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エンディング・ワード  作者: セカンド
CASE.2 【 宿命 】
11/14

パス、電車、思い出。



コンビニから見える公園に着くと、設置されているバスケットゴールのすぐ隣にあるベンチに腰を掛けた雅は、楓に買ってもらったアイスを美味しそうに口へ運んでいた。



一方、楓はすでにアイスを食べ終えたようで、鞄からバスケットボールを取り出して指の上でクルクルと回していた。




『どうして学生鞄からバスケットボールが出てくるの?そんなの入れてたら教科書入らないでしょ?』


「ん?教科書は全部教室に置いてあるからな。授業でしか使わない教科書なんかよりも、いつでも使えるボールを持ち運ぶのは普通だろ」


『お兄ちゃんの普通は、普通の人には普通じゃないからね…』


「そうなのか?他のやつらの普通が何かはよくわかんねぇけど、俺にとっての普通はこのお手軽荷物だからなぁ」



鞄の中身がバスケットボールと財布とスマホとタオルのみの楓にとっては、普通の荷物。


これで学業を疎かにしていて赤点ばかりとっているのであれば問題だが、楓の成績は常に学年で上位に入っているので、誰も楓の生活スタイルに苦言を呈する事はなかった。



『ご馳走さま、アイスありがとうね。すっごい美味しかった』


「おぅ。よしっ、じゃあ久し振りにちょっとパス練しようぜ」


『うん。それはいいけど、もう暗いからあんまり強いパスはしないでよ。ワンバンさせてね』


「わかってるよ。軽くだ、軽く」






アイスを食べ終えた2人は、ライトアップされているバスケットコートに移動して少し距離を開けてボールを投げ合い始めた。



シュッーーダム、パシッ。



雅の提案通り、ワンバウンドを入れて緩やかに相手にボールを投げ合い、パス練というよりはキャッチボールのような感じでパスをし合う2人。



「なぁ雅、聞いてもいいか?」


『・・・なに?』



緩やかにボールを投げ合いながら、楓は雅に質問をしていいかの質問をした。


辺りは暗いが、ライトアップされているおかげでお互いの表情はある程度見えており、雅から見た楓の表情は心なしか不安そうな顔をしているように見えた。



「ピーマン、好きになったのか?」


『ーーーはい?ピーマンは嫌いだよ。どうしていきなりピーマンの話になるの?』



「ピーマン好きになったんじゃないのかっ!?」


『だからなってないってば』


不安そうな顔で話しかけて来た楓に多少の緊張が走った雅であったが、楓の口から出て来た言葉は、突拍子もない事だった。



「そうなのか…、じゃあさ、やっぱりなんかあったんじゃないのか?様子がおかしいって言ったら語弊があるかもだけど、元気がない…ってのもなんか違う気がするし。不機嫌ともちょっと違うような気がするんだよなぁ」


『・・・・・』



ピーマンの話しをされた時は呆れた顔をしていた雅の表情が、徐々に強張っていく。


楓は雅の表情の変化に気付きつつも、言葉を止める事はなかった。



「父さんは思春期が〜とか言ってたけど、俺はそういうのよくわかんねぇし、雅の様子がおかしいのを黙って見守るってのも性に合わないから直接聞こうと思ってな」



ダムッーーーパシッ。



『・・・だからわざわざこんな所に連れ出したの?』


「まぁな」



ダムッーーーパシッ。




『金欠って言ってたのに、アイスまで奢って?』


「まぁな」




ダムッーーーパシッ。




『・・・ねぇ、いつから?』



ダムッーーーパシッ。



雅から楓へ、楓から雅へ、バスケットボールと言葉のキャッチボールはゆっくりと続く。



「ん〜、決定的だったのは昨夜の飯の時だな。もしかしたら、俺が知らない間に雅がピーマンを好きになってて、それを俺が食べちゃったのが気に入らなかったのかもって一瞬思ったけど、雅の態度がおかしいかもって思ったのはもっと前からだな。

