もふもふダンジョン経営を目指した結果
「よーしお前ら。準備はいいか! きちんと『もふもふ』についての予習は済んでいるか!」
石造りのダンジョンに、主、マリスの声が響く。その声に反応した下っ端モンスター達はもふんと体をぶつけあって返事をした。
「よろしい」
口角をあげたマリスは一歩下っ端に近づくと、おもむろに指を伸ばし、彼に触れる。
指に伝わる、柔らかく包み込まれる感覚。イメージする『もふもふ』に近しいその感触に、マリスは笑みを深くした。
「準備も予習も万全の様だ。それでは、始めよう――」
我による、我のためのもっふもふダンジョン経営を!!
ひときわ大きく張られた声は、ダンジョン内を反響して外に飛び出していった。
もふもふダンジョン、攻略しませんか。
そんなくたびれたチラシが街に散見されるようになったのはつい先日のことだった。
冒険の窓口の街、そこに二か月近く拠点を置いている落ちこぼれのアンナはそのチラシを片手にふらふらと森の中をかれこれ三時間近く進んでいる。
「地図通りならこの辺……」
アンナは弱い。それはもう、道端の鳥型モンスターに負けるほどに。だから彼女は二か月もの長期間をハルティアに拠点を置き過ごしている。
しかしそんなアンナがなぜここまで生き残っているのか。それは彼女が奇跡的なまでに幸運で、奇跡的なまでに地図の行間を読む力に長けているからだった。
現に彼女は現在、子供の落書きの方がまだましという、他の大勢が投げ出した線ののたくった地図を片手に目的に到達しようとしていた。
「あ、ここ――」
「よく来たな、冒険者!!」
ついにたどり着いた開けた場所。そこに足を踏み入れた瞬間、アンナは何者からか声をかけられた。反射的にそちらを向けば、そこには猫のような犬のような、よく分からないふわふわの体毛を生やした生物がいる。
「我名はマリス。私のもふもふダンジョンへようこそだ!」
右へふんわり左へふんわり。それが動物の顔ながらドヤがにじみ出た表情で話すたびに誘うように揺れる、光をはじく柔らかな毛は酷く魅力的で、アンナはふらふら手を伸ばした。
「お、触りたいか、そうだろう!」
むにん。
それはもふもふとは程遠い手触り。
むにむにのその感触、アンナには覚えがあった。
「……すらい、む?」
スライムは擬態が得意なモンスター。ただし、見た目が変化しても体自体は変化しない。
つまり。スライムは、もふもふにはなれないのだった。
スライムがもふもふダンジョン経営を目指した結果→無理に決まっている