好きな事を好きにやれているのは家族や友人のおかげだと常に考え、しっかり周りに感謝が出来る最高のお兄ちゃん。



幸せな家族。 大好きな家族。



『お母さん、お父さん、それから…お兄ちゃん。いつもありがとっ』



「あらやだ、いきなりなによぉ。もぅ、雅ったらどんどんお母さんに似て素直で可愛くなってきたわねぇ」


「いやいや、どう見ても雅は母さん似じゃなくて父さん似だろ。なに雅を褒めるフリしてシレッと自分のアピールしてんだよ」


「ははは…そうだねぇ、雅はお母さんにはあまり似てないかもしれないね。楓はお母さんソックリだけどね。まぁでも、娘に改まって感謝を口にされると、なんだか照れ臭いような気がするけど嬉しいものだね。よし、それじゃあお父さんも雅にお礼を言わないといけないね。雅と楓とお母さんが居てくれるから、お父さんは仕事も頑張れるし、毎日幸せに暮らせているよ。いつもありがとう」




雅は、澄み切った心で、曇りない笑顔で、大好きな家族に最期のお礼告げ、家族もそれに笑顔で応えてくれた。




ーーーーー


ーーー





夕食を終え、風呂を済ませ、部屋をいつもよりしっかりと整頓した雅は、時間を確認してから静かに部屋を出た。



時刻は23時。


明日も平日。家族はもう全員寝ている。


父親は仕事で朝が早く、兄も朝練があるのだから当然だ。




カチャーーー



自室を出た雅は、隣の部屋でスヤスヤと眠る楓の部屋の扉を静かに開けて、ベッドに近付いた。



『・・・お兄ちゃん』


「ーーーーー」



小さな声で、呼び慣れた愛おしい愛称を呟くが、深い眠りに落ちている楓からの返事はない。


『・・・ふふっ』


男の人とは思えない程に長いまつ毛、綺麗な髪と肌、形の良い唇。



『変わらないなぁ、お兄ちゃんは…』



その唇から洩れる吐息に、再び鼓動が速くなる。



『・・・お兄ちゃん、大好き』



柔らかそうな唇に、そっと自分の唇を重ねる勇気がない事がもどかしい。



「ーーーーー」



雅の囁くような告白にも、楓が答える事はない。



『ーーーばいばい』




名残惜しい気持ちを抑え込み、唇に触れてみたい衝動を呑み込んで、雅は楓の部屋を出た。




ーーーーー


ーーー




楓の部屋を出た後、そのまま家を出た雅は静かな道を歩き進み、コンビニを横切ってからやって来たのは先程と同じ公園だった。



『お兄ちゃんとのバスケ、楽しかったなぁ』



ライトアップされている馴染みのあるバスケットコートの上を歩きながら、楽しかった思い出を噛み締める。



『生まれ変わっても、またお兄ちゃんとバスケしたいなぁ』



そう願う雅だが、次に生まれ変わる事が出来るのであれば、楓の妹の雅ではなく、冴木理沙の様になりたいと、雅は心の底から願っていた。



『結局、一度も理沙先輩に勝てなかったな…』



宮川雅は、冴木理沙という人物に憧れていた。


その理由はもちろん、楓の存在が大きかった。


大好きな兄が「理沙は友達だけど、なんつぅか気の強ぇ弟みたいな感じだな。まぁでも、俺に足りない所をいっぱい持ってる凄い奴だよ。バスケも上手いしな」と言っていた事が、雅が理沙に憧れを抱き、同時に嫉妬を覚えた理由でもあった。



