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エンディング・ワード  作者: セカンド
CASE、1 【 お弁当 】
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【 エンディング・ワード 】



いつもと変わらない、とある高校の昼。



午前の授業を終え、クラスメイト達の表情は待ちに待った昼休憩が訪れた事で自然と笑顔が広がっていった。


そんな光景を見ながら、桜井 春菜も周りと同じ様に教室で弁当を広げて昼食の準備をしていた。



ガタンッーー



春菜が小さな弁当箱を広げ、ツヤのある柔らかそうな卵焼きを食べようとしていると、春菜の弁当を見た3名の女生徒が明るい表情で近寄って来た。




「わぁー、春菜のお弁当可愛いっ!」


「本当だ、いいなぁ。私も可愛いお弁当作ってっていつもママに言ってるのに、いっつもママったら茶色メインのお弁当なんだもん」


「あははっ、由紀のお弁当は毎日絶対唐揚げとハンバーグが入ってるもんねっ!春菜はいいねぇ、可愛いお弁当作ってくれるお母さんがいて。私なんて毎日500円渡されて終わりだよ?せめて千円にしろって感じー」



突然近寄って来た3人は、春菜と春菜の弁当を見ながらワイワイと話し始めたが、春菜は気まずそうに俯向いて


『・・・私は、自分で作ってるから』


と、小さく言った。


それを聞いた3人は驚きと尊敬の眼差しを春菜に向ける。


「ええっ!?これ自分で作ってるのっ?すごいねっ!」


「春菜すごーい!ってやばいやばい、早く行かないと売店の50円メロンパン売り切れちゃう!じゃあね春菜ぁ」


『・・・・・』



春菜の席の近くに居たクラスメイトが、春菜の弁当を見て感想や愚痴を口にし、笑顔で手を振りながら去っていく。


その3人と春菜は特に仲が良いわけでも、仲が悪いわけでもないただのクラスメイト。


幸いな事に春菜のクラスには特別素行の悪い人はおらず、イジメなどの問題もない至って良いクラスであった。


なので、友好関係が狭くて浅い春菜であっても 浮いたり揶揄われたりする事なく、挨拶程度の付き合いで上手くクラスに溶け込む事が出来ていた。








キーンコーン カーンコーン


「ふぃ〜、やっーと終わったぁー!帰りどうする?タピる?それともコメる?」


「えぇー?最近夏美毎日タピオカ飲んでるじゃない!お昼を50円メロンパンだけで済ませてまで映えに執着する気合いは感心するけど、今日は喫茶店じゃなくて久しぶりにカラオケ行こうよー」


「カラオケいいねっ!行こ行こっー」



授業が終わり、昼休みの時よりも浮かれた表情になったクラスメイト達が楽しそうにこれからの予定を話し合い、軽い足取りで教室を飛び出して行く。


その流れに飲まれるように春菜も学校から出て行くが、行き先はカラオケや喫茶店ではなく、自宅の近くにあるスーパーであった。



『・・・・・』


通い慣れた小さなスーパー。


どこに何が置いてあるかは案内板を見なくても把握している春菜は、いつもと同じ様に食材をカゴへ入れて歩いて行く。


「あ、春菜ちゃん。今日もお遣いかい?偉いねぇ。うちのバカ息子も春菜ちゃんみたいに親孝行な子だったらいいんだけどねぇ」


何度も制服で1人で買い物をしていると、店員にも覚えられる。


今声を掛けてきた気の良さそうなパートのおばさん然りだ。


特に会話をするというわけではないが、このパートのおばさんの息子と春菜が同じ学校に通っている事が制服でわかった為、顔を合わせるといつも笑顔で話し掛けてくるようになった。


狭い町ならではの平和な光景。


春菜の日常は大体毎日この繰り返しだった。



ーーー




『ただいま・・・』


家に帰り、夕飯の準備をし、食事を済ませ、風呂に入り、宿題を片付ける。


いつもの事。


あの日から始まった、変わらない日常。





その日の夜、

いつもの様に宿題を済ませた春菜であったが、布団に入る事なく そのまま勉強机に座ったまま俯いて肩を震わせていた。


『うぅ……』


春菜は、昼間にクラスメイトが言った言葉を思い出していたのだ。



『うぅ…、私だって…お母さんが作ってくれたお弁当が…食べたいよぉ……』



消え入りそうな嗚咽は、その後 数時間止む事はなかった。




〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓






翌日。




「あー、今日は皆んなに悲しい報告がある。実は昨夜、桜井春菜が自宅で首を吊って亡くなった。遺書などは出て来ていないようで、警察はイジメの可能性もあるかもしれないと言っていた。まぁお前達に限ってイジメなどしてないと思うが、万が一 警察から何か聞かれる事があれば正直に話して 捜査に協力してやってくれ。それと、桜井の件で朝は全校集会があるから、黙祷の時にふざけて喋ったりするんじゃないぞ。それじゃあホームルームはこれまで」



春菜が通っていたクラスでは、担任が報告した現実味の無い現実にどよめきが起こっていた。


「春菜自殺ってマジ?昨日は普通だったよね?」


「普通だった!元々根暗っぽかったけど、別に誰もイジメたりはしてなかったよねー?」


「このクラスではそーゆーの無かったと思うけど、外ではどーだったかわからないからなぁ。うちら春菜と喋ったりはたまにするけど、遊んだりした事ないしねぇ」



ーーーーー


ーーー





桜井 春菜(17歳)


首吊り自殺。




春菜は3年前、家族旅行中の自動車事故で両親が他界していた。


その時、奇跡的に生き残ったのが春菜のみ。


両親を亡くした未成年の春菜は親戚の家で世話になる道もあったが、生前から両親と親戚間での関係が不仲であった為、その険悪な空気を何度も見てきた春菜は親戚のお世話になる事をやめ、祖父が一人で住む家に面倒をみてもらう事になった。


しかし昨年、祖父も病気で他界。


祖父が他界してから少しの間は祖父の家で1人で暮らしていたが、土地や家の所有権が親戚の叔父に移ったと告げられ転居を余儀なくされた春菜は小さなアパートを借りて一人暮らしを始めた。


両親の生命保険や貯金のおかげで衣食住に困る事はなかったが、この時すでに春菜の心は闇の底に落ち切っていた。




テストの点が良くても、褒めてくれる父はもういない。


家事をしても、喜んでくれる母ももういない。



そんな中、春菜の心にトドメを刺した言葉、それはクラスメイトが深い意味もなく言った


【これ自分で作ってるのっ?すごいねっ!】


であった。



自分が独りきりなのだと春菜は自覚していたが、全く関係のないただのクラスメイトの何気ない一言で、春菜の心は完全に折れてしまったのだ。






桜井春菜は孤独を抱えて死んだ。


その後の警察の調べでも、自殺の動機は両親他界による心の傷が大きいと結論付けられた。



クラスメイト達は動揺していたが、それだけ。


何年か経って同窓会があれば、話題に出るかもしれない。


だが、それだけ。


クラスメイトが可愛いお弁当を褒めた・・・それだけで消えた命であった。

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