まぁ俺は最近気になり出したってくらいだけど、父さんと母さんはもしかしたらもっと前から何か思う事があったのかもしんないけどな」


『そっか・・・』



ダムッーーーパシッ。



ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、



いつから不自然な態度を取ってしまっていたのだろう。


いつから気に掛けてくれていたのだろう。


兄への恋心がバレないようにうまく隠していたつもりだったが、家族はそれを敏感に感じ取ってしまっていた。



秘密がバレてしまうかもしれないという不安と、大好きな兄が自分の事を気に掛けてくれていたという喜びが、雅の心に大きな脈を打たせた。



「ん〜、やっぱわかんねぇ。わかんねぇけど、ほっとけねぇよ」



ドクンッドクンッドクンッドクンッ、



『私の事、心配してくれてるの?』


「当たり前だろ」




もう、いいのではないだろうか…。



カンカンカンカンーーー



ふいに鳴った踏切の音。



ドクンッドクンッドクンッドクンッ。



聞き慣れた音、懐かしい音。



『・・・ねぇ、覚えてる?』


「ん?なにを?」



カンカンカンカンーーー



『私が10歳の時の事…』


「雅が10歳…?って事は5年前か……あぁ!そういえばそこの踏切だったな!」



雅の問い掛けに、少しの思考で答えに辿り着いた楓。


5年前、というヒントだけでは思い出すのも困難だったかもしれないが、カンカンカンという音とこの場所がヒントになり、すんなり当時の事を思い出す事が出来たようだ。



『うん』


「あの時はヒヤッとしたなぁ。今思い出してもちょっとブルッとするわ」



雅が問い掛け、楓が答えた過去の記憶。


2人の共通の思い出。


共通ではあるが、その出来事に対しての想いは、雅と楓では全く違う想いを持っていた。




ーーー5年前、


雅は小学5年生、楓は中学に上がって少し経った時の事。


お互いが小学生だった頃はよく一緒に遊んでいたが、楓が中学に上がった事をきっかけに極端に遊ぶ事が少なくなっていった。


当時から運動神経が良かった楓は部活動に精を出しており、休日でもチームメイト達とどこかにバスケをやりに行ってしまい、帰宅すると疲れ果てて眠っている事が多かった。



そんな生活が続いたある休みの日、久し振りに予定がなく自宅でゆっくりしていた楓が雅を誘って、この公園でバスケをする事になった。



2人で休日にバスケをするのが久し振りだった雅は嬉しくて仕方がなく、日が暮れるまで笑顔が絶える事なくずっと楓とバスケを楽しんでいた。



しかし、楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまい、楓が「腹減ったし、もう帰ろうぜ」と言って帰り支度を始めてしまった。


日が暮れ始めたばかりの夕方ではあったが、雅はまだ小学生。


暗くなる前には雅を家に帰さなくてはいけないと思った楓の、兄としての責任ある行動であったが、雅はまだ楓と一緒に遊んでいたかった。




ーーー




『あの時、私がまだお兄ちゃんと遊びたくて、お兄ちゃんに見つからないように公園から逃げちゃったんだよね』


「そうそう。振り返ったら雅が居なくなっててめちゃくちゃ焦ったっつの。マジで神隠しにでもあったのかと思ったし」



当時の事を懐かしむ様に穏やかな表情で話す雅。


そんな雅とは対照的に、楓はガクッと肩でも落としてしまいそうな様子で昔の事を思い出していた。



『ふふっ、あの時のお兄ちゃん、凄く慌ててたよね。必死に私を探してくれて、ゴミ箱の中まで探してたもんね。そんな所に入るわけないのに』



「気が動転してたんだよ。居るのが当たり前だと思ってたのがいきなり消えてたんだから仕方ないだろ。でも、ゴミ箱に隠れててくれた方が良かったくらいだけどな…」



笑顔で話す雅と神妙な顔で話す楓。



カンカンカンカンーーー


2人の会話を入り込むように、踏切の警報機が音を鳴らした。



「この音。この音が聞こえて来て、もしかしてっ!って思って踏切の方を見たら、線路の中で雅が笑いながら手ぇ振ってたんだよな」



『うん。私、あの時お兄ちゃんを見るのに一生懸命になり過ぎてて、この音が鳴ってる事に全く気付いてなかったんだよ。こんなに大きい音なのに、不思議だよね』



「不思議だよね、じゃねぇっての。俺が必死に電車ぁぁって叫んでんのに、雅ずっと笑って手ぇ振ってやがったからな」



カンカンカンカンーーー



『うん。その後お兄ちゃんが電車の方を指差して教えてくれて、やっと危険なんだって気付いたんだけど…私、迫って来る電車が怖くて、動けなくなっちゃったんだよね』



「あぁ。あのシーンはやばかった。電車が迫って来る線路に座り込んでる妹を見る兄貴の気持ちがわかるか?世界がスローモーションみたいに見えるって本当にあるんだってあの時初めて知ったからな」



『ごめんごめん。でもね、私もスローモーションになる感覚はわかるよ。あの時、お兄ちゃんが必死に走って来てくれて、私を抱きかかえて線路から助け出してくれた時に感じたから』



思えば、この事がきっかけで、大好きなお兄ちゃんから、大好きな人に変わったような気がする。




ーーーガタンゴトンッ、ガタンゴトンッ





『・・・ねぇお兄ちゃん。お兄ちゃんは、好きな人、いる?』



電車が通過し、辺りが再び静寂に包まれると、雅は声のトーンを少し下げて、楓に質問を投げ掛けた。



「ん?なんだよいきなり。好きな人?ってか最近おかしかった理由って、もしかして恋愛の悩みだったのか?父さん大正解じゃん!」



恐怖の思い出話から急に話題を変えた雅に首を傾げた楓だが、親友であり戦友でもある冴木理沙も話題をころころ変える事がよくあった為、女子はそういうものなのだと勝手に納得して雅の会話に合わせた。



「兄妹には言いにくいってんなら無理には聞かないけど、話して楽になるなら話しくらい聞いてやるぞ?」



それた話題の内容は、どうやら恋愛について。


色恋については正直なところ得意分野ではない楓であったが、最近妙に余所余所しい態度をとったり不機嫌そうな態度をとったりする事が多くなった雅の悩みの原因かもしれないと思い、真剣に話を聞こうとしていた。



ダムッーーーパシッ。




『あのね……私………』




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