憧れは憎しみに変わるとよく言うが、雅の場合は違った。


理沙は憧れであり、大好きであり、ライバルであり、先輩であり、嫉妬の対象ではあったが、なにより雅が理沙に対して思っていた事は…理沙になりたいという願望だった。


兄妹ではないのに楓と親しく、家族の様に思われている理沙が羨ましくて仕方がなかった。


バスケも自分より遥かに上手く、自分にはない美貌を持ち、楓と結ばれる可能性と権利を宿命に邪魔されていない理沙になりたいと、雅は強く願っていた。






カンカンカンカンーーー



回想と妄想を繰り広げながら歩き続ける雅は公園を通り過ぎ、初めて恋心に気付いた線路の前に来ていた。



危険を知らせる音が鳴り響き、人と車が侵入しないように遮断機が降りる。




カンカンカンカンーーー




時刻はもうすぐ23時半になるくらい。


この電車が、本日ここを通る最後の電車。




カンカンカンカンーーー



雅は遮断機を潜り抜けると少しだけ線路に沿って歩き、5年前と同じ場所に立った。



『あの時は、お兄ちゃんが私を助ける為に必死に走ってきてくれたなぁ』



迫り来る電車を見ながら、甘酸っぱい想い出に頬を緩める。




カンカンカンカンーーーガタンゴトンッ



電車の走る振動が地面から伝わり、薄暗かった景色が電車のライトで色付きだす。



死へのカウントダウンを始めたにも関わらず、雅の心は穏やかだった。




ガタンゴトンッーーガタンゴトンッーー



ライトに照らされた景色が、まるで5年前の時の様に見え、あの時感じた熱い想いが雅の胸を温かくする。



『生まれ変わったら、今度こそお兄ちゃんにーーー』




ガタンゴトンッーーパァァァァァッキキキキキィィィーーー




けたたましい警笛が鳴り、急ブレーキで金属が擦れ合う音が響きながらも、電車という名の鉄の塊は雅に向かって凄まじいスピードで迫ってくる。



夜であった事、線路付近には草木が多かった事、比較的に明るい遮断機付近より少し暗い場所に居た事。



様々な負の要素が絡み合った結果、もはや電車が雅の手前で止まる事は不可能。


雅が避けるしか生き残る道はないが、その猶予も残り僅か。




パパァァァァァッーーー



電車のヘッドライトが近付くに連れて、大きくなっていく光。


その光は、触れれば確実に命を散らす死の光。



だが、雅にはその光が希望の扉に見えていた。




この光の中に入れば、魂は次の世界へ・・・


大好きな兄を、大好きになっていい世界。


大好きだと伝えても許される優しい世界。


この強い想いがあれば、必ずその世界に辿り着ける。


気合いは十分、執念だって自信がある。


だから絶対にーーーーー





「雅っっ!!」



光に飲み込まれる刹那、聞き覚えのありすぎる愛おしい声が、自分の名前を大声で叫んだような気がした。



その声に惹き寄せられるように視線を動かすと、必死な形相で走り寄りながら手を伸ばす楓の姿が…



それを見た雅は、とても嬉しそうに微笑み、ゆっくりと楓の方へ手を伸ばした。



『……お兄ちゃ


キキキキゴキキキィィィィィッッーーー



雅は最後まで言葉を発する事なく、光に飲み込まれていった。
























雅の名前を叫びながら走ってきたのは、中学生の頃の姿をした楓であった。



あれは雅の妄想か、願望か。


それとも、雅の求めた次の世界への案内人だったのか。



その答えを知る事は、雅以外には出来ないだろう。







〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓







宮川 雅 (15歳)


飛び込み自殺。



恵まれた家庭に生を享け、順風満帆な生活を送っていた雅。


誰もが憧れるような幸せな家庭環境であり、雅自身もその事に感謝を忘れず暮らしていた。



そんな中、ふいに生まれた実兄への恋心が、雅の人生を早過ぎる終わりへと導いてしまった。



一時の感情と呼ぶには長過ぎる禁断の片想いは、もしかしたら数年後には風化していたかもしれない。


事実、雅自身もこの想いが報われない事を理解しており、自分の中だけで想いを押し留めていた。


気にしないように、気付かれないように。


考え過ぎないように、落ち込まないように。




だが、雅の心中を知らない親友由梨の放った何気ない一言、


【わたしも楓くんみたいなお兄ちゃんが欲しかったなぁ】


この言葉で、雅は自分の呪われた宿命から意識を外す事が出来なくなってしまった。


自分ではどうする事も出来ない、抜け出したのに抜け出せない負の袋小路に迷い込み、思考の視野が極端に狭くなってしまった。



そんな時に楓が雅を連れ出してしまったのも、タイミングが悪かった。



公園での楓との話し合いは、消さなくてはいけない想いを更に膨れ上げさせ、どんどん通常の思考が出来なくなっていった。


諦める、諦めたくない、兄妹だから仕方ない、仕方ないで終わらせたくない。


宿命に翻弄される雅の狭過ぎる思考回路に、楓がふいに言った【俺だったら来世では絶対に他人として生まれて、見つけ出して結ばれてやるけどなっ】という突拍子も無い言葉が入り込み、雅はその言葉に希望を見てしまった。



普段の雅なら鼻で笑って聞き流していたはず。


言ったのが兄でなければバカにしていたはず。


雅が友人の為に悩み、落ち込んでいると思い込んでいた楓のいつも通りの前向きな優しさが、雅に最悪な希望を選択させてしまった。





素敵なお兄ちゃんがいて羨ましいと言った親友との日常的な会話の一端で視野が狭まり。


悩む雅とその友人に、落ち込んで下を向くくらいなら明るく前を向こうと伝えたかった兄の言葉の意味を履き違えた結果。



本来なら気にするはずもない言葉が、雅のエンディングワードになってしまった。



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