風、馬鹿、チョコミント。
都会とは程遠い自然が溢れる住み慣れた町を、雅は楓の自転車の後ろに乗りながら眺めていた。
すでに太陽は完全に役目を終え、外灯と月明かりが静かな町を優しくコーティングしており、穏やかな心地良さが2人を包み込んでくれているようであった。
「涼しいなっ。雅と2人乗りなんて何年振りだ?やっぱ松とかに比べると軽いんだなっ」
『当たり前でしょ。松君と比べられて軽いって言われても全然嬉しくないけどね。松君は195センチのセンターだよ?女の子じゃなくても松君より重い人はなかなかいないよ』
「ははっ、だなっ!でも女子で松よりデカかったら良いセンターになりそうだよなっ。雅、打倒松を目指して沢山食べてデカくなってみたらどうだ?雅が松のダンクを叩き落としたら、めちゃくちゃ爽快だろっ」
『無理に決まってるじゃん。それに、私が身長2メートル体重150キロの妹になっちゃったらお兄ちゃんも嫌でしょ?』
「ん?なんで俺が嫌がるんだ?2メートルの選手とはまだ対戦した事ないし、雅が2メートルになったらおもしろい勝負が出来そうでいいじゃねーか」
『はぁ…理沙先輩が言った通り、本当にお兄ちゃんってバスケ馬鹿だよね…』
自宅を通り過ぎ、心地良い風を浴びながら前後で織り成す会話には、先程のようなぎこちなさは無くなっていた。
遠慮がちに楓の腰に手を回す雅だが、面と向かっている時よりは心境が穏やかになっていた。
心が落ち着きを取り戻す事が出来たのは、自転車の後ろからでは楓の顔が見えないという理由もあるが、楓が普段通りの態度で話してくれているからというのも大きかった。
ーーー
「おっし、着いた!」
緩やかな速度で自転車を走らせていた楓は目的地であるコンビニに着くと、雅がバランスを崩してしまわないように支えながら自転車を降りた。
『私は買うものないから外で待ってるよ』
「おぅ、すぐ戻る」
コンビニに入って行く楓を見送った雅は、久し振りに訪れた風景に視線を移した。
カンカンカンカンーーー
『こっちの方に来るの、なんだか久し振りな気がするなぁ』
自宅から見て高校とは反対方面にあるこのコンビニは、数ヶ月前まで通っていた中学校がある方面で、コンビニの前にはよく使っていたバスケットゴールが設置されている公園がある。
その少し先には遮断機のある踏切があり、静かな町にカンカンカンという小気味良い音を響かせていた。
ーーーガタンゴトンッ、ガタンゴトンッ
中学の時には休日になるとよくこの公園で由梨とバスケをしていたが、高校に上がってからは来る事もなくなっていた為、たった数ヶ月ぶりでも雅はかなり久し振りに来たように感じていた。
「おまたせっ、ほら雅」
『え、ありがとう。金欠って言ってたのに、いいの?』
公園の奥にある線路を電車が通過していくのを遠目に見ていると、楓が戻って来た。
コンビニに入ってからそれほど時間を掛けずに戻って来た楓の手には2つのアイスが握られており、そのうちの1つを雅に手渡してきた。
「おぅ。それより見てみろよ、そのアイス!抹茶とストロベリーのソフトクリームだぞ!雅の好きな味がフュージョンしてるって珍しくね!?」
『本当だっ!アイスで一緒になってるのは初めて見たっ!この組み合わせのアイスってありそうで意外とないんだよねっ!お兄ちゃん、ありがとうっ』
少し前までのセンチな気分はどこへやら、雅は好きな味のアイスクリームを受け取ると目をキラキラさせながら楓にお礼を告げた。
『お兄ちゃんは相変わらずチョコミントアイスなんだね。そんなにおいしい?私、チョコミントってなんか歯磨き粉を食べてるみたいでスイーツを食べてる気がしなんだよね』
「かぁ〜、わかってないなぁ雅はっ!このスゥーとした爽快感とチョコの甘さが交わった究極のコラボレーションの良さがわからないとはっ!いいか?簡単に例えるとチョコミントアイスってのはな、バスケットカウントワンスローって感じだ!なっ?最高だろっ!?」
『う、うん。全然わからないから、もういいや』
「まぁ雅も大人になればわかるようになるさっ。んじゃアイス食いながらちょっと公園寄ってこうぜ」
昔からアイスを買う時はいつもチョコミント味を買っている楓。
雅も何度か挑戦してみたのだがどうにも口に合わず、チョコミントを美味しそうに食べる楓を不思議そうに見ていた。
《絶対ミヤビにチョコミントのトリプルを奢らせてやるぜっ》
そこで、ふと思い出したのはクラスメイトである颯の事だった。
由梨が楓と似ていると言っていた雅の隣の席の颯も、チョコミントアイスが好きだと言っていた。
そんな些細な日常会話を思い出した雅は、男子はチョコミントが好きなんだなぁ。と1人で勝手に納得し、抹茶ストロベリー味のアイスを食べながら目の前の公園に歩いて行った